終末学園の生存者

おゆP

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第二章

『乙女の胸騒ぎ』

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 透哉の制止を振り切り、野々乃は前も見ずに廊下を駆け抜けた。
 突き当たりで曲がると、荒い息を吐きながら壁に背を預ける。
 幸い、足音は追ってこなかった。
 教室で資料の整理があると言っていたし、自分の作業に戻ったのだろう。

「はぁ、はぁ……っ!」

 額を軽く撫でるとじんわり汗が滲んでいたが、初夏の暑さや急に走った事が原因ではなかった。
 激しい動揺が原因だ。それに起因して乱れた呼吸も、なかなか収まらない。
 数度の深呼吸の後、野々乃は落ち着きを取り戻し、思い返す。
 野々乃は透哉の通話を隣で全て聞いていた。その間に鼓膜を叩いた奇妙なワードの数々。
 十二学区だの、アイドルだの。
 危機感を覚える頻度が高すぎて逆に全ての危険が薄れてしまうほどだった。
 最初のうちは好奇心から聞き耳を立てていたが、徐々に不安が押し寄せてきた。

『十二学区にお知り合いがおられますの?』
『知り合いって言っても一回会っただけだぞ?』

 野々乃は自分の中に生まれた気味の悪い引っかかりの解消にと思って、透哉に質問を繰り返した。

『え、じゃあ十二学区に足を?』
『まぁな。この前、源と行った』

 結果、透哉は隠す素振りも見せず、大っぴらに話し、言い淀むこともなかった。
 だから、全てが事実。
 十二学区を最近訪ねたことも、そこに知人がいることも、驚くべきことだった。
 だが、動揺を招くほどのことではない。
 原則、十二学区への訪問は禁止されていないし、行こうとすれば行ける。
 ただ、望んで足を運ぼうとする者がいないと言うだけだ。
 夜ノ島学園は十二学区への入学を希望して適正なしと弾かれた者が貯まった掃き溜めなのだ。
 向上心から十二学区への編入を夢見て見学を希望する者もゼロではないが、施設の落差と待遇の違いに打ちのめされて殻に籠もるように戻ってくるのが関の山だ。
 日頃の透哉からそんな姿は想像できないが、野々乃の危惧も動揺もそんなことではない。
 極論、透哉が十二学区に出入りしようが、中の生徒たちと交流があろうが、野々乃の気持ちは変わらないのだ。
 問題は、同行者に源ホタルがいたこと。単純な嫉妬では片付けられない。
 先日、クッキーの材料を買いに出かけた際に偶然知った、ホタルもこちら側・・・・と言う情報。
 そのホタルと同伴で十二学区へ行ったと言われれば、どうしても良くない方にばかり考えが転がってしまう。
 もしも、ホタルが透哉を気になる異性として外出に誘い、目的地を十二学区に選んだのであれば透哉は白だ。
 けれど、日頃の言動を見る限りその線は薄いと野々乃は考えた。
 結果、浮き彫りになるのは色恋とは異なる信頼関係のようなものだ。

(じゃあ、お兄様も……ワケアリですの?)

 当然導き出される答えである。
 ストーカーである前に、恋する乙女として胸騒ぎを抑えられなかった。
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