婚約破棄された悪役令嬢は隣国の第2王子の溺愛ルートに入ったようですが、転生者なので冒険者もしてみたいんですが(小声)

神崎 ルナ

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第4話

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 ところ変わってこちらはフォーンドット公爵邸。


「これは一体……」

 貴族の嗜みとしてのポーカーフェイスもそっちのけで困惑を隠せないお父様。

(うん、そうですよね)

 品のよい調度品が並べられた応接間には、あたしとお父様、そして何故か居る隣国の第2王子。

 帰りの馬車にしれっと同乗してきたんですよね、この方。

 慌てて『鳥』を出して家に連絡を飛ばしたけど、急なことだったため、『第2王子が馬車に同乗していらっしゃいます』ってしか伝言できなかったのよね。

 もう分かったと思うけれど、バリツ王国の、って付け加えるの忘れてました。

 そしてこのソネット王国にも第2王子はいらっしゃって。

 第2王子のアルファ様は御年12歳の才気煥発な少年で、なぜ順番が逆じゃなかったのか、と一部の者を嘆かせていたらしいけど。

 もしアルファ様と一緒に来たらそれはそれで別の問題が起きそう。

 アルファ様にも婚約者はいらっしゃるのだ。

(ごめんなさい、お父様)

 とか思っているうちにケイン王子が爆弾発言。

「先触れもなしの訪問、済まないな。非公式のものとして構わないがこれだけは言わせてほしい。――こちらのイザベラ・フォーンドット公爵令嬢を我が妃として迎えいれたい」

 そして冒頭の台詞である。

(うん。そうなりますよね)

 半眼になりながらあたしはお父様に首飾りを差し出した。

「これをどうぞ」
 
 そう告げて後ろ側にあるスイッチを押す。

 するとその首飾りから立体ホログラフィーのように映像が映し出された。

 つい先ほどまでの婚約破棄の騒動がそのまま映し出される。

 これはフォーンドット公爵家が所有している映像記録装置であり、高価なため扱いには充分な注意が必要である。

 どうしてあたしがこんなものを持っているかというと、今回の卒業パーティーは多忙なため出席できなかったお父様が替わりにと、あたしに預けてくれたものだった。


 映像の中ではキーロン殿下が揚々と婚約破棄を宣言して次の王太子妃候補にマリアンヌ・ドロッティ男爵令嬢をと告げたところで、お父様の顔が、は? となったように見えた。

(ですよねー)
 
 幾ら何でもこれはない。

 ケイン王子のように第2王子だったなら、ワンチャンぎりぎり容認されたかもしれないけれど、王太子妃である。

 のちの王妃――一国で一番高貴でその国の女性達の模範となるのが、男爵令嬢って。

(だけどそれだけじゃないんですよね)

 首飾りにはもちろん、キーロン殿下が風魔法をあたしに向けたところまでばっちり記録されている。

 そしてその風魔法をあっさりとケイン王子が相殺するところも。

「……」

 痛いほどの沈黙が流れるけど、気持ちは分かります。

 人は理解できない出来事が起きると一時停止してしまう生き物だということがよく分かるわ。

「ケイン王子には我が娘、イザベラを助けて下さったこと御礼申し上げます。ですが、婚約の件はまだ諸々と残っている事柄がございますので、日を改めてということでよろしいでしょうか」

 落ち着いた雰囲気を出そうとして失敗しているお父様だったが、そこは誰も突っ込まない。

「分かりました。こちらとしてもイザベラへの求婚を認めて貰えればそれで構わないので」

 あっさりと引いたケイン王子が帰った後、お父様に質問されたのは当然だろう。




 いつケイン王子と顔なじみになったのだ、という質問にはもちろんNOである。

 そして事前に打ち合わせしていた訳ももちろんない。

 あたしがそう答えるとお父様は文字通り頭を抱えてしまった。

「どういうことだ? イザベラは今回の件で向こうが悪いとはいってもかなりの疵を負ったはずだ。この婚約で向こうの利益になることなど何も――」
 
 
(ですよねー)

 取り敢えずこの件は大広間の一件がどう収拾されているのかも鍵となるので、もう遅い時刻だがお父様は知り合いの邸に『鳥』を飛ばし、情報収集しておくとのこと。

「大広間で攻撃魔法、とは。……もしかしたらそちらばかりが取り上げられて婚約破棄の件は王太子の乱心とされるかもしれんな」

(え、何それ嫌だ)

 出た、お貴族様の必殺『何もなかったことにする』攻撃。

 だけど、地位やお金にものを言わせて何もなかったことにする、というにはある程度の筋がないと意味をなさない。

 どうするんだろう、と思っていると、

「相手は王太子だからな。ほとんどの無茶は通るだろう」

(ええー)

 
 釈然としないまま、もう遅いから、と促され、あたしは就寝の挨拶をして自室へ戻ったのだった。





 だけど当然寝付けない。

 前世を思い出したのだって、つい先ほどなのだ。

(それにしても凄い展開ばかりだったわ) 

 前世ただの一般人だったのにまさかの乙女ゲームの悪役令嬢に転生。

 ほとんどストーリーは進んでいたけど、少しは変えられたのかな。

 本来ならイザベラ・フォーンドット公爵令嬢は国外追放か処刑となっていたはずで。

(隣国の第2王子、っていたっけ?)

 記憶をつま繰ってみるも思い出せなかった。

(うーん、あ、そう言えば確か続編が出る、とか)

 かすかな記憶にそんなものがあったような気がした。

(え? でもそうなるとヒロインは王太子を確保した上で隣国の第2王子も狙うの!? どんなゲームよそれ!?)

 ゲームならまあ、許せたかもしれないけれどそれが現実となると話は別。

(逆ハ―とか有り得ないって)

 気分を変えようとベットで寝返りを打っているとふいにあの黒髪イケメンの顔を浮かんできた。

(くっ、あの余裕綽々な顔を見ていると何かイライラする)

 確かにあの青みがかった紫の瞳は見ているだけでも飽きないかも(人前では言わないけどあたしの一番好きな色だったりする)しれないけど、それとこれは話が別である。

(だめだ。落ち着かない)

 考えないようにしようとするればするだけ、あの綺麗な瞳が浮かんで来る。

(ああ、もうっ!!)



 
 そしてその夜が更け切った頃、フォーンドット公爵邸を抜ける影が一つ。


 隠匿の魔法と身体強化を重ね掛けして高い塀を乗り越え、夜の闇に紛れ公爵邸の長い塀沿いに走り抜け、そこから更に数件離れたところまで来たところでようやく立ち止まった。

 ふう、と息をついて肩に掛けた布袋を直したのは、先ほどまでフォーンドット公爵家で寝返りを打っていたあたしことイザベラ・フォーンドットである。

 あの後、何度も寝返りを打った後、気付いたことがあった。

(あたしにこうゆう生活なんて無理)

 イザベラの知識は一応残っていたが、何せ前世一般人なので。

(心構えとか全然無理)

 あれだけ大広間でお説教しておいてなんだけど、あたしもその資格ないわ。

(ごめんね。王太子。でもあたし貴族やめるから)

 イザベラの記憶を浚っているうちに思い出したことがある。

 それはギルドの存在。

 平民で手っ取り早く稼ぐなら冒険者が一番である。

 
(よし、ギルド行こうっ!!)
 

 
 あたしは偽名を何にするか思案しながらギルドへと足を向けた。





 
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