終末学園の生存者

おゆP

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第二章

『舞台裏の散華』(1)

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1.
 モニターには少年が一人と、少女だった物が一つ映っていた。
 少年、御波透哉は動かない。
 作業を終えた機械のように直立不動を保っている。
 その足下には、無残に殺された制服姿の春日アカリが転がっているが、視線さえ向けない。

「これが彼の本性か! 喝采だねぇ!」

 殺希は仰向けに寝転んだまま赤い瞳をギラつかせ、興奮した声を噴煙のように上空に吐き出す。
『雲切』を構え、踏み込みと共に一太刀。
『片天秤』を解除する前に存在した透哉の躊躇や抵抗、それらを嘲笑うように結末はあっさりとしたものだった。

「はしゃいでいるところ悪いけれど、今と同じものを記憶の上乗せを行いながら十回ほど追加できるかしら?」

 静止画像と化したライブ映像を満足げに見て湊は言う。
 過剰に私怨を滾らせた湊の要望に、殺希はすっと目を閉じ、いつもののんびりとした口調で答える。
 
「ほほぅ、悪趣味だねぇ。余程根に持っているのかな? 私の娘を」
「模造品で我慢してあげるんだから安いものでしょ?」

 非難する風に言いつつ、殺希は手元のコンソールを操作すると、要望通りアカリを戦場に放つ。そこに娘と呼称する物への情けはない。 
 それどころか、湊の要望をピックアップし、さも名案であるかのように採用を決める。
 たった数個のボタン操作で同じ悪夢が戦場で再現された。
 この異常を糾弾できる者はモニター前には愚か、施設内に誰一人いなかった。


 血生臭い戦場と化した地下訓練施設の敷地内で、一人の少女が右往左往している。
 顔に貼り付くのは恐怖や不安より、不可解な出来事に対する疑問。
 何故自分はこんな見覚えのないところにいるのか。しかし、少し前に見た気がする、という具合に。
 そんな曖昧な感覚が同じように繰り返されている。

(これは、夢? だとしたらなんで同じなの?)

 夢中を疑うほどに、記憶が飛んでいる。奇妙な既視感を携え、現実味のない今を、虚ろを、彷徨う。
 記憶を頼るなら、同じ景色を体験として三度繰り返している。
 けれど、根本の記憶に信頼が置けないため、三度と言う回数が正しいのか断言できなかった。
 そして、回数は別として、意識は唐突に途切れるのだ。
 アカリは今も同じ場所で起こる、似た体験を味わっていた。
 終わったはずの悪夢を繰り返すように。
 そして、足音の接近が記憶を呼び起こす。

「あ、」

 意識が途切れる寸前、誰かが目の前に現われる。
 少しずつ塗り重ねられていく記憶が、真相を脳裏に投影する。
 一度目から三度目はその理由がわからなかった。
 四度目の今となってようやく理解する。

「……私が殺されている?」

 徐に呟いて見ると意味が分からない言葉が生まれた。
 殺されていたら、今こうして無傷でいるはずがない。
 何かのシミュレーションにしては、体の感覚ははっきりしている。
 理解が追いつくに連れ、積もった疑問が徐々に姿を改め始める。
――疑問は不審へ。

「とりあえず、回りのようす―――を」

 一歩踏み出すと別の場所にいた。
 もう訳が分からない。
 ゲームの世界で無作為に転送されている気持ちになる。
 しかし、それでも現状を把握するべく散策を開始、しようとしてまた意識が途切れた。
――不審は不安へ。

 六度目にして、ようやくそれ・・を目にした。
 暗い敷地内の固い地面の上に誰かが倒れている。
 無意識に足は進みだし、気付くと走っていた。
 近づくに連れて様相が鮮明になる。体型は自分と同じくらい。迷彩柄の服を着ているせいか、性別ははっきりしない。

「って、あなた大丈夫!?―――ひぃ!?」

 近づいて声をかけ、異常に気付く。
 倒れた人影には頭部がなく、夥しい血の上で微動だにせず死んでいた。
 そして、その傍ら、自分と同じ顔をした頭部が目に映った。
 背後からの足音を耳にしたところで意識は途切れた。
――不安は恐怖へ。

 七度目、大量の冷や汗が体中から吹き出ていた。
 自分が首を切られて血だまりの上で死んでいた。
 この状況に納得のいく説明をするなら夢以外にあり得ない。
 もし、現実だとしたら、死ぬ度に新しい体で別の場所に置かれていることになる。
 仮説としても余りに馬鹿げている。
 アカリは情報を求め、当てもなく走った。
 そして、すぐに先程目にしたものとは姿勢の違う人影に遭遇する。
 しかし、頭部がなく判別できない。
 足を止めず、血だまりを踏み、似た状態の死体を散見し、そのいくつかの顔を見て血の気が引いた。
 全てが自分と同じ顔。
 そして、その中には今の自分と同じ、制服姿の者もいた。
 ついさっき自分がいた場所に、記憶通りの格好をした自分の死体が転がっていた。
 今日起こった不気味な出来事が、同じフロアで起きたことの証明だった。
 極度の困惑はアカリから悲鳴も奪った。
 その背後。
 地面を軽く叩く音が迫ってくる。意識が途絶える寸前に必ず耳にする、死神の足音だ。
 アカリは服が汚れることも気にせず、反射的に地面に伏せた。今に至るまでの経験値が、無意識にその動きをさせた。
 制服の胸部に、べっとりと赤黒い液体が張り付き染みこむが、気にする余裕はない。
 しゃがんだ際に頭上を、何かが高速で通り抜けた。遅れて舞い落ちてきた髪の毛が、命の瀬戸際と、続行される悪夢を告げる。
 顔を上げると、色のない瞳をした少年がこちらを見下ろし、立っていた。
 その手に握られているのは赤い刀。
 対話を求めて口を開いた時には、刀が左胸を貫いていた。

「あ―――」
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