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第61話 黒歴史? (ベリルside)
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自分はなんでもできると思っていた。
一国の王子という立場もあるが、狼の獣人は総じて身体能力が高く、力も強い。
だから供は要らないと断った。
もちろん、それだけで通じるわけもなく、駆け出す俺の後から何人かついてこようとしたようだったが、そこは上手く撒いておいた。
まだ七歳の俺に撒かれるなんて皆、まだまだだな。
と揚々としていたのがマズかったのか、俺は地面に開いていた縦穴に転落してしまった。
穴の深さは二人分の大人の背丈はありそうで広さは人が立っていられるくらいだ。そのまま夜をすごすのは勘弁したいところである。
その場でジャンプしてみたがやはり届かなかった。
ここで声を上げれば誰かが駆けつけてくれることはわかっていたが、矜持が邪魔をする。
仮にも王族たる者がなんという失態なのか。
幸いにもその後しばらくして助け出されたが、周囲の反応はいくつかに分かれた。
無事でよかったと素直に喜ぶ者、助かったのかと少し残念そうな者など、敵味方を見極めるにはいい試金石になったと思う。
これは使えるな。
この出来事で味を占めた俺はたびたび規律から外れた行動を起こすようになった。
家庭教師の授業をすっぽかして城外へ出たり、お忍びで市井に降りたり、森での演習の際にはわざとはぐれて皆の反応を見た。
お陰で周囲の者達の内心が分かり、処分するのも捗ったし、そのおまけでそれぞれの族の長の弱点を知ることができたのも僥倖だと思う。
そのころからだんだんと周囲と距離を置くようになった。
勿論そんなことは悟られないようにしている。
あぶり出しの際にこの者になら心を許してもいい、と思った者が間者だったり、と裏切られたような気持ちを味わうことが何度となくあるうちに俺は本音を隠すようになった。
とぼけた行動も全ては計算の内。
王位を継ぐのだからそれでいい、と自分を納得させようとしていた時、父に呼ばれた。
『なぜ呼ばれたか分かるか?』
父は力が正義になりやすい獣人族にしては珍しく堅実な手腕を振るう方で、どちらかと言えば猪突猛進型の母とはたいぶ性質が違うようにみえるが、やはり運命の番ということなのかいつ見ても非常に仲睦まじく、こちらが照れることが多いくらいだった。
『いえ、いっこうに』
『お前の最近の行動は目に余る。あちこちから注進が来ているが、思い当たることはあるか?』
再びの問いに俺は首を振った。
あれらはすべて俺の気紛れであり、計算であると見破られるわけにはいかない。
『まったく心当たりがありません』
そんな俺に父王は頭を振った。
『そうか。ではロミアに話すか』
『待ってください!!』
母ロミアは賢女の評判高い女性だが前述したとおり、いくつかの分野においては思うより先に動くところがある。
この場合だとお説教の後、どうして俺がそんなことをしているのか、と細かく追及された後、俺が目こぼしした者達まで処罰を下そうと張り切る姿が脳裏に浮かび、慌てて制止した。
『ようやく本音が出たな』
笑みを佩いたその表情から俺がどうしてそんなふうにしているのかなどとっくにお見通しのようだった。
食えない父王の前で俺は不機嫌な表情を繕うこともできなかった。
そんな俺を面白そうに眺めながら父王が口を開いた。
『まあ今はそれでもよい。時期にお前にも現れるだろう。共に笑い、ときに悲しみ、互いのなにを見ても決して離れないそんな相手がな』
その時の父王の目は遠くを見ており、誰を想っているのかは一目瞭然だった。
ふいに焦燥感を覚えた俺は強引に会話を切り上げたが、あの時の父王の表情は今でも覚えている。
番がいるとあんな感じになるのか。
互いのどちらかが欠けてもいけない、時には自分の命よりも優先するという運命の番。
まるで呪いのようだと思っていたそれがそれほど悪いものでもないのではないか、と思った。
俺の運命の番はどんな者なんだろうか。
獣人族か、それとも――
だがどんな相手だろうと俺はその相手にすべてを捧げるだろう。
一国の王子という立場もあるが、狼の獣人は総じて身体能力が高く、力も強い。
だから供は要らないと断った。
もちろん、それだけで通じるわけもなく、駆け出す俺の後から何人かついてこようとしたようだったが、そこは上手く撒いておいた。
まだ七歳の俺に撒かれるなんて皆、まだまだだな。
と揚々としていたのがマズかったのか、俺は地面に開いていた縦穴に転落してしまった。
穴の深さは二人分の大人の背丈はありそうで広さは人が立っていられるくらいだ。そのまま夜をすごすのは勘弁したいところである。
その場でジャンプしてみたがやはり届かなかった。
ここで声を上げれば誰かが駆けつけてくれることはわかっていたが、矜持が邪魔をする。
仮にも王族たる者がなんという失態なのか。
幸いにもその後しばらくして助け出されたが、周囲の反応はいくつかに分かれた。
無事でよかったと素直に喜ぶ者、助かったのかと少し残念そうな者など、敵味方を見極めるにはいい試金石になったと思う。
これは使えるな。
この出来事で味を占めた俺はたびたび規律から外れた行動を起こすようになった。
家庭教師の授業をすっぽかして城外へ出たり、お忍びで市井に降りたり、森での演習の際にはわざとはぐれて皆の反応を見た。
お陰で周囲の者達の内心が分かり、処分するのも捗ったし、そのおまけでそれぞれの族の長の弱点を知ることができたのも僥倖だと思う。
そのころからだんだんと周囲と距離を置くようになった。
勿論そんなことは悟られないようにしている。
あぶり出しの際にこの者になら心を許してもいい、と思った者が間者だったり、と裏切られたような気持ちを味わうことが何度となくあるうちに俺は本音を隠すようになった。
とぼけた行動も全ては計算の内。
王位を継ぐのだからそれでいい、と自分を納得させようとしていた時、父に呼ばれた。
『なぜ呼ばれたか分かるか?』
父は力が正義になりやすい獣人族にしては珍しく堅実な手腕を振るう方で、どちらかと言えば猪突猛進型の母とはたいぶ性質が違うようにみえるが、やはり運命の番ということなのかいつ見ても非常に仲睦まじく、こちらが照れることが多いくらいだった。
『いえ、いっこうに』
『お前の最近の行動は目に余る。あちこちから注進が来ているが、思い当たることはあるか?』
再びの問いに俺は首を振った。
あれらはすべて俺の気紛れであり、計算であると見破られるわけにはいかない。
『まったく心当たりがありません』
そんな俺に父王は頭を振った。
『そうか。ではロミアに話すか』
『待ってください!!』
母ロミアは賢女の評判高い女性だが前述したとおり、いくつかの分野においては思うより先に動くところがある。
この場合だとお説教の後、どうして俺がそんなことをしているのか、と細かく追及された後、俺が目こぼしした者達まで処罰を下そうと張り切る姿が脳裏に浮かび、慌てて制止した。
『ようやく本音が出たな』
笑みを佩いたその表情から俺がどうしてそんなふうにしているのかなどとっくにお見通しのようだった。
食えない父王の前で俺は不機嫌な表情を繕うこともできなかった。
そんな俺を面白そうに眺めながら父王が口を開いた。
『まあ今はそれでもよい。時期にお前にも現れるだろう。共に笑い、ときに悲しみ、互いのなにを見ても決して離れないそんな相手がな』
その時の父王の目は遠くを見ており、誰を想っているのかは一目瞭然だった。
ふいに焦燥感を覚えた俺は強引に会話を切り上げたが、あの時の父王の表情は今でも覚えている。
番がいるとあんな感じになるのか。
互いのどちらかが欠けてもいけない、時には自分の命よりも優先するという運命の番。
まるで呪いのようだと思っていたそれがそれほど悪いものでもないのではないか、と思った。
俺の運命の番はどんな者なんだろうか。
獣人族か、それとも――
だがどんな相手だろうと俺はその相手にすべてを捧げるだろう。
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