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第一章
第2話 ひび割れる日々。(7)
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7.
透哉は眉を顰めた。
豪々吾がゆっくりと姿勢を低くすると両拳を地面に当て、クラウチングスタートのように構えたからだ。
「い・く・ぜ・ぇ・!」
豪々吾は踏み切ると同時、足の裏と背後を爆発させ強烈な加速度で透哉に猛進する。
放たれるのは加速で威力が倍増された上に炎を纏った跳び蹴り。
もはや、蹴りと言うより、巨大な熱源の突進。
透哉はその衝撃と軌道を的確に見切り、易々とかわす。
「っと、あちぃなっ」
かなり余裕をもって回避したはずなのに余波で頬が炙られた。ヒリヒリと痛む頬を手で拭うと苛立ちを込めて豪々吾を睨む。
「さすがだと言いたいが、甘いぜ!? ブラザー!」
続けて豪々吾は大きく足を振り上げると空気を蹴った。
不意に景色が揺らぐ。
「――っ!!」
空振りに見えた攻撃を脳で理解する前に透哉は真横に飛んだ。
豪々吾が蹴ったのは紛れもなく空気。ただし、高温の熱気を帯びた不可視の灼熱。
透哉に避けられ、行き場を失った熱風は延長線上にあった植木を直撃。瞬く間に発火して炭にした。
「しかし、よう。やっぱ外はいいなぁ。内なる野生が解放される気分だぜ」
「あんたの場合、常には野生ダダ漏れだろ」
「今朝はスプリンクラーの邪魔が入っちまったが、今度はそうはいかねーぜ!?」
「安全のための設備に何言ってんだ」
今度は逆に透哉が地面を蹴った。
少し遅れて豪々吾も踏み出し、熱を凝縮させて作った炎弾を両手で撃ち放った。
しかし、透哉は先兵の炎弾に臆することなく手刀を構え、流れるような動作で両断する。
当然、炎弾は熱風を伴う爆発を起こすが、透哉は煙も衝撃も炎さえも顧みず進撃し、再び手刀で軽く凪ぎ払う。
まるで暗幕を払うように煙と炎のヴェールを切り裂き、容易く突破する。
「目くらましか? 血の気の割りに意外と狡いことするんだな?」
透哉はニヒルな笑みを浮かべて豪々吾を挑発する。
「かかか、さすがブラザー! 相変わらずわけわかんねぇ能力だな!」
「俺の手刀は特別でな」
あと一歩で拳が交わる間際で双方の視線と勇姿が激突する。
透哉が間合いを測るより先に、豪々吾は爆発の推進力で急加速すると火焔を滾らせた右拳を叩き込む。透哉はその軌道を完全に見切り、熱を纏った拳を内から外に向かって弾く。
「おせぇよ!」
「なんだと!?」
驚愕の声とともに豪々吾の体勢が大きく揺らぐ。
透哉は、体を沈めながら豪々吾の懐に滑り込むと反動を利用して真下から蹴りを穿つ。
咄嗟に片手で防御した豪々吾だったが、透哉の蹴りは防御諸共豪々吾に突き刺さった。
「ぐぁあ!?」
刹那の攻防は瞬く間に決着した。
豪々吾は苦悶の表情を浮かべる。
そして、本人が発する熱によって生み出された上昇気流も相まって豪々吾の体は軽々浮き、火の粉をまき散らしながら直線軌道で実習棟の窓ガラスを突き破って部屋の一つに転がり込んでいった。
蹴り上げた足を下ろした透哉は、割れた窓ガラスを見上げる。
「やっべ」
今になってあることを思い出し、暑さとは違う理由でどっと汗が噴き出す。
透哉は眉を顰めた。
豪々吾がゆっくりと姿勢を低くすると両拳を地面に当て、クラウチングスタートのように構えたからだ。
「い・く・ぜ・ぇ・!」
豪々吾は踏み切ると同時、足の裏と背後を爆発させ強烈な加速度で透哉に猛進する。
放たれるのは加速で威力が倍増された上に炎を纏った跳び蹴り。
もはや、蹴りと言うより、巨大な熱源の突進。
透哉はその衝撃と軌道を的確に見切り、易々とかわす。
「っと、あちぃなっ」
かなり余裕をもって回避したはずなのに余波で頬が炙られた。ヒリヒリと痛む頬を手で拭うと苛立ちを込めて豪々吾を睨む。
「さすがだと言いたいが、甘いぜ!? ブラザー!」
続けて豪々吾は大きく足を振り上げると空気を蹴った。
不意に景色が揺らぐ。
「――っ!!」
空振りに見えた攻撃を脳で理解する前に透哉は真横に飛んだ。
豪々吾が蹴ったのは紛れもなく空気。ただし、高温の熱気を帯びた不可視の灼熱。
透哉に避けられ、行き場を失った熱風は延長線上にあった植木を直撃。瞬く間に発火して炭にした。
「しかし、よう。やっぱ外はいいなぁ。内なる野生が解放される気分だぜ」
「あんたの場合、常には野生ダダ漏れだろ」
「今朝はスプリンクラーの邪魔が入っちまったが、今度はそうはいかねーぜ!?」
「安全のための設備に何言ってんだ」
今度は逆に透哉が地面を蹴った。
少し遅れて豪々吾も踏み出し、熱を凝縮させて作った炎弾を両手で撃ち放った。
しかし、透哉は先兵の炎弾に臆することなく手刀を構え、流れるような動作で両断する。
当然、炎弾は熱風を伴う爆発を起こすが、透哉は煙も衝撃も炎さえも顧みず進撃し、再び手刀で軽く凪ぎ払う。
まるで暗幕を払うように煙と炎のヴェールを切り裂き、容易く突破する。
「目くらましか? 血の気の割りに意外と狡いことするんだな?」
透哉はニヒルな笑みを浮かべて豪々吾を挑発する。
「かかか、さすがブラザー! 相変わらずわけわかんねぇ能力だな!」
「俺の手刀は特別でな」
あと一歩で拳が交わる間際で双方の視線と勇姿が激突する。
透哉が間合いを測るより先に、豪々吾は爆発の推進力で急加速すると火焔を滾らせた右拳を叩き込む。透哉はその軌道を完全に見切り、熱を纏った拳を内から外に向かって弾く。
「おせぇよ!」
「なんだと!?」
驚愕の声とともに豪々吾の体勢が大きく揺らぐ。
透哉は、体を沈めながら豪々吾の懐に滑り込むと反動を利用して真下から蹴りを穿つ。
咄嗟に片手で防御した豪々吾だったが、透哉の蹴りは防御諸共豪々吾に突き刺さった。
「ぐぁあ!?」
刹那の攻防は瞬く間に決着した。
豪々吾は苦悶の表情を浮かべる。
そして、本人が発する熱によって生み出された上昇気流も相まって豪々吾の体は軽々浮き、火の粉をまき散らしながら直線軌道で実習棟の窓ガラスを突き破って部屋の一つに転がり込んでいった。
蹴り上げた足を下ろした透哉は、割れた窓ガラスを見上げる。
「やっべ」
今になってあることを思い出し、暑さとは違う理由でどっと汗が噴き出す。
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