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第12話 婚約破棄宣言は舞踏会で ③
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王太子であるユクトルが去り、大広間はどこか気まずい沈黙が流れていた。
それも当然である。貴族にとって婚姻、婚約といったものは家同士の面目がかかった重要なものであり、解消や破棄など有り得ない。そして万が一にも解消するのであれば、人目につかない場所を設け、内密に行うのが一般的である。
それを王室主催の舞踏会という半ば公の場で宣言したユクトルの行為はとうてい理解しがたいものだった。
オリビアはというと、自分の立場を自覚しているのか、ユクトルが衛兵に連行されかけた時点で既に壇から降り、目立たない壁際で気配を消しているようである。
そんな微妙な空気のなか、国王が壇上へ上がった。
「今宵は我がコントワーズ国のために集まっていただき感謝している。さて、先ほどはユクトルが失礼した。最近公務が続いて少し疲れているようだ。ユクトルは暫く休ませようと思う」
そこで曲が流れ、国王の合図を受けた上流貴族達がパートナーを伴い踊り始めた。
クラスター公爵はリュックと共に退出したため、クラスター公爵家は嫡男のダイスが妻と一緒に踊りに興じている。
場が和んできたところでアレクシアは国王の侍従に陛下のお呼び、と声を掛けられ、大広間を後にしようとした。
「ちょっと待ってくれないかな」
帝国の第二王子の言葉に侍従が警戒するように姿勢を正す。
「彼女をどこへ連れて行くつもりかな?」
「国王陛下の命ですので」
頑な態度は逆に後ろめたさを感じさせ、ユージーンはにこり、と笑みを見せた。
「このタイミングだから大体何の話をするのかは想像がつくよ。だからこそ私にも同席する権利はあると思うけど」
半ば強引にユージーンが付き添いを申し出る。
帝国の第二王子という立場を最大限利用するユージーンにアレクシアは少し呆れたようだったが、この先のことを思うと申し出は有り難かった。
ユージーンと共に案内され、入室すると国王が少し眉を上げた。
「これは第二王子殿。手違いがあったようだな。貴殿は招待しておらぬのだが。配下の者が失礼した」
国王が侍従に合図しかけたが、ユージーンがそれを止める。
「いえ。コントワーズ国王の指示は間違っておりません。不躾であることは重々承知しておりますが、どうしても話しておかねばならないことがありまして」
「ほお」
室内に居るのは国王夫妻と側付きの侍従が一人だけである。
案内してきた侍従も下がらせると、コントワーズ国王はユージーンとその間カーテシーをして控えていたアレクシアに椅子に腰かけるように促した。
わずかな沈黙の後、ユージーンが口を開く。
「このような状況ですので、本題から入らせて頂きます。私ユージーン・シグルドはこちらにいるアレクシア・フォンデル公爵令嬢へ先日婚約を申し込みました」
「誠か?」
そのような報告は受けていないがという視線がアレクシアに突き刺さる。
庇うようにユージーンが告げた。
「フォンデル公爵には話を通してあります。このように突然知らせる形になったことは申し訳なく思いますが、私はフォンデル公爵令嬢を愛しております。貴族婚でこのような感情は不要と思われるかもしれませんが、私には彼女が大事なのです。その辺りのことはコントワーズ王もよくご存じだと思いますが」
コントワーズ王が現在の王妃とは真実の愛で結ばれた、ということを示唆する内容にコントワーズ王が複雑な表情をする。
コントワーズ王が幼い時分からの婚約者を捨て、当時伯爵令嬢であった王妃を選んだというのはコントワーズ国内では美談として語られている。
そこを突かれると答え辛いためか、今度は王妃が取りなすように口を挟んだ。
「分かりましたわ。第二王子殿にはこのまま同席して貰いましょう。ですがここで話したことは他言無用ということでお願いしますわ」
国力では帝国に分があるため、王妃という立場でも丁寧な口調にならざるを得ない。
「もちろんです」
ユージーンが了承するとコントワーズ王がうむ、と軽く頷き、口火を切る。
「では改めてフォンデル公爵令嬢」
「はい」
呼びかけられてアレクシアが答えるとコントワーズ王がおもむろに口を開く。
「先ほどは愚息が失礼した」
思いもよらない謝罪にアレクシアは一瞬、対応が遅れた。
そんなアレクシアの方を済まなそうに見ながらコントワーズ王が続ける。
「この婚約は王家の力を盤石にするための布石の意味もあった。それをあの愚息が」
コントワーズ王の様子からどうやら大広間でのユクトルの発言は独断だったらしい。
「陛下」
王妃が声を掛けるとコントワーズ王は気を取り直したように話を続けた。
「ユクトルのことだがフォンデル公爵からの進言もあって少し調べさせたのだが、このまま王太子としてやっていくのは難しいということになってな。先も述べた通り暫くは離宮で静養させようと思う」
それはユクトルを王太子から降ろすということに他ならない。
だがコントワーズ王の子は現在ユクトルひとりである。
王弟もいるが彼はある時期に流行り病に罹り、離宮にて静養中で王宮の行事にはほとんど参加していない。
他に思い当たらないため、コントワーズ王の言葉を待っているアレクシアの耳にとんでもない内容がもたらされた。
「弟――サンダルフォンは昔、聖女と関係を持ったことがあってな。その時に娘が生まれたらしい」
だがまだ婚約もしていない間柄な上、聖女が早産の後の肥立ちが悪く、命を落としてしまうと王弟サンダルフォンは自分の子ではない、と否定したという。
その後、その娘はとある下級貴族へ養女へ出され、自分の身の上のことは知らないらしい。
ちなみにコントワーズ王国では女子でも王位継承権を与えられる。
「娘は今はオリビア・ランドール男爵令嬢と名乗っているようだ」
それも当然である。貴族にとって婚姻、婚約といったものは家同士の面目がかかった重要なものであり、解消や破棄など有り得ない。そして万が一にも解消するのであれば、人目につかない場所を設け、内密に行うのが一般的である。
それを王室主催の舞踏会という半ば公の場で宣言したユクトルの行為はとうてい理解しがたいものだった。
オリビアはというと、自分の立場を自覚しているのか、ユクトルが衛兵に連行されかけた時点で既に壇から降り、目立たない壁際で気配を消しているようである。
そんな微妙な空気のなか、国王が壇上へ上がった。
「今宵は我がコントワーズ国のために集まっていただき感謝している。さて、先ほどはユクトルが失礼した。最近公務が続いて少し疲れているようだ。ユクトルは暫く休ませようと思う」
そこで曲が流れ、国王の合図を受けた上流貴族達がパートナーを伴い踊り始めた。
クラスター公爵はリュックと共に退出したため、クラスター公爵家は嫡男のダイスが妻と一緒に踊りに興じている。
場が和んできたところでアレクシアは国王の侍従に陛下のお呼び、と声を掛けられ、大広間を後にしようとした。
「ちょっと待ってくれないかな」
帝国の第二王子の言葉に侍従が警戒するように姿勢を正す。
「彼女をどこへ連れて行くつもりかな?」
「国王陛下の命ですので」
頑な態度は逆に後ろめたさを感じさせ、ユージーンはにこり、と笑みを見せた。
「このタイミングだから大体何の話をするのかは想像がつくよ。だからこそ私にも同席する権利はあると思うけど」
半ば強引にユージーンが付き添いを申し出る。
帝国の第二王子という立場を最大限利用するユージーンにアレクシアは少し呆れたようだったが、この先のことを思うと申し出は有り難かった。
ユージーンと共に案内され、入室すると国王が少し眉を上げた。
「これは第二王子殿。手違いがあったようだな。貴殿は招待しておらぬのだが。配下の者が失礼した」
国王が侍従に合図しかけたが、ユージーンがそれを止める。
「いえ。コントワーズ国王の指示は間違っておりません。不躾であることは重々承知しておりますが、どうしても話しておかねばならないことがありまして」
「ほお」
室内に居るのは国王夫妻と側付きの侍従が一人だけである。
案内してきた侍従も下がらせると、コントワーズ国王はユージーンとその間カーテシーをして控えていたアレクシアに椅子に腰かけるように促した。
わずかな沈黙の後、ユージーンが口を開く。
「このような状況ですので、本題から入らせて頂きます。私ユージーン・シグルドはこちらにいるアレクシア・フォンデル公爵令嬢へ先日婚約を申し込みました」
「誠か?」
そのような報告は受けていないがという視線がアレクシアに突き刺さる。
庇うようにユージーンが告げた。
「フォンデル公爵には話を通してあります。このように突然知らせる形になったことは申し訳なく思いますが、私はフォンデル公爵令嬢を愛しております。貴族婚でこのような感情は不要と思われるかもしれませんが、私には彼女が大事なのです。その辺りのことはコントワーズ王もよくご存じだと思いますが」
コントワーズ王が現在の王妃とは真実の愛で結ばれた、ということを示唆する内容にコントワーズ王が複雑な表情をする。
コントワーズ王が幼い時分からの婚約者を捨て、当時伯爵令嬢であった王妃を選んだというのはコントワーズ国内では美談として語られている。
そこを突かれると答え辛いためか、今度は王妃が取りなすように口を挟んだ。
「分かりましたわ。第二王子殿にはこのまま同席して貰いましょう。ですがここで話したことは他言無用ということでお願いしますわ」
国力では帝国に分があるため、王妃という立場でも丁寧な口調にならざるを得ない。
「もちろんです」
ユージーンが了承するとコントワーズ王がうむ、と軽く頷き、口火を切る。
「では改めてフォンデル公爵令嬢」
「はい」
呼びかけられてアレクシアが答えるとコントワーズ王がおもむろに口を開く。
「先ほどは愚息が失礼した」
思いもよらない謝罪にアレクシアは一瞬、対応が遅れた。
そんなアレクシアの方を済まなそうに見ながらコントワーズ王が続ける。
「この婚約は王家の力を盤石にするための布石の意味もあった。それをあの愚息が」
コントワーズ王の様子からどうやら大広間でのユクトルの発言は独断だったらしい。
「陛下」
王妃が声を掛けるとコントワーズ王は気を取り直したように話を続けた。
「ユクトルのことだがフォンデル公爵からの進言もあって少し調べさせたのだが、このまま王太子としてやっていくのは難しいということになってな。先も述べた通り暫くは離宮で静養させようと思う」
それはユクトルを王太子から降ろすということに他ならない。
だがコントワーズ王の子は現在ユクトルひとりである。
王弟もいるが彼はある時期に流行り病に罹り、離宮にて静養中で王宮の行事にはほとんど参加していない。
他に思い当たらないため、コントワーズ王の言葉を待っているアレクシアの耳にとんでもない内容がもたらされた。
「弟――サンダルフォンは昔、聖女と関係を持ったことがあってな。その時に娘が生まれたらしい」
だがまだ婚約もしていない間柄な上、聖女が早産の後の肥立ちが悪く、命を落としてしまうと王弟サンダルフォンは自分の子ではない、と否定したという。
その後、その娘はとある下級貴族へ養女へ出され、自分の身の上のことは知らないらしい。
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