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この想いを隠すには――
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三石桃花と光のことはあっという間に広まってしまった。
何しろ三石桃花は学年のアイドルである。
多少天然が入っているところもあるがその笑顔と人当たりの柔らかさは男子生徒達の心を掴むには十分だった。
『桃花ちゃんってかわいいよな』
『あー、俺も桃花ちゃんと付き合いたかった』
『だよなー』
羨ましい、という声は上がるものの光に直接抗議をしに行く輩は見受けられ――ああ、居たな。
視界の端に写る自称『桃花ちゃん親衛隊』の面々を見た僕は気配を消して後を追った。
すると案の定、
「あいつに桃花ちゃんはもったいさなさすぎるっ!!」
「後で待ち伏せするぞっ!!」
体育館裏で息巻く阿呆どもに僕は声を掛けることにした。
「へえ、誰を待ち伏せするって?」
そこにいたのは四人の男子生徒で内二人はガタイが良かったがこの僕の敵ではない。
意外と天然ドジでかわいい幼なじみを守るためにこれでも鍛錬はしてきたつもりだ。
実際これまでこういった荒事で負けたことはなかった。
向こうもそれを知っているのだろう。
「げっ、如月っ!!」
「何か用かよっ!?」
(弱い奴ほどよく吠える、っていうけど本当だな)
「まさかと思うけどその待ち伏せする相手って光じゃないよね?」
綺麗に口角を上げて告げると向こうが慌て出す。
「だ、だったら何だっていうんだよっ!!」
「おい、よせっ!!」
好機、とばかりに僕は笑みを浮かべてあげた。
「ふうん。この僕に逆らうの?」
後は僕の独壇場だった。
多少は喧嘩慣れしていたのだろうが、僕の敵ではない。
あっという間に地面に転がった四人に光には手出し無用と承知させると共にこれも忘れない。
「ああ。そうそう。君達は『うっかり』転んだんだよね? 勿論誰かと喧嘩なんてしていなかったよね?」
「「「「はいっ!!」」」」
言質を取り、僕は体育館裏を後にした。
それでも気分は晴れなかった。
(もやもやするな)
この想いを自覚した時から光が幸せならそれでいいと思っていた。
幾ら世の中が同性愛に緩やかになってきたといってまだまだ偏見は多い。
僕には兄がいるが光は一人っ子だった。
(絶対将来は家庭を持って子供を、とか言われてるだろうな)
光の家庭はごく一般的なサラリーマン家庭で母親はパートをして家計を補っているようだった。
時折り遊びに行くとにこやかに迎え入れてくれたが、もし万が一恋人という立場になっていたらきっと違っていただろう。
(いやその前に光には恋人が居るんだったな)
一応僕は光の幼なじみであり友人だ。
なのに噂だけが先行し、当の光は何も言ってこなかった。
それならこちらから聞けばいいのだろうが、何故か言葉が出て来ない。
「どうしたの? 海斗?」
少し下からふわふわの茶色の髪と丸い目がこちらを見る。
(ぐっ、可愛いっ!!)
「何でもないよ」
内心の動揺を隠し、光の家の前まで送った。
「今日は来ないの?」
「悪いけど用ができたんだ。またね」
「うん。ばいばい」
「ああ」
軽く手を振って別れ、路地へ入り光の視界から逸れると僕は上を見上げて顔を覆った。
(光が可愛すぎて、辛い)
僕が何度も堪えているなんてきっと光は知らないだろう。
だから僕はこの想いを隠すべきだと思う。
何しろ三石桃花は学年のアイドルである。
多少天然が入っているところもあるがその笑顔と人当たりの柔らかさは男子生徒達の心を掴むには十分だった。
『桃花ちゃんってかわいいよな』
『あー、俺も桃花ちゃんと付き合いたかった』
『だよなー』
羨ましい、という声は上がるものの光に直接抗議をしに行く輩は見受けられ――ああ、居たな。
視界の端に写る自称『桃花ちゃん親衛隊』の面々を見た僕は気配を消して後を追った。
すると案の定、
「あいつに桃花ちゃんはもったいさなさすぎるっ!!」
「後で待ち伏せするぞっ!!」
体育館裏で息巻く阿呆どもに僕は声を掛けることにした。
「へえ、誰を待ち伏せするって?」
そこにいたのは四人の男子生徒で内二人はガタイが良かったがこの僕の敵ではない。
意外と天然ドジでかわいい幼なじみを守るためにこれでも鍛錬はしてきたつもりだ。
実際これまでこういった荒事で負けたことはなかった。
向こうもそれを知っているのだろう。
「げっ、如月っ!!」
「何か用かよっ!?」
(弱い奴ほどよく吠える、っていうけど本当だな)
「まさかと思うけどその待ち伏せする相手って光じゃないよね?」
綺麗に口角を上げて告げると向こうが慌て出す。
「だ、だったら何だっていうんだよっ!!」
「おい、よせっ!!」
好機、とばかりに僕は笑みを浮かべてあげた。
「ふうん。この僕に逆らうの?」
後は僕の独壇場だった。
多少は喧嘩慣れしていたのだろうが、僕の敵ではない。
あっという間に地面に転がった四人に光には手出し無用と承知させると共にこれも忘れない。
「ああ。そうそう。君達は『うっかり』転んだんだよね? 勿論誰かと喧嘩なんてしていなかったよね?」
「「「「はいっ!!」」」」
言質を取り、僕は体育館裏を後にした。
それでも気分は晴れなかった。
(もやもやするな)
この想いを自覚した時から光が幸せならそれでいいと思っていた。
幾ら世の中が同性愛に緩やかになってきたといってまだまだ偏見は多い。
僕には兄がいるが光は一人っ子だった。
(絶対将来は家庭を持って子供を、とか言われてるだろうな)
光の家庭はごく一般的なサラリーマン家庭で母親はパートをして家計を補っているようだった。
時折り遊びに行くとにこやかに迎え入れてくれたが、もし万が一恋人という立場になっていたらきっと違っていただろう。
(いやその前に光には恋人が居るんだったな)
一応僕は光の幼なじみであり友人だ。
なのに噂だけが先行し、当の光は何も言ってこなかった。
それならこちらから聞けばいいのだろうが、何故か言葉が出て来ない。
「どうしたの? 海斗?」
少し下からふわふわの茶色の髪と丸い目がこちらを見る。
(ぐっ、可愛いっ!!)
「何でもないよ」
内心の動揺を隠し、光の家の前まで送った。
「今日は来ないの?」
「悪いけど用ができたんだ。またね」
「うん。ばいばい」
「ああ」
軽く手を振って別れ、路地へ入り光の視界から逸れると僕は上を見上げて顔を覆った。
(光が可愛すぎて、辛い)
僕が何度も堪えているなんてきっと光は知らないだろう。
だから僕はこの想いを隠すべきだと思う。
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