終末学園の生存者

おゆP

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第一章

第1話 歪み始めた日常。(11)

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11.
 石壁に囲まれた一室。
 そこに音もなく発生した白いマントは少年を一人吐き出した。
 舞台袖から颯爽と現れる役者のような華やかさはなく、打ち捨てられた人形のように粗雑で無造作な扱いだった。

「――いってぇ……園田の野郎、もうちょっとやり方はねぇのか」

『白檻』の能力の一つ、強制送還で本来の自分の部屋に帰還させられた透哉はほとんど落下に近い形で地面に着地した。
 空中を跳びながら無理な体勢で敢行したことが祟ったのは明白だったが今更愚痴っても仕方がない。
『白檻』を片付けて起き上がると顔と服に付いた埃を軽く落とし今日の出来事を省みる。
 ホタルの予想外の奮闘に『白檻』を使われる羽目になったが、これに関しては不可抗力だった。ホタルを侮っていた事実は否めないが、知っていたからと言って逃れられる速さではなかったからだ。
 根本的な原因は事前に得ていたパトロール情報を忘却していたこと(不法侵入に関しては反省に該当しないと思っている)と結論付け薄暗い部屋の中溜息を吐いた。

「本人から聞いて忘れてりゃ世話ないわな……」

 それにしても、何度来ても居心地の悪い場所だなと透哉は思った。
 ここは夜ノ島学園の地下、罪人であるエンチャンターを収容する監獄の一室で広さがおよそ十二畳の奥まった独房である。天井はなく吹き抜けになっているが外部につながっている様子はなく、延々と四角く切り取られた空間が上空に伸びている。出口は格子付きの木製の扉があるだけでそれ以外は全面石壁に閉ざされていた。
 そして、どういう仕組みかは知らないが室内は常時一定の薄暗さに保たれていて今が夜か昼かの区別もままならない。
 そんな広い割に息のつまりそうな空間にベッドと机とクローゼットが不法投棄されたみたいに雑然と並べられている。
 望めばある程度の改築は認められるのだが、透哉にその意思はない。こんな閉鎖的な場所に住みたくないことは当然だが、それ以上に現在の住処(というよりプレハブ)に執着する子供染みた我が儘からと言う意味合いが強い。
 六月にしてはひんやりと冷たいが、この場所には年間通じて鬱屈とした空気が立ち込めている。
 透哉は面倒くさそうな足取りで出口へと向かう。木製の扉に鍵はかかっておらず軽く押すだけですんなりと開いた。室内の澱んだ空気が逃げ場を求めるように隙間から溢れ通路へと流れ出ていく。
 牢獄としては杜撰とも思えるが、『白檻』と言う移動性の檻を持たされている時点で透哉は閉じ込められているのである。
 この形だけの意味をなさない檻はあくまで帰る場所のない透哉に用意された部屋でしかないのである。
 部屋から通路に出たからと言って鬱屈とした空気は晴れない。それどころか室内と同じような雰囲気の通路がまっすぐ伸びているだけで何もない。
 横道も他の扉もない迷いようがない、迷い込むことさえできない一本道の迷宮がそこにあった。通路に出て約十メートル、新たな扉が薄暗い通路の奥に浮かび上がった。

(なんて説明すりゃいいんだ?――あ、適当でいいか)

 かなり投げやりな調子で考えているうちに所長室と書かれた扉の前まで来ていた。
 自分の部屋を与えられて幾星霜、もう数えるのも馬鹿らしいほどの訪問の一回として透哉は扉を蹴破った。
 嫌悪感を剥き出しの粗暴さはこの奥に待機する者への稚拙な反抗心の表れである。
 しかし、この部屋の主はそんな稚拙な蛮行に慄く存在ではないし、逐一気を立て相手をする親切心も持ち合わせていない。

「ふん、」

 透哉は鼻を一つ鳴らすと堂々と敷居を跨ぐ。
 全くどういった仕組みなのか。
 地下監獄の延線のこの部屋は学園内の学長室と繋がっていて、目の前には板の間の洋室が広がっていた。暗幕の引かれた窓を背に構えられた大きめのデスク。壁沿いに設けられた棚には何に使うのか分からない分厚い本が敷き詰められている。この場の空気を重くするために置かれている風にしか見えない。
 その反対側に掛けられた歴代の学長の写真は現職者一枚のみ。
 開校してまだ二年であること、他にこの学園を仕切れる人間がいないと言う点から当分別の写真が飾られることはないだろう。
 入口の真正面には独特の重圧を発する応接用のソファとテーブルが身を構えている。
 そんなことを意に介さず透哉は奥のデスクに向けて声を上げる。

「園田っ!」
「ん?……その声は透哉君か?」

 透哉の不躾な呼びかけに答えた男、園田凶平そのだきょうへいはデスクに伏せていた顔を上げた。その拍子に傍らに積んであった本の山は崩れ、書類が床に散乱したが気にする気配はない。
 埃が積もったような灰色の頭髪に精緻なつくりをした顔の細身の青年である。細いメガネの奥の双眸は糸のようにさらに細く、緩慢な動作も相まって迫力や威厳はまるでない。
 白衣を纏った装いは研究者のようだが、歴とした夜ノ島学園の学長である。学長と言う立場にありながら全く表舞台には姿を現さないことでも有名な異色の存在。
 学園の全体朝礼や職員会議にさえ顔を出さず、業務そのものは厳選された数名の職員を介して行う。本人は専らこの場所から裏で暗躍する徹底ぶり。
 そして、地下監獄と言う非公開の部署を独力で開設し、囚人である〈悪夢〉の管理をする裏面を持ち合わせている、自らも〈悪夢〉という異端中の異端。
 園田はふらふらと席を立ち、無音無動作で忽然と透哉の隣に現れた。

「――っ」

 吹き出した嫌な汗が頬を伝う。
 底の知れない化け物への畏怖は時折リアルな恐怖となって訪れる。
 目を横に向けた先にあるのは自分よりやや背の高い痩身。それが人間のように歩幅を刻み、応接用のソファに腰かけると懐から(決して収まるような物ではない)ワインボトルとグラスを取り出した。

「学長室で酒盛りとは言い身分だな」

 園田は透哉の方に僅かに顔を傾けるとうっすらと意味深な笑みを浮かべた。

「僕は〈悪夢〉だ。後ろ指を指されることには慣れているさ」

 透哉の皮肉を軽く受け流し、園田は愉快そうに笑う。
 罪を犯したエンチャンターの蔑称として〈悪夢〉と言う言葉自体は以前から存在していたのだが、世間のエンチャンターへの関心の低さ、前例の少なさから余り知られてはいなかった。
 そんな中起こった十年前の事件。
 当時エンチャンター専科の学校としては国内最大とされていた国立夜ノ島学園。その陥落が世間に与えた衝撃は大きくエンチャンターの存在自体に恐怖を植え付ける代名詞的な事件だった。
 世間の注目は否応なしに夜ノ島学園およびエンチャンターに集まり、連日報道された。それに拍車をかけたのが事件そのものの不透明性。それらが誤った認識を生み、無関係なエンチャンターまでもが被害を被った。
 面白がって捲し立てる報道やゴシップにも歯止めがかからず今となってはエンチャンター=〈悪夢〉と言う誤解が浸透するほど世間に嫌悪されている。
 再建された現在の夜ノ島学園も風評にさらされたエンチャンターを守るための施設と言う意味合いが強い。しかし、世間は全国から集められた〈悪夢〉を幽閉する収容所と大きく誤解している。
 一部問題がある生徒が囚人として押し込まれているグレーな部分もあるが、世間を騒がせるような事件には発展していない。
 透哉にとって園田は恩師なことには違いないのだがどうも馬が合わない、と言うか苦手だった。
 ドアを蹴破ったり呼び捨てにしたりと透哉は園田に対し一貫して不遜で高慢な態度を取っているが、実は恐怖の裏返し。お化け屋敷に勢い勇んで飛び込むような幼稚な足掻きに過ぎない。

「いつまでそんなところに立っているんだい? こちらに座るといい」

 バサッ――

「っ!?」

 透哉は身に起きた先刻と同じ出来事に絶句する。突然目の前が暗くなったと思ったら、いつの間にか園田の正面のソファに座っていた。
 園田に遠隔操作された『白檻』で強制的に移動させられて座らされていた。ホタルから逃げ切ったときにしても、こういった些細なことの積み重ねが透哉の心に恐怖となって根を張っている。
 額の冷や汗を拭う透哉の正面、ラベルに目を通す園田の顔が愉悦に染まる。獲物に食らいつく猛獣が可愛らしく見えるほどの獰猛さを見せる園田を前に透哉は怯まない。
 表向き夜ノ島学園の学長を、裏向き地下監獄を管理する園田凶平のことを透哉は実はほとんど知らない。
 と言うのも、透哉はこの男の年齢はおろか、出会った日以前の生い立ちを一切知らない。人間とは言い難いクラスメイトもいるが、それを込みでも目の前の男は得体が知れず未知の存在である。
 自分と流耶の手綱を握っているあたりからも園田の力は計り知れない。〈悪夢〉と言う同カテゴリの存在のはずなのに全く別格に感じてしまうほどに。

「透哉君も飲むかい?」

 園田はテーブルに置いたグラスとは別のグラスを差し出しながら言った。

「俺は未成年だ!」
「殺人を経験しておきながら飲酒には抵抗があるのかい?」
「――っ!?」

 何の躊躇いもなく飲酒を勧める点、過去のトラウマを容赦なく攻撃してくる点、およそ教師とは思えない振る舞いを見せる園田が苦手だった。
 言葉に詰まる透哉をよそに園田はボトルを一気に呷る。テーブルの上では空のまま放置されていたグラスが空しく輝いている。

「グラス意味ねぇ!」

 真面目に受け答えするのが馬鹿らしくなってきた。園田の口に垂直に突き立ったボトルの中身が減っていくのを眺めていると溜息が漏れた。
 上下していた喉が動きを止め、口の端からワインが溢れだしたからだ。

「――飲むか寝るかどっちかにしろ!」

 透哉が叫びながらテーブルを強打する。あろうことか園田はラッパ飲みの格好のまま寝ていた。そんな折、きゅーと何とも情けない音が透哉の腹から鳴った。

「ん? お腹が空いているのかい?」

 透哉の音に目を覚ました園田は一端ボトルを抜くと零れたワインを拭いながら何事もなかったかのように話を持ち掛ける。自由過ぎる様に透哉は思わず頭を抱える。
 今になって当初の目的を思い出したが、ホタルとの鬼ごっこが祟りコンビニに行きそびれ、空腹は最高潮になっていた。

「これを食べるといい。昨日買ったものだ」

 そう言って園田は白衣の奥からサンドイッチを取り出した。
 胡散臭いなぁ、と思いつつも我慢できず透哉はサンドイッチを手に取った。

「おい、園田」
「そんな低い声出して、何か不満でもあるのかい?」
「賞味期限先月じゃねーか!?」
「そういう細かいことを気にするあたりに人間味が見え隠れしているね」

 園田は小馬鹿にしたように笑いながら新たにサンドイッチを取り出し、表面に無数に浮かぶ黒い斑点も気にせず咀嚼する。

「君も平気だろ?」

 園田はカビの生えたパンを平然と完食し、透哉にも同じことを促す。本当は断りたいが、空腹を訴える腹を黙らせるため素直に従うことにした。

「――うお、なんだこりゃ!? 酸っぱい! しかも妙に黄ばんでいるのはなんでだ……」

 サンドイッチとは程遠い味に透哉は眉をしかめた。

「挟んでいたチーズが融解してパンに沁み込んだだけだろうから問題ないさ」
「一般人的には大ありだろ」

 透哉は床を吹いた雑巾の持つように端をつまみ、一度顔から遠ざけややあって残りを頬張った。

「なかなかの演技上手だ」
「演技じゃねーよ。不味いかどうかくらい分かる」
「不味さが理解できるかどうかは論点ではないさ」

 応接用の机を挟んで二人でかびたパンを齧りながら。

「ならなんだよ」
「食えない物を不味そうに食べるのが上手だ、そう言ったんだ」

 園田の奇妙な見解に透哉は眉を顰めた。

「普通の人間はこんなもの出されても口にしない。君の行動は常軌を逸している。まるで化け物が人間のまねをしているみたいだよ」
「学園の再興を願う物が完全に人間離れしたら世話ないだろ」

 自身の異常性を暗に肯定しながら、忌々しげに吐き捨てた。

「そうやって普通の生徒の真似をして皆を欺いているというわけか」
「……なんだよ人聞きが悪い」
「妙なことを言うね、透哉君?」

 柔和な声色とは裏腹にべとつく気配。

「だってそうだろ? 君は常日頃から自分が〈悪夢〉であることを黙り偽り、友人たちと過ごしているのだろ? 欺くことで今の定位置を獲得しているのだろ?」
「――っ!?」

 十年前のこと、自分が〈悪夢〉と呼ばれる存在であること、それらを秘密にしているという自覚はあった。
 しかし、悪意を持って欺いているとは思っていなかった。
 秘密にすることで安寧を計り、ひいては学園再興への足掛かりになると思っていた。
 必要のないことは黙っておくことが正しいと、本気で思い込んでいた。

「今の驚き方からするに無意識の内に騙していた事実に気付いていなかったようだね。自然を装い、友人を平然と欺き通す……一種の才能かと思ったが見込み違いだったようだ」
「好き放題言いやがって――っ」

 逆上した透哉の目前を白い幕が遮り、茶色い天板が阻んだ。
 直後、ベキリと豪快な破壊音が耳に響いた。
 顔面に受けた衝撃が脳を揺さぶり、上下の区別がつかなかった。瞬く間に『白檻』に包まれ机に叩きつけられたことに気づいたとき、透哉は地面にうずくまっていた。

「いってぇ、なにすんだよ」

 衝撃でVの字に折れ曲がった机の天板を押しのけ這い出てきた透哉の上から容赦ない言葉が降り注ぐ。

「聞くが透哉君。君にとって大事なものは何だ? 偽りの上にある今か、再興する未来か」
「あんたは俺にこの学園を管理しろと言った。だが、俺の目的はあの場所に再び学園を興すことだ」
「なるほど、未来の贖罪と言うエゴを取るか」

 園田は何かを言いたげにメガネのブリッジを押し上げると足を組み直した。

「さて、本題に入ろうか。今晩私が助けに入らなかったら君はどうなっていたと思う?」
「どうもこうも、俺はあのまま自力で――」

 逃げ切れた。と強がりを言いかけて、気が付いた。
 園田の追従からは逃げられない。
 中途半端な強がりを許容してくれるほど白衣の〈悪夢〉は甘くはない。現に表情一つ変えずこの部屋の空気に鉛のような重圧を持たせている。

「正直、源を侮っていた。さすがは生徒会メンバーだな」

 園田が静かに口を開いた途端、透哉は悪寒に襲われた。

「論点がずれているね、透哉君。君が今晩彼女に正体を暴かれていたらどうなっていたと思う?」
「それは……」

 透哉は園田の無表情の剣幕に押し黙る。
 同時、園田の憤りの理由に気付いた。自分は十年前の事件の当事者にして世間が血眼になって探している事件のカギ。絶対に明るみにでることを許されない本来なら幽閉されてもおかしくない存在なのである。
 一切合切ひっくるめて認識の甘さと行動の軽率さを言っているのだ。透哉は痛感し、十年間の歳月がもたらしたたるみに心中で叱咤する。
 自分はもう二度と日の当たる場所を歩くことを許されない。
 形式上は学園に属し生徒として振る舞っているが、所詮柵の隙間から手を伸ばし無様に足掻く囚人でしかないのだ。

「済まない。意識が足りなかった。二度とないようにする」
「反省しているようだし、チャンスを上げよう」
「チャンス?」
「今晩ホタル君に見つかったことは始末の付け方次第では不問にしてあげよう、そういっているんだ」
「どういう意味だ?」
「君は秘密を遵守するためクラスメイトを手に掛けられるかい?」
「園田、本気で言ってんのか!?」

 淡々と語る園田に透哉は噛みついた。

「勿論、本気さ。大業をなすためには小さな犠牲はつきものだよ」
「な!?」
「私は言ったはずだ。この学園を管理しろと。生徒や教師と言うのは所詮学園と言うシステムを正常に動作させるための歯車にすぎない」
「俺にまた人殺しをしろってのか」
「君の使命は歯車を円滑にまわすこと。人殺しは手段の一つでしかない」

 あっさりと言い切り園田は今更グラスにワインを注いだ。

「人殺しがタブーとされるのは加害者が人間の場合だ」

 赤いワインが波打つグラス越しに透哉を見ながら、園田はグラスを粉々に粉砕した。

「君は化け物だ。人間ごとき虫と同等に殺してもらわなければ困る」

 飛沫した残骸を目で追いながら透哉は呆然とする。

「君が再興するのは人間を詰め込んだ飼育箱か? それとも学園という名のシステムか?」

〈悪夢〉と人間との価値観の相違に。
 所詮自分は人間味に毒された化け物だった。

「いずれにしろ、世界のシステムも知らない未熟な君には理解しがたいのかもしれない」

 園田の言っていることはよくわからなかったが、明確な意志だけは揺るがない。

「俺は、俺が奪った命、潰えた沢山の声をあの場所に取り戻したい。学園を再興したい」
「君は誰も殺さず学園の再興を目指している」
「ああ」
「だが、それは不可能だ。今の君に我が儘と野心を両立させるだけの力はない。それでも、止めないのだろ?」

 園田はきっぱりと断言し、透哉の自信や可能性を粉砕した。
 そして、成功へと繋がる道を〈悪夢〉として示した。

「私は教育者ではない。凶育者だ。だから生徒に生きることを強制しないし、殺すことも教唆する」

 園田から浴びせられる無情な言葉が透哉をことごとく打ちのめす。

「今の君は不可能を吠えるだけの無能で、願望を垂れているだけの小僧に過ぎない」

 うすうす感じていた。
 十年前への執着と再興への執念が月日の経過によって希釈されていることに。
 薄まっていた野心が、冷めていた熱意が、じんわりとせり上がる。
 人道を重視していては見えない結果本位の悪道が眼前に開いた瞬間だった。

「……園田、お前はいったい何者なんだ」

 鬼謀に導かれた透哉は無意識にそう尋ねていた。

「私はただのレジスタンスだよ」

 園田は端的に意味深に答えた。

「君がこれ以上誰も殺したくないというのなら全てを欺き続けること。それ以外にできることはない」

 表層で欺き、裏で支え、人の中に身を置きながら輪に入ることはなく偽り続けろと言っている。
 見返りは求めず、盲目的に大願に向かい、現実を踏み台にしろと言っている。

「学園に在席しているだけで君の居場所はどこにもないのだよ」
「――!?」
「いずれにしろ、一晩部屋で頭を冷やしなさい」

 園田が言うと『白檻』がふわりと揺れ、再び起動する兆候を見せた。白いマントに視界が包まれる間際、透哉は一つの疑問を口にした。

「教えてくれ! 源は、何者なんだ!?」
「知りたいかい?」

 動きを止めた『白檻』の隙間から透哉は頷いた。

「彼女はメサイアの〈悪夢〉討伐隊のメンバーだ」

 それを最後に透哉の視界は『白檻』に閉ざされ、同時に浮遊感に包まれた。
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