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告白……そして返事は――
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「好きです。貴女のことをずっと前から聞いてから気になっていたんですが、あの宝珠に籠められた純粋な想いを知ってからは特に貴女のことがずっと離れなくて」
カイルは真剣らしいが、ミスティアにとっては全く違う。
(ぎゃあああああっ!! 黒歴史ーっ!!)
「ふざけるなっ!! あれは私の気を逸らす策略だったのだろうっ!! もう病魔は消えたっ!! ここに用などないだろうっ!!」
これまでの経緯を考えれば当然の返答だろう。
「そう思われるのも無理はないと思いますが、貴女が好きです。祖父の昔語りの中に出て来た貴女のことがずっと気になっていて、それが何なのかずっと分からなかった。けれど、あの宝珠を見た時に分かりました。貴女が愛おしい、と」
(はいぃぃっ!?)
ミスティアからすれば明後日の方角からのアプローチである。
一体誰があんな黒歴史の塊から恋に落ちる、などと理解できようか。
混乱するミスティアにぐい、とカイルが詰め寄る。
「あの宝珠に籠められた澄んだ魔力を見れば貴女がどれほど純真な想いで宝珠を作ったのか分かります。何の打算もない、見返りなど全く求めない想い。人であってもなかなか出来ることじゃないですよ」
褒められているのだろうが今のミスティアには皮肉にしか聞こえなかった。
(やめてぇ~~っ!!)
カイルが眉を下げる。
「……だめですか?」
何故かカイルに犬耳としっぽが生えたようにミスティアには思えた。
「貴女が好きなのは祖父だと分かっています。でも、もう祖父はいないんです。俺ではだめですか?」
澄んだ青い瞳がミスティアを見つめた。
「貴女が魔族だとか俺が人だとかあまり考えないで。――俺の気持ちは決まっています」
その眼差しはかつての想い人を連想させ、ミスティアの言葉がほんの一瞬、遅れた。
「お前のような者など何とも思ってなどいない」
「今はそれでもいいですよ」
どこか余裕のある言葉にミスティアの眉が上がる。
「ふざけているのか」
「いいえ。どうですか。お試し期間を設けるというのは?」
「はぁ?」
「ですから試しに付き合って見るというものですが。どうでしょ――っていきなり氷魔法ですかっ!!」
無詠唱で投げかけられた無数の氷の矢が風の刃に瞬殺される。
「そっちこそこれに追い付けるとはな。伊達に勇者の孫をしている訳ではないようだな」
「それは言わないで下さい」
「?」
「俺は『勇者の孫』ってだけではありませんから」
強い意思を持った目にミスティアは悟る。
(根明に見えるが、それなりに何かあったようだな)
この時点で大分流されているように思えるが、ミスティア自身にその自覚はなかった。
「できれば俺は俺自身として見てくれると嬉しいです」
「はっ、何を言ってるのやら。お前はお前だろう。他の何者でもない」
知らず、ミスティアはカイルの欲しい言葉を投げかけていたらしい。
青い瞳が先ほどとは比べ物にならないほど輝いた。
「やっぱり貴女は貴女ですね。改めてよろしくお願いします」
「何もよろしくなどされてないっ!!」
埒が明かぬとミスティアは残り少ない魔力で転移した。
「待って下さい」
「断る」
――この三年後、あの勇者の孫が魔族と婚姻を結んだと国々へ一報が駆け巡ることになるのをミスティアは知らなかった。
(絶対に逃げ切るっ!!)
( 完 )
カイルは真剣らしいが、ミスティアにとっては全く違う。
(ぎゃあああああっ!! 黒歴史ーっ!!)
「ふざけるなっ!! あれは私の気を逸らす策略だったのだろうっ!! もう病魔は消えたっ!! ここに用などないだろうっ!!」
これまでの経緯を考えれば当然の返答だろう。
「そう思われるのも無理はないと思いますが、貴女が好きです。祖父の昔語りの中に出て来た貴女のことがずっと気になっていて、それが何なのかずっと分からなかった。けれど、あの宝珠を見た時に分かりました。貴女が愛おしい、と」
(はいぃぃっ!?)
ミスティアからすれば明後日の方角からのアプローチである。
一体誰があんな黒歴史の塊から恋に落ちる、などと理解できようか。
混乱するミスティアにぐい、とカイルが詰め寄る。
「あの宝珠に籠められた澄んだ魔力を見れば貴女がどれほど純真な想いで宝珠を作ったのか分かります。何の打算もない、見返りなど全く求めない想い。人であってもなかなか出来ることじゃないですよ」
褒められているのだろうが今のミスティアには皮肉にしか聞こえなかった。
(やめてぇ~~っ!!)
カイルが眉を下げる。
「……だめですか?」
何故かカイルに犬耳としっぽが生えたようにミスティアには思えた。
「貴女が好きなのは祖父だと分かっています。でも、もう祖父はいないんです。俺ではだめですか?」
澄んだ青い瞳がミスティアを見つめた。
「貴女が魔族だとか俺が人だとかあまり考えないで。――俺の気持ちは決まっています」
その眼差しはかつての想い人を連想させ、ミスティアの言葉がほんの一瞬、遅れた。
「お前のような者など何とも思ってなどいない」
「今はそれでもいいですよ」
どこか余裕のある言葉にミスティアの眉が上がる。
「ふざけているのか」
「いいえ。どうですか。お試し期間を設けるというのは?」
「はぁ?」
「ですから試しに付き合って見るというものですが。どうでしょ――っていきなり氷魔法ですかっ!!」
無詠唱で投げかけられた無数の氷の矢が風の刃に瞬殺される。
「そっちこそこれに追い付けるとはな。伊達に勇者の孫をしている訳ではないようだな」
「それは言わないで下さい」
「?」
「俺は『勇者の孫』ってだけではありませんから」
強い意思を持った目にミスティアは悟る。
(根明に見えるが、それなりに何かあったようだな)
この時点で大分流されているように思えるが、ミスティア自身にその自覚はなかった。
「できれば俺は俺自身として見てくれると嬉しいです」
「はっ、何を言ってるのやら。お前はお前だろう。他の何者でもない」
知らず、ミスティアはカイルの欲しい言葉を投げかけていたらしい。
青い瞳が先ほどとは比べ物にならないほど輝いた。
「やっぱり貴女は貴女ですね。改めてよろしくお願いします」
「何もよろしくなどされてないっ!!」
埒が明かぬとミスティアは残り少ない魔力で転移した。
「待って下さい」
「断る」
――この三年後、あの勇者の孫が魔族と婚姻を結んだと国々へ一報が駆け巡ることになるのをミスティアは知らなかった。
(絶対に逃げ切るっ!!)
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