一目惚れだけど、本気だから。~クールで無愛想な超絶イケメンモデルが健気な男の子に恋をする話

紗々

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 葵の手紙を握りしめたまま、どのくらいの時間そうしていたのだろう。涙が枯れた頃、僕はぼんやりと顔をあげた。
 広いリビング。こんなに広かったっけ。一人でいるには、あまりにも広すぎる気がした。でも明るくて暖かい。葵が暖房を入れて暖めておいてくれたんだろう。こんなことになっても、いつものように、僕を気遣って。葵はどんな気持ちでこの部屋を出ていったんだろう。今、どんな思いでいるんだろう。
 僕は幼稚で、意気地なしだ。涙が出なくなっても、激しい後悔で体中が軋むように痛かった。立ち上がる気力も湧かない。二週間、なんて。二週間も、会えないのか。
 泣きながら何度も読んだ葵の手紙を、もう一度ゆっくりと噛みしめるように読み返した。短いその一枚の手紙の中は僕を気遣う言葉で溢れていた。嫌いにならないで、って。僕の方こそ、もう嫌われてしまったかと思った。葵と僕は、ただの友達なのに。二週間、葵がこの国に、この部屋の中にいないというだけで、こんなにも辛いなんて。今まで友達との別れでこんなに苦しかったことってない。
 僕、待っていていいの?本当に?
 たくさんお土産を買って帰るから、って。優しい葵。帰ってきたら、今度こそ僕は満面の笑みで葵を迎えるんだ。目を見て、ちゃんとお帰りなさいって言おう。そしていっぱい謝ろう。
 だから、どうかお願い。
 無事に、元気に帰ってきて。

 僕は一日中、この部屋で一人で過ごした。葵がいない孤独を噛みしめていた。自分を罰するように。


 その夜もなかなか眠れず、ベッドから起き上がる気力もなかった次の日の昼頃。
 スマホの着信音が鳴った。
 …葵?!
 僕は慌ててスマホを見る。…圭介だった。

「…もしもし」
『おー。起きてたか?』
「…うん」
『なんかさっきライン見たらよ、あいつ、葵、海外行ったって?璃玖のこと頼むとか書いてあったからよ。何で俺には事後報告なんだよ。お前知ってたのか?』
「……。」
『……?おい?もしもーし』
「…………。」
『璃玖?聞いてるか?……おーい!もしもーし!』
「…………っく」
『?……璃玖?』
「……うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
『?!………は?!』


 数時間後。圭介がマンションまでやって来た。僕は事情を曖昧に伏せつつ、葵とここ数日気まずい状態だったこと、自分の未熟さが原因で和解できないまま葵が旅立ってしまったことをポツリポツリと話した。話しながら、また泣けてきた。

「……はぁーん…。なるほどなー…」
「…も、申し訳なくて……。僕が未熟で、す、素直になれなかったから……。ひぐっ……。……ぁ、あおい…………あおいに……」
「……はぁ。なんでお前ら、そんなややこしいことになってるんだ…」

圭介ががっくり肩を落とす。そして言い聞かせるように、僕にゆっくり話しかける。

「そうかそうか。それで?お前はなんでそんなに泣けてくるんだ?」
「……だ、だがら、け、喧嘩みたいに……なっだまま、……もう、あ、会えない……。に、二週間も……。けんか、じゃ、ない、げど」
「鼻水垂らすな。情けねーなほんと。たった二週間だろーが。また戻ってきたら一緒に過ごせるんだろ?なんでそんなに悲しいんだよ」
「…………。」
「友達なんだろ?ただの」
「………え?」
「葵は、お前の、友達なんだろ?」

僕にティッシュを箱ごと渡しながら、圭介はゆっくりと区切りながら話しかけてくる。

「……う、うん」
「……。そうなんだな?」
「うん」
「……。」
「……。」
「……はぁ」
「……?な、なに?」

なんだか呆れたように溜息をつかれて、僕は不安になってくる。何?僕、何か間違ってるの?

「……いや。ならいいじゃねぇか。二週間なんて仕事して寝るを繰り返してりゃあっという間だって。帰ってきたら今度こそゆっくり話せよ。葵は大丈夫だからさ。何があってもお前から離れたりしねーよ」
「……なんでそんなこと言い切れるの?」
「逆になんでお前には分からねーんだよ!アホか!鈍感の極みか!!」

突然圭介が叫ぶから僕はビクッとなった。

「お、大きい声出さないでよ、急に。ビックリするじゃん」
「あぁ、わりぃ。ついな。お前があまりにもアホすぎて」
「は?へ?」

泣き腫らした顔で本当にアホみたいな声を出してしまった。何故圭介がこんなに興奮したのか分からない。どうしちゃったんだろう。

「…まぁいいや。とにかくお前は葵のことでグジグジ悩まずに、毎日飯食って元気に生きてろ。すぐ帰ってくるからあいつは。二週間なんてマジであっという間だぞ。俺はもう行く。アパートにも寄りてーからな」
「え、あ、ご、ごめんね、いつも…。ありがとう。…一人で大丈夫?」
「おー。運良く根暗ストーキング野郎に遭遇したら首根っこ捕まえてここまで連れて来るから待ってろ」
「や、連れて来ないで…。警察行こうよ…」
「なんかあったらちゃんと連絡するから安心しろ。お前もな、またなんかあったら連絡しろ。いいな?」
「うん。ありが…」
「目がパンパンで見てられねーぞ。もう泣くなよ。お岩さんかよ」
「……。」

立ち上がって玄関に向かいながら、まるで陰口を言うようにボソッと、

「鈍感」

と呟いて出ていった。
バタン、とドアが閉まる。

「…………。」

……だから、何のことなの……?

 僕は訳が分からず溜息をついた。でも、圭介に話を聞いてもらって少し気分が軽くなったのも事実だ。うん。そうだよね。二週間。二週間なんて、あっという間だ。待っている間、部屋をピカピカに磨いておこう。平日の仕事に行ってる時間帯にハウスキーパーさんが入ってお掃除してくれてるのは聞いてるけど、でも僕も細かいところまでしっかり掃除しておくんだ。葵がビックリするくらい、最高に綺麗な部屋にしておこう。帰ってきたら美味しいご飯を食べてもらうために、新しいレシピも研究しておくんだ。きっと喜んでくれる。僕の気持ちを、ちゃんと行動で示すんだ。葵が僕に優しくしてくれるように、僕も葵に優しくしたいんだって、伝わるように。
 僕にとって、葵がすごく大切な……、友達だって、分かってもらうために。


 その日、夜寝る前に圭介にラインをした。

『今日は話聞いてくれてありがとう。無事に帰ってる?アパートの方、大丈夫だった?』

すぐに返信がくる。

『おー。今日はなんも異常なし。手紙もなし。不審者にも出くわさなかった』
『ならよかった。おやすみ』
『おやすみ。鈍感小僧』

「…………。」

 だから。
 鈍感小僧って、何?!



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