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第17話 拉致 ④
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その後、夜も更けたからと話の先は翌日に持ち越されたがアレクシアの胸中は穏やかではなかった。
確かにもう日付も変わろうかという時間になっていたし、舞踏会のドレス姿のままここへ連れて来られたので窮屈なドレスから解放されるのは嬉しかったが、肝心なことが聞けていない。
アレクシアに与えられた部屋は公爵令嬢には質素に写るだろうが、これまでがこれまでだったため、それほど気にならなかった。
それよりアレクシアが気に留めたのは侍女たちの所作だった。
彼女たちはある程度はこなせるようだったが連携が弱いようで、公爵家だったなら既に終わっている作業をまだしていた。
公爵家であればアレクシアのドレスを脱がせる頃には次の衣装のすべて準備が整っており、肌寒さを感じる間もなくその衣装が手際よく着付けられていく。
作業の流れは公爵家の侍女に比べれば遅いが、個人で見れば彼女たちの技能はかなりのもので、恐らくここへ雇われて日が浅いのだろうと察せられた。
ということはわざわざこのためだけにこれだけの人員を割いたということ?
アレクシアの身柄を確保するためだけのためにこの邸と侍従たちを集めたとするなら、それはとんでもない労力である。
窓はカーテンで隠れているため判断がつかないが予想通りならば施錠した上、板で打ち付けられているはずだ。
夜着に着替え終わったアレクシアに年かさの侍女が寝台の方を示した。
「それではこちらへ。私共はこれにて失礼いたします。用があればその鈴でお呼びください」
一人になりアレクシアはほっと息をついた。
寝台の枕元に置かれた小机には布の掛けられた皿と水差し等が用意されていた。
舞踏会ではほとんど何も口にしていなかったことを思い出し、アレクシアのお腹が小さく音を立てた。
思わず室内を見るが人の気配はなく、アレクシアはほっと息をつく。
食べやすいようになのか、小さく切られた腸詰やピクルスが挟まった小ぶりなパンを摘まみながら思案する。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
一度目の生では有り得なかった展開に頭が付いていかない。
以前はあれほど蔑ろにされてきた自分が王女で王位継承権を持つなど、一体誰が想像できるだろうか。
そしてユクトルの父親は一体誰なのだろう?
ここにきてユクトルの父親を明かさなかったのはアレクシアが脱走しないための伏線だったようにも思える。
クラスター公爵がユクトルが国王の血を引いていないと知ってもアレクシアとの婚約を続行しようとする人物。
食事を終え、アレクシアは軽く頭を振った。
舞踏会の婚約破棄宣言からの出来事が目まぐるしくてこれ以上は考えられそうになかったのだ。
加えて危害を加えられるかと思っていたのに、ひと先ず身の安全は確保されて気が緩んだということも大きい。
身支度を終えて寝台に横になったアレクシアは瞬く間に眠りへ落ちて行った。
翌朝、昨日と同じように侍女達に身支度をされるが、今度はきちんとした室内着であり、それもアレクシアのような上流階級の令嬢にふさわしいものだった。
朝食は簡単なものだがきちんと用意され、給仕もされる。捕らわれの身としては充分すぎるほどの待遇だった。
朝食を終えると侍従に昨夜と同じ部屋へ案内される。
「よく眠れたでしょうか?」
クラスター公爵に問われ、アレクシアは幾分そっけなく答えた。
「ええ。とても」
皮肉を含んだ答えにクラスター公爵が苦笑したようだった。
「このような手段を取ってしまったことは誠に申し訳ありません。ですが御身のためには仕方がなかったのです」
そう前置きして話されたのは一度目の生では決して知りえない内容だった。
現在このコントワーズ王国内は不穏な空気が立ち込めている。
その要因はユクトルが王太子としてはあまりにも頼りないこともあったが、現王と王妃の振る舞いにもあった。
「昨夜もお話ししたことに付け加えるなら、陛下は王としての判断力も求心力も低く、こちらで面倒を見ている状態です。そして王妃は公務はこなすものの、簡単なものに限られ、側仕えの者では間に合わずにアレクシア様にまで書類が回ってきていることはご存じでしょう」
そう言われてアレクシアは軽く頷く。
茶会や舞踏会に参加する夫人や令嬢達のリスト作りやその挨拶状の清書等、どう見てもこれは王妃がするものでは、と思われるものが幾つか混ざっていた。だが、一度目の生で書類仕事を散々こなしていたので、ついそのまま仕事をしてしまったのだ。
「今の陛下が王太子だった頃も力不足では、という声があったのです。ですが長子が王位を継ぐことが優先して考えられましたことと、初めに婚約を結んでいた公爵家が穏便に済ませてほしい、と要望を出してきたこともあり、大きな醜聞にはならなかったのです」
その元婚約者の公爵令嬢は隣国に嫁いだと聞いているが、クラスター公爵は渋い顔をしていた。
「ええ。そのせいでかの公爵領の税収のほとんどが隣国へ流れてしまいました」
「え?」
「それが条件だったのですよ。婚約破棄の違約金を反故にする代わり、毎年王家へ収めている税収を娘が嫁す隣国へ送りたい、と主張されましてね」
その話をクラスター公爵が知った時は既に締結された後だったとのことだった。
「あの時ばかりは流石に愛想が尽きた、と言いたくなりましたよ」
締結ということは正式に文書に署名をしてしまったということになる。
その期限は、と聞くとクラスター公爵は更に渋い顔になった。
「かの公爵家が続く限り、つまりほぼ永久的にですね」
それではクラスター公爵の苦言も当然と言える。
幾ら節約したかったからといって、一時的な支出の違約金に比べてほぼ永久的に公爵領の税収が消える、とくれば。
「ですから今回の舞踏会の件で再び王家が愚かな選択をする前にあなた様を保護したかったのです」
話は通っているように聞こえるが、まだ何か裏があるようにアレクシアには思えた。
それだったらどうして父であるフォンデル公爵へ話を通さなかったのか。
父は強引なところもあるが、話せば分かる人のはずだ。
ましてやことは王位継承者に関わる重大事である。
アレクシアがそう疑問をぶつけるとクラスター公爵は満足げな表情になった。
「やはりあなた様はあのボンクラ王や怠け者とは違う。お答えしてもいいのですがその前に約束してほしいのですよ」
一体なにをだろう、とアレクシアが身構えた時廊下の向こうが騒がしくなる気配がした。
「やれやれ、見付かってしまいましたか」
クラスター公爵にはなにが起こっているのか予想がつくようで落ち着いて侍従に指示を出している。
「構いません。お通しなさい。仕方ありません。少し路線変更ですかね」
ほどなくして侍従に案内されてきた人物はアレクシアも知る相手で、アレクシアは慌てて立ち上がった。
カーテシーをしようとしたアレクシアを相手が押し留める。
「気遣い無用だ。姪御殿」
「お気遣い痛み入ります」
現れたのは王弟サンダルフォン――アレクシアが本当に王女だとしたら王位継承権第三位を持つ者だった。
確かにもう日付も変わろうかという時間になっていたし、舞踏会のドレス姿のままここへ連れて来られたので窮屈なドレスから解放されるのは嬉しかったが、肝心なことが聞けていない。
アレクシアに与えられた部屋は公爵令嬢には質素に写るだろうが、これまでがこれまでだったため、それほど気にならなかった。
それよりアレクシアが気に留めたのは侍女たちの所作だった。
彼女たちはある程度はこなせるようだったが連携が弱いようで、公爵家だったなら既に終わっている作業をまだしていた。
公爵家であればアレクシアのドレスを脱がせる頃には次の衣装のすべて準備が整っており、肌寒さを感じる間もなくその衣装が手際よく着付けられていく。
作業の流れは公爵家の侍女に比べれば遅いが、個人で見れば彼女たちの技能はかなりのもので、恐らくここへ雇われて日が浅いのだろうと察せられた。
ということはわざわざこのためだけにこれだけの人員を割いたということ?
アレクシアの身柄を確保するためだけのためにこの邸と侍従たちを集めたとするなら、それはとんでもない労力である。
窓はカーテンで隠れているため判断がつかないが予想通りならば施錠した上、板で打ち付けられているはずだ。
夜着に着替え終わったアレクシアに年かさの侍女が寝台の方を示した。
「それではこちらへ。私共はこれにて失礼いたします。用があればその鈴でお呼びください」
一人になりアレクシアはほっと息をついた。
寝台の枕元に置かれた小机には布の掛けられた皿と水差し等が用意されていた。
舞踏会ではほとんど何も口にしていなかったことを思い出し、アレクシアのお腹が小さく音を立てた。
思わず室内を見るが人の気配はなく、アレクシアはほっと息をつく。
食べやすいようになのか、小さく切られた腸詰やピクルスが挟まった小ぶりなパンを摘まみながら思案する。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
一度目の生では有り得なかった展開に頭が付いていかない。
以前はあれほど蔑ろにされてきた自分が王女で王位継承権を持つなど、一体誰が想像できるだろうか。
そしてユクトルの父親は一体誰なのだろう?
ここにきてユクトルの父親を明かさなかったのはアレクシアが脱走しないための伏線だったようにも思える。
クラスター公爵がユクトルが国王の血を引いていないと知ってもアレクシアとの婚約を続行しようとする人物。
食事を終え、アレクシアは軽く頭を振った。
舞踏会の婚約破棄宣言からの出来事が目まぐるしくてこれ以上は考えられそうになかったのだ。
加えて危害を加えられるかと思っていたのに、ひと先ず身の安全は確保されて気が緩んだということも大きい。
身支度を終えて寝台に横になったアレクシアは瞬く間に眠りへ落ちて行った。
翌朝、昨日と同じように侍女達に身支度をされるが、今度はきちんとした室内着であり、それもアレクシアのような上流階級の令嬢にふさわしいものだった。
朝食は簡単なものだがきちんと用意され、給仕もされる。捕らわれの身としては充分すぎるほどの待遇だった。
朝食を終えると侍従に昨夜と同じ部屋へ案内される。
「よく眠れたでしょうか?」
クラスター公爵に問われ、アレクシアは幾分そっけなく答えた。
「ええ。とても」
皮肉を含んだ答えにクラスター公爵が苦笑したようだった。
「このような手段を取ってしまったことは誠に申し訳ありません。ですが御身のためには仕方がなかったのです」
そう前置きして話されたのは一度目の生では決して知りえない内容だった。
現在このコントワーズ王国内は不穏な空気が立ち込めている。
その要因はユクトルが王太子としてはあまりにも頼りないこともあったが、現王と王妃の振る舞いにもあった。
「昨夜もお話ししたことに付け加えるなら、陛下は王としての判断力も求心力も低く、こちらで面倒を見ている状態です。そして王妃は公務はこなすものの、簡単なものに限られ、側仕えの者では間に合わずにアレクシア様にまで書類が回ってきていることはご存じでしょう」
そう言われてアレクシアは軽く頷く。
茶会や舞踏会に参加する夫人や令嬢達のリスト作りやその挨拶状の清書等、どう見てもこれは王妃がするものでは、と思われるものが幾つか混ざっていた。だが、一度目の生で書類仕事を散々こなしていたので、ついそのまま仕事をしてしまったのだ。
「今の陛下が王太子だった頃も力不足では、という声があったのです。ですが長子が王位を継ぐことが優先して考えられましたことと、初めに婚約を結んでいた公爵家が穏便に済ませてほしい、と要望を出してきたこともあり、大きな醜聞にはならなかったのです」
その元婚約者の公爵令嬢は隣国に嫁いだと聞いているが、クラスター公爵は渋い顔をしていた。
「ええ。そのせいでかの公爵領の税収のほとんどが隣国へ流れてしまいました」
「え?」
「それが条件だったのですよ。婚約破棄の違約金を反故にする代わり、毎年王家へ収めている税収を娘が嫁す隣国へ送りたい、と主張されましてね」
その話をクラスター公爵が知った時は既に締結された後だったとのことだった。
「あの時ばかりは流石に愛想が尽きた、と言いたくなりましたよ」
締結ということは正式に文書に署名をしてしまったということになる。
その期限は、と聞くとクラスター公爵は更に渋い顔になった。
「かの公爵家が続く限り、つまりほぼ永久的にですね」
それではクラスター公爵の苦言も当然と言える。
幾ら節約したかったからといって、一時的な支出の違約金に比べてほぼ永久的に公爵領の税収が消える、とくれば。
「ですから今回の舞踏会の件で再び王家が愚かな選択をする前にあなた様を保護したかったのです」
話は通っているように聞こえるが、まだ何か裏があるようにアレクシアには思えた。
それだったらどうして父であるフォンデル公爵へ話を通さなかったのか。
父は強引なところもあるが、話せば分かる人のはずだ。
ましてやことは王位継承者に関わる重大事である。
アレクシアがそう疑問をぶつけるとクラスター公爵は満足げな表情になった。
「やはりあなた様はあのボンクラ王や怠け者とは違う。お答えしてもいいのですがその前に約束してほしいのですよ」
一体なにをだろう、とアレクシアが身構えた時廊下の向こうが騒がしくなる気配がした。
「やれやれ、見付かってしまいましたか」
クラスター公爵にはなにが起こっているのか予想がつくようで落ち着いて侍従に指示を出している。
「構いません。お通しなさい。仕方ありません。少し路線変更ですかね」
ほどなくして侍従に案内されてきた人物はアレクシアも知る相手で、アレクシアは慌てて立ち上がった。
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