終末学園の生存者

おゆP

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第二章

第13話 雪だるま懐柔戦線。(1)

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1.
 昼休み、二年五組の人心を掌握して統治を終えた透哉は次なる行動に出る。
 七夕祭実行委員長、貫雪砕地の懐柔だ。
 予め買い込んでいた昼食用のパンを二分で平らげ、教室を出発する。
 本来なら合わせて松風の餌の準備もするのだが、慌ただしい透哉の様子を見かねたのか、その役目を茂部太郎が買って出た。

「御波、ここは俺に任せてお前は先に行け」
「茂部、任せていいのか?」
「ああ、そっちは頼んだぜ!」

 貫雪砕地のところに早く行きたい思いから今日のところは茂部に任せることにした。
 バトン代わりの缶詰を手渡し、声援を受け教室を後にした。
 透哉の思惑通り松風の扱いには多少の後ろめたさがあったのだろう。それを考慮しても嬉しい変化だった。
 早足で歩きながら無意識にほころんだ表情を改める。
 クラスの理解を得ることは、計画全体の第一段階にも達していない。こんな序盤で気を抜くことは許されない。
 夜ノ島学園の二年生の教室と三年生の教室は渡り廊下で隔てられ、別々の校舎に属している。
 渡り廊下の扉を開け放つと、通路が三年生の校舎へと真っ直ぐ伸びている。一般の二年生なら、上級生の犇めくエリアへの進行に少なからず恐れを抱くのが普通だ。
 しかし、透哉の足取りに乱れはなく、扉の前にたむろしていた三年生の前を堂々と横切り、通過した。
 扉を潜るとそこは完全に三年生の領域。漂う空気の違いに流石の透哉も気を引き締める。
 野外ステージの素案を携え、覚悟の表情で上級生の往来の中を単騎で傲然と進む。
 廊下ですれ違った三年生達が時折透哉の方を振り返る中、目的の教室に至る。
 貫雪砕地と七奈豪々吾の在籍するクラスだ。
 下級生にとって学園内で職員室に次ぐ近寄りがたい部屋である。
 直接砕地に声をかけられたら手っ取り早いのだが、透哉は取り次ぎを頼みやすいという理由から知人である豪々吾の姿も同時に求めた。
 二人のいずれかの所在を確認しようと教室を覗き込もうとした矢先、

「おうおう!? ブラザーじゃねぇか! まさか決闘の申し込みか!?」
「まさか、廊下側の席とは考えてなかった」

 探すまでもなく廊下中で反響するほどの声量が透哉を出迎えた。
 入り口のすぐ隣の席で焼きそばパンを囓っていた豪々吾は目の色を変えて大はしゃぎである。
 透哉としては戦場に入った途端に地雷を踏んだ兵士の気分だった。豪々吾にすぐに出会えたのは幸運だったが、明確な目的があるので時間を浪費することは避けたい。

「悪いがそいつは今度にしてくれ」
「なんでぇ、つまんねぇ」

 豪々吾は焼きそばパンを口に突っ込みモゴモゴと咀嚼すると、次の焼きそばパンに手を伸ばす。改めてみると豪々吾の机の上には焼きそばパンが更にもう一個乗っている。
 食欲旺盛なのはいいが偏食が過ぎる気がした。

「何だ、昼飯全部焼きそばパンかよ」
「知っているかブラザー? この世界で一番うまい食べ物は焼きそばなんだぜ?」

 それは初耳だ。豪々吾は紅ショウガを頬に付けてのご尊顔である。
 いつも通り話が脱線しかかっているので、透哉は即座にこちらの要件を突きつけて暴走する前に線路に戻って貰う。

「貫雪砕地に用があるんだけど」

 その名前を上げた途端、教室に居合わせた数名が反応を見せた。
 急に会話が途切れたり、不意に手が止まったりといった反射的な挙動。下級生が上級生をフルネームで呼び捨てした暴挙への反応とは違う。透哉は僅かな反応を視界の隅で捉えながら、口にした名前の影響力を知り、更に分かりやすい形で思い知る。
 焼きそばパンを囓ろうとしていた豪々吾が手を止め、訝しげにこちらを見上げていたからだ。

「あいつに何の用があるんだ?」
「――七夕祭実行委員として用があんだよ」
「そっか、それなら問題ねえな」

 豪々吾の冷め切った声に透哉は一瞬躊躇した。
 もっと強い跳ね返りを予測していた透哉は、どこか安心した様子の豪々吾に驚いた。

「らしくねぇな。誰にでも突っかかって行くのが豪々吾様じゃねーのか?」
「あいつには喧嘩ふっかけたことなんてねーよ……それより、あいつなら昼は多分屋上だ」

 透哉は妙にテンションの低い豪々吾を茶化したつもりだった。「当たりめぇだぜ! 俺様だぜぇ!?」と勢いのある返事で笑い飛ばして欲しかった。
 変質した奇妙な気配に触れるべきではないと悟り、屋上に向かうことにした。

「ああ、分かった。助かった」
「――寮に戻ったときにでも教えてやるよ」
「……ああ、わかった」

 教室を出ようと踵を返した透哉に豪々吾が目を合わせることもなく小さく言った。
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