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第一章
第1話 歪み始めた日常。(1)『絵』
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1.
「あー、もしもし? 朝からバトルな展開は低血圧な俺としては遠慮してーんだけど?」
少年は寝ぐせの付いた髪をかきながら半眼でだるさを訴える。誰の目にも明らかな寝起きの様相からは戦意の欠片も感じられない。
そんなまだ半分夢の中の少年、御波透哉の行く手を別の少年が阻んでいた。
「うひゃははぁっー!! 残念だが俺様とエンカウントした瞬間が開戦、そうだろ!? ブラザー!」
透哉とは対照的に徹夜明けのようなテンションで一つ上の先輩、七奈豪々吾が校門を背に声を上げる。
「ふぁあ、ねむいんだけど……?」
くたびれたカッターシャツに黒いスラックスを着こんだ透哉は欠伸ながらに自身の状態を伝える。
方や豪々吾は糊のきいたカッターシャツに皺のないスラックスを穿いているにもかかわらず、下に着た真っ赤なシャツが浮き出ているせいでやたら好戦的に見える。
多少着こなしに差はあるものの二人は同じ学園の制服に身を包み、他の生徒たちの往来のど真ん中で対峙している。
野次馬と化して遠巻きに見守るもの、そそくさと校舎の方へと歩き去るもの、反応は様々だが、誰一人として二人を見ても驚く様子はない。
「それなら俺様が目を覚まさせてやるよ!」
言うや否や、豪々吾は地面を蹴り、豪快な跳び蹴りで透哉を強襲する。透哉は蹴りを半歩下がって身を返すだけで易々とかわす。線の細い体躯に合った無駄のない動きである。
「それにしても今日は朝からあっちいなぁ」
透哉は雑に結ばれたネクタイを軽く緩めると、こもった熱を逃がすため一番上のボタンを外す。
輪郭の細さとは裏腹にひ弱な印象はない。生来の吊り目、それに沿って平行に伸びる眉が細さよりも鋭さを際立たせているからだ。
「本気を出す気になったかぁ!? 行くぜ! エーンチャァーント!」
第一ボタンを外すという行為を曲解した豪々吾は歯を見せて笑いながら、拳を握り込み真横に突き出す。すると豪々吾の手を中心に熱気があふれ、揺らぎが生まれ、直後手首から二の腕付近までの間に導火線のように刺青が浮かび上がる。
そして、遂には発火する。
メラメラと炎上する拳を掲げて咆哮する。
「やっぱり俺様を熱くさせるのはブラザー! お前ただ一人のようだなぁ!?」
一見して魔法や超能力とも取れる超常現象は魔力と呼ばれる生命エネルギーに起因した科学現象であり、生物学的にも立証されている。
しかし、万人が持ち合わせているものではなく、中でもとりわけ魔力を多く身に宿し、固有の武器の創造や特殊体質を持つ者をエンチャンターと言う。
「暑苦しいから止めてくれ。それと――」
「どりゃぁ!!」
透哉の声を遮り豪々吾は発火した腕を振るい、透哉に向けて炎弾を発射した。炎弾は赤い軌跡を残し、空中を走り透哉の足元に着弾し、爆発を起こした。熱を帯びた爆風が突き抜け、激しい音が校門で響く。存命が危ぶまれる爆発の中、透哉は悠然と同じ場所にいた。
「――邪魔だからどいてくれ」
遮られた言葉の続きを口にしながら透哉は距離を一気に詰め、豪々吾の足首を掴むとぐるぐると振り回し、投げ飛ばす。
豪々吾の体は火の粉を撒き散らせながら放物線を描くことなく直線的な軌道で校舎三階の一室の窓ガラスに突き刺さった。
ぐおぉー!? と言う上空からの豪々吾の悲鳴を聞きながら透哉は少し乱れた服を直し、校門を潜った。
(三階の突当りの部屋は確か職員室か……)
続けて教師連中の怒声が聞こえた気がしたが、透哉の知るところではない。
「あー、もしもし? 朝からバトルな展開は低血圧な俺としては遠慮してーんだけど?」
少年は寝ぐせの付いた髪をかきながら半眼でだるさを訴える。誰の目にも明らかな寝起きの様相からは戦意の欠片も感じられない。
そんなまだ半分夢の中の少年、御波透哉の行く手を別の少年が阻んでいた。
「うひゃははぁっー!! 残念だが俺様とエンカウントした瞬間が開戦、そうだろ!? ブラザー!」
透哉とは対照的に徹夜明けのようなテンションで一つ上の先輩、七奈豪々吾が校門を背に声を上げる。
「ふぁあ、ねむいんだけど……?」
くたびれたカッターシャツに黒いスラックスを着こんだ透哉は欠伸ながらに自身の状態を伝える。
方や豪々吾は糊のきいたカッターシャツに皺のないスラックスを穿いているにもかかわらず、下に着た真っ赤なシャツが浮き出ているせいでやたら好戦的に見える。
多少着こなしに差はあるものの二人は同じ学園の制服に身を包み、他の生徒たちの往来のど真ん中で対峙している。
野次馬と化して遠巻きに見守るもの、そそくさと校舎の方へと歩き去るもの、反応は様々だが、誰一人として二人を見ても驚く様子はない。
「それなら俺様が目を覚まさせてやるよ!」
言うや否や、豪々吾は地面を蹴り、豪快な跳び蹴りで透哉を強襲する。透哉は蹴りを半歩下がって身を返すだけで易々とかわす。線の細い体躯に合った無駄のない動きである。
「それにしても今日は朝からあっちいなぁ」
透哉は雑に結ばれたネクタイを軽く緩めると、こもった熱を逃がすため一番上のボタンを外す。
輪郭の細さとは裏腹にひ弱な印象はない。生来の吊り目、それに沿って平行に伸びる眉が細さよりも鋭さを際立たせているからだ。
「本気を出す気になったかぁ!? 行くぜ! エーンチャァーント!」
第一ボタンを外すという行為を曲解した豪々吾は歯を見せて笑いながら、拳を握り込み真横に突き出す。すると豪々吾の手を中心に熱気があふれ、揺らぎが生まれ、直後手首から二の腕付近までの間に導火線のように刺青が浮かび上がる。
そして、遂には発火する。
メラメラと炎上する拳を掲げて咆哮する。
「やっぱり俺様を熱くさせるのはブラザー! お前ただ一人のようだなぁ!?」
一見して魔法や超能力とも取れる超常現象は魔力と呼ばれる生命エネルギーに起因した科学現象であり、生物学的にも立証されている。
しかし、万人が持ち合わせているものではなく、中でもとりわけ魔力を多く身に宿し、固有の武器の創造や特殊体質を持つ者をエンチャンターと言う。
「暑苦しいから止めてくれ。それと――」
「どりゃぁ!!」
透哉の声を遮り豪々吾は発火した腕を振るい、透哉に向けて炎弾を発射した。炎弾は赤い軌跡を残し、空中を走り透哉の足元に着弾し、爆発を起こした。熱を帯びた爆風が突き抜け、激しい音が校門で響く。存命が危ぶまれる爆発の中、透哉は悠然と同じ場所にいた。
「――邪魔だからどいてくれ」
遮られた言葉の続きを口にしながら透哉は距離を一気に詰め、豪々吾の足首を掴むとぐるぐると振り回し、投げ飛ばす。
豪々吾の体は火の粉を撒き散らせながら放物線を描くことなく直線的な軌道で校舎三階の一室の窓ガラスに突き刺さった。
ぐおぉー!? と言う上空からの豪々吾の悲鳴を聞きながら透哉は少し乱れた服を直し、校門を潜った。
(三階の突当りの部屋は確か職員室か……)
続けて教師連中の怒声が聞こえた気がしたが、透哉の知るところではない。
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