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第3話

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 フランは窮地に立たされていた。

 最早食事の席にも呼ばれず、小間使いの如くこき使われ、寝る暇もほとんどなく、食事は皆の残り物ばかり。

 使用人はフランを自分達よりも下の存在と認識したようで、あれこれと自分達の仕事を押し付けてきた。

「まだ終わらないんですか? 本当に愚図ですね」

「床磨きが終わったら、窓枠を磨いて下さいよ」
 
「あらま、こんなところにゴミが」

 雑巾が頭から降って来た。

「あら、ごめんなさい。塵かと思ってしまって」

 笑いながら去って行く使用人達にフランは言い返せなかった。

(何を言っても無駄だわ)

 ぐ、と拳を握りしめたとき、今度はフランの頭に水が落ちてきた。

「こんなところにバケツなんて置いてあるから躓きそうになったじゃない。あら、誰かと思ったらお義姉様」

 フランが頭を上げると、見下した笑みを浮かべたローズがいた。

 この邸の中で一番会いたくないと言えばこの義妹だろう。

 ローズは何かにつけ、嫌がらせをしてくるのだ。

「その恰好、とてもお似合いよ」

 ふふ、と笑う様はどう見ても悪女なのだが、周りの誰も気付いてないようだった。

 フランはどんな表情をしてもローズが気に入ることはないと分かっていたので、必然的に鉄面皮となる。

「何よ。何か気に食わないことでもあるわけ?」

 すると今度は蹴られた。

 これも少しでも抵抗などしようものなら、父親である公爵に怒られることになるため、ひたすら耐えるしかなかった。

「少しは思い知った? この家の娘はあたしだけなのよ」

 フランをいいようにしたあと、気が済んだのかようやくローズがその場を去った。

 俯いていたフランはゆっくり身を起こす。


(家を出よう)


 もうそれしかないような気がした。




 日課が終わり、夜が更けてからフランは屋根裏部屋へ戻った。

 少ない身の回りの物をまとめてフランは思案を巡らせた。

(これからどうしよう)

 この家を出た後、仕事を探すしかないのだが、国内にはいられない。
 
 仮にも侯爵家の令嬢が勤労に勤しんでいる姿など、見せれられないだろう。

 となると国境を越えるしかないのだが、路銀はほとんどなかった。

(何か換金できるものは――)

 幾ら侯爵邸とはいえ、屋根裏部屋にそんな価値のあるものなどなく、フランは仕方なく次の手立てを考えるしかなかった。

(金庫は開けられないし、……そう言えばローズの部屋に幾つか出しっぱなしの装飾品があったわ)

 ローズの(元々はフランの部屋なのだが)部屋は邸の中で2番目に日当たりのよいところに作られており、広さもあるためか、身支度をしたローズの装飾品等が時おり出しっぱなしの時があった。

(今もあるかしら)

 思わず下へ降りかけたがそれはマズい気がした。

 不寝番に見とがめられる訳にはいかなかった。

 フランは時期を見ることにした。

 眠気と戦いながら、不寝番の交代の時間を割り出し、彼らが最も遠い位置にいる時に実行した。

 床張りの廊下は築何十年ということもり、軋む箇所もあったがフランは常日ごろからそこを清掃していたので、少しも足音を立てることなくローズの部屋へ辿り着けた。

 そっと扉を開け、室内へ目を向ける。

 目が慣れると化粧机の上に乱雑に置かれた装飾品らしきものが見えた。

 これまたそっと中へ入り、目についた物を服の隠しにしまう。

(やったわ)

 私でもできた、という達成感とちょっとした背徳感を味わいながらフランはそこを後にした。







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