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第30話 ゼフィルス・オナシスside (in星の宮)
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土の塊が雨のように降り注ぐ。
「――ウィンドエッジッ!!」
風魔法が展開し、塊が粉砕される。
土埃が舞い視界が悪くなった。
「――ウォーターカーテンッ!!」
そこに水魔法を発動し、視界の悪さから距離を取り、暫く待ったところでウォーターカーテンを解除する。
「……こんなものか」
あまり魔法を連発するのはよくないのだが、この場合は仕方がない。
俺は通路の窪んだところを見付け、そこへ身を隠して魔道具からポーションを取り出した。
あまり味のないそれを一気に飲み干し、魔力が回復するのを待つ。
どこからか罠を仕掛けていた相手も小休止を決めたのか、静かなようなので俺はそのまま窪みの地面に腰を下ろす。
(それにしても――)
何故あの時バレルエージ様は俺と別れたのか。
この状況で離れるなど戦略としてはあまり意味がない。
(そのはずだが)
何か俺に聞かれたくないことでもあったのか?
冷静になって考えるとバレルエージ様の立場はあまり良くない。
側室の出であるし、後見人は一応第1勢力のルキシナール公爵が務めているが、その勢力は決して多くはない。
おまけにバレルエージ様には現在婚約者がいらっしゃならない。
もしこの試練でバレルエージ様が勝利されれば、将来の王妃となる女性が隣にいないのはおかしい。
(……)
そこまで思考を進めたところで俺は、ん? となった。
(いるじゃないか)
家柄もよく礼儀作法も頭脳も、そして王太子妃教育さえ施されている上流貴族の令嬢が。
(まさか、あの時俺と別れるように回避行動を取ったのは――)
そしてもう一つ。
バレルエージ様が同行者に入れたかったマイルズ・エクトワール侯爵令息は火魔法が得意だった。
最初に遭遇したのは炎の魔人イフリート。
もし俺達がバレルエージ様の指名に頷いていなければ、きっとエクトワール侯爵令息がこの星の宮へ来ていたはずだ。
そうなった場合、イフリート相手では不利。
もし、バレルエージ様が先に何の属性が出るのかご存じだとしたなら。
(最初から仕組まれていた?)
バレルエージ様の得意魔法は風魔法。
俺も風魔法。
そしてコッペリアは、水――。
(第1層の四大精霊は火、そして第2層は土)
火は水に弱く、そして土は風に弱い。
今、コッペリアの中には魔女が要るから属性云々はあまり関係がなさそうだが――。
(都合が良すぎないか?)
最初のイフリートはともかくとして第2層のこれはどう考えても相手は土。
都合のいい偶然と言えばそれで落ち付きそうだが、どうも釈然としない。
(やはりバレルエージ様の望みは――)
頭の中で骨子がまとまりかけた時、小休止は終わりとばかりに地響きが伝わってきた。
(今度は何だ?)
いつでも詠唱できるように身構えていると、通路の奥からずんぐりとした影が現れた。
それは緩慢な動作で近付いて来るがその巨体のため、すぐにこちらへ着くだろう。
(――ゴーレム)
認識すると同時に俺は反対方向へ駆けた。
ゴーレムは中の核を破壊するか取り出すかしないと停止しない。
基本的な戦術では、一人がゴーレムの気を引き、残る一人が核を破壊するというのが定石だった。
当然現在ひとりきりの俺は撤退するしかなかった。
(くそっ、ここにどちらか一人でも居ればっ!!)
何か策はないか、と脇道を探すも生憎そこは一本道のようだった。
地響きの音が大きくなった。
(――近い)
俺はとっさに壁へ張り付いた。
「――ソイルエリア」
土の気配が増した空間に更に魔法を重ね付けする。
「――ソイルフォッグッ!!」
濃い霧が更に視界を悪くした。
ゴーレムが単調な歩みを見せて近付いて来る。
俺は小声で詠唱する。
「――ソイルボール」
小石が幾つも目の前の通路を転がって行く。
まるで誰かが走って逃げだしているかのように――。
魔力の届くぎりぎりまで小石を操作し、それを一直線にゴーレムが追って行くのを認め、待つこと暫し。
やがてどちらの音も聞こえなくなってから俺は息をついた。
(何とかなったか)
ゴーレムが去った方には行けないので俺は元来た道を戻ることにした。
それもいつゴーレムが戻ってくるかもしれないので音を立てないように、そして出来るだけ急いで。
折角ポーションで回復させた魔力も使ってしまったので、できれば戦闘は避けたいところだった。
「――ウィンドエッジッ!!」
風魔法が展開し、塊が粉砕される。
土埃が舞い視界が悪くなった。
「――ウォーターカーテンッ!!」
そこに水魔法を発動し、視界の悪さから距離を取り、暫く待ったところでウォーターカーテンを解除する。
「……こんなものか」
あまり魔法を連発するのはよくないのだが、この場合は仕方がない。
俺は通路の窪んだところを見付け、そこへ身を隠して魔道具からポーションを取り出した。
あまり味のないそれを一気に飲み干し、魔力が回復するのを待つ。
どこからか罠を仕掛けていた相手も小休止を決めたのか、静かなようなので俺はそのまま窪みの地面に腰を下ろす。
(それにしても――)
何故あの時バレルエージ様は俺と別れたのか。
この状況で離れるなど戦略としてはあまり意味がない。
(そのはずだが)
何か俺に聞かれたくないことでもあったのか?
冷静になって考えるとバレルエージ様の立場はあまり良くない。
側室の出であるし、後見人は一応第1勢力のルキシナール公爵が務めているが、その勢力は決して多くはない。
おまけにバレルエージ様には現在婚約者がいらっしゃならない。
もしこの試練でバレルエージ様が勝利されれば、将来の王妃となる女性が隣にいないのはおかしい。
(……)
そこまで思考を進めたところで俺は、ん? となった。
(いるじゃないか)
家柄もよく礼儀作法も頭脳も、そして王太子妃教育さえ施されている上流貴族の令嬢が。
(まさか、あの時俺と別れるように回避行動を取ったのは――)
そしてもう一つ。
バレルエージ様が同行者に入れたかったマイルズ・エクトワール侯爵令息は火魔法が得意だった。
最初に遭遇したのは炎の魔人イフリート。
もし俺達がバレルエージ様の指名に頷いていなければ、きっとエクトワール侯爵令息がこの星の宮へ来ていたはずだ。
そうなった場合、イフリート相手では不利。
もし、バレルエージ様が先に何の属性が出るのかご存じだとしたなら。
(最初から仕組まれていた?)
バレルエージ様の得意魔法は風魔法。
俺も風魔法。
そしてコッペリアは、水――。
(第1層の四大精霊は火、そして第2層は土)
火は水に弱く、そして土は風に弱い。
今、コッペリアの中には魔女が要るから属性云々はあまり関係がなさそうだが――。
(都合が良すぎないか?)
最初のイフリートはともかくとして第2層のこれはどう考えても相手は土。
都合のいい偶然と言えばそれで落ち付きそうだが、どうも釈然としない。
(やはりバレルエージ様の望みは――)
頭の中で骨子がまとまりかけた時、小休止は終わりとばかりに地響きが伝わってきた。
(今度は何だ?)
いつでも詠唱できるように身構えていると、通路の奥からずんぐりとした影が現れた。
それは緩慢な動作で近付いて来るがその巨体のため、すぐにこちらへ着くだろう。
(――ゴーレム)
認識すると同時に俺は反対方向へ駆けた。
ゴーレムは中の核を破壊するか取り出すかしないと停止しない。
基本的な戦術では、一人がゴーレムの気を引き、残る一人が核を破壊するというのが定石だった。
当然現在ひとりきりの俺は撤退するしかなかった。
(くそっ、ここにどちらか一人でも居ればっ!!)
何か策はないか、と脇道を探すも生憎そこは一本道のようだった。
地響きの音が大きくなった。
(――近い)
俺はとっさに壁へ張り付いた。
「――ソイルエリア」
土の気配が増した空間に更に魔法を重ね付けする。
「――ソイルフォッグッ!!」
濃い霧が更に視界を悪くした。
ゴーレムが単調な歩みを見せて近付いて来る。
俺は小声で詠唱する。
「――ソイルボール」
小石が幾つも目の前の通路を転がって行く。
まるで誰かが走って逃げだしているかのように――。
魔力の届くぎりぎりまで小石を操作し、それを一直線にゴーレムが追って行くのを認め、待つこと暫し。
やがてどちらの音も聞こえなくなってから俺は息をついた。
(何とかなったか)
ゴーレムが去った方には行けないので俺は元来た道を戻ることにした。
それもいつゴーレムが戻ってくるかもしれないので音を立てないように、そして出来るだけ急いで。
折角ポーションで回復させた魔力も使ってしまったので、できれば戦闘は避けたいところだった。
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