上 下
61 / 65

第61話 黒歴史? (ベリルside)

しおりを挟む
 自分はなんでもできると思っていた。

 一国の王子という立場もあるが、狼の獣人は総じて身体能力が高く、力も強い。

 だから供は要らないと断った。

 もちろん、それだけで通じるわけもなく、駆け出す俺の後から何人かついてこようとしたようだったが、そこは上手く撒いておいた。

 まだ七歳の俺に撒かれるなんて皆、まだまだだな。

 と揚々としていたのがマズかったのか、俺は地面に開いていた縦穴に転落してしまった。

 穴の深さは二人分の大人の背丈はありそうで広さは人が立っていられるくらいだ。そのまま夜をすごすのは勘弁したいところである。

 その場でジャンプしてみたがやはり届かなかった。

 ここで声を上げれば誰かが駆けつけてくれることはわかっていたが、矜持が邪魔をする。

 仮にも王族たる者がなんという失態なのか。

 幸いにもその後しばらくして助け出されたが、周囲の反応はいくつかに分かれた。

 無事でよかったと素直に喜ぶ者、助かったのかと少し残念そうな者など、敵味方を見極めるにはいい試金石になったと思う。



 これは使えるな。

 この出来事で味を占めた俺はたびたび規律から外れた行動を起こすようになった。

 家庭教師の授業をすっぽかして城外へ出たり、お忍びで市井に降りたり、森での演習の際にはわざとはぐれて皆の反応を見た。

 お陰で周囲の者達の内心が分かり、処分するのも捗ったし、そのおまけでそれぞれの族の長の弱点を知ることができたのも僥倖だと思う。

 そのころからだんだんと周囲と距離を置くようになった。

 勿論そんなことは悟られないようにしている。
 
 あぶり出しの際にこの者になら心を許してもいい、と思った者が間者だったり、と裏切られたような気持ちを味わうことが何度となくあるうちに俺は本音を隠すようになった。

 とぼけた行動も全ては計算の内。

 王位を継ぐのだからそれでいい、と自分を納得させようとしていた時、父に呼ばれた。

『なぜ呼ばれたか分かるか?』

 父は力が正義になりやすい獣人族にしては珍しく堅実な手腕を振るう方で、どちらかと言えば猪突猛進型の母とはたいぶ性質が違うようにみえるが、やはり運命の番ということなのかいつ見ても非常に仲睦まじく、こちらが照れることが多いくらいだった。

『いえ、いっこうに』

『お前の最近の行動は目に余る。あちこちから注進が来ているが、思い当たることはあるか?』

 再びの問いに俺は首を振った。

 あれらはすべて俺の気紛れであり、計算であると見破られるわけにはいかない。

『まったく心当たりがありません』

 そんな俺に父王は頭を振った。

『そうか。ではロミアに話すか』

『待ってください!!』

 母ロミアは賢女の評判高い女性だが前述したとおり、いくつかの分野においては思うより先に動くところがある。

 この場合だとお説教の後、どうして俺がそんなことをしているのか、と細かく追及された後、俺が目こぼしした者達まで処罰を下そうと張り切る姿が脳裏に浮かび、慌てて制止した。

『ようやく本音が出たな』

 笑みを佩いたその表情から俺がどうしてそんなふうにしているのかなどとっくにお見通しのようだった。

 食えない父王の前で俺は不機嫌な表情を繕うこともできなかった。

 そんな俺を面白そうに眺めながら父王が口を開いた。

『まあ今はそれでもよい。時期にお前にも現れるだろう。共に笑い、ときに悲しみ、互いのなにを見ても決して離れないそんな相手がな』

 その時の父王の目は遠くを見ており、誰を想っているのかは一目瞭然だった。

 ふいに焦燥感を覚えた俺は強引に会話を切り上げたが、あの時の父王の表情は今でも覚えている。

 番がいるとあんな感じになるのか。

 互いのどちらかが欠けてもいけない、時には自分の命よりも優先するという運命の番。

 まるで呪いのようだと思っていたそれがそれほど悪いものでもないのではないか、と思った。

 俺の運命の番はどんな者なんだろうか。

 獣人族か、それとも――

 だがどんな相手だろうと俺はその相手にすべてを捧げるだろう。

 



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。 そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。 婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。 どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。 実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。 それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。 これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。 ☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

侯爵令嬢リリアンは(自称)悪役令嬢である事に気付いていないw

さこの
恋愛
「喜べリリアン! 第一王子の婚約者候補におまえが挙がったぞ!」  ある日お兄様とサロンでお茶をしていたらお父様が突撃して来た。 「良かったな! お前はフレデリック殿下のことを慕っていただろう?」  いえ! 慕っていません!  このままでは父親と意見の相違があるまま婚約者にされてしまう。  どうしようと考えて出した答えが【悪役令嬢に私はなる!】だった。  しかしリリアンは【悪役令嬢】と言う存在の解釈の仕方が……  *設定は緩いです  

処理中です...