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第47話 奥の手 ( ???side )

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 カラカムの言葉に皆の視線が彼に集まった。

 運命の番ならばその相手がどこに居るのか位の見当は付く。

 そう思ってのことだったが何故かベリルは顔を顰めていた。

「どうされたのですか? 王妃様は番様でしょう? 居所などすぐにお分かりになるのでは?」

 それに『影』の存在もあるので、命じれば居所などすぐに分かるはずだった。

「分かるは分かるんだがな」
 
 現在互いの心が読める『過剰共鳴』は首飾りチョーカーで封じてあるが、互いの位置くらいなら見当が付く。

「どういうことですか?」
 
 側近リヨンが問い掛けるとベリルは自分の首飾りチョーカーに手を当てた。

「どうもローズは俺に来てほしくないらしい」
 
 その様子から何となくそう感じているらしい。

(まあ、あの記憶を見たんじゃね)

「――は?」

 疑問の声が上がったが何となく分かった。

 ベリルの死因はいろいろあるが、自分ローズを庇ってのものもある。

(顔を会わせ辛いだろうね)
 
 恐らく、自分と顔を会わせない方がベリルの生存率が上がる、とでも思っているのだろう。

(気持ちは分かるが悪手な気がするよ)

 現に目の前のベリルは不機嫌そうだ。

「一応無事なようだが、拒否するとは。……俺は何か悪いことでもしたか?」

「愛情の押し付けはいけませんよ」

 そんなベリルに側近が諭すように話し掛けた。

「押し付けたつもりはないが」

「どうでしょうかね。運命の番でも意見の違いはあったりしますから」

「ふむ。それはお前の経験則か」

「え、いや何でこっちに振るんですか!?」

「違うのか? 実感が籠っているように見えたが」

「気のせいですよ!! それよりも今は王妃様のことが大事では!?」

(そう言えば側近殿のところも運命の番だったかい)

 過去に何かあったんだろうな、と周囲から生温い視線が集まる。

「ただのたとえ話ですから!!」

 焦った様子の側近殿を余所に彼がこちらを向いた。

「何か心当たりはあるか?」

 大いにあるがそれをそのまま話していいものか。

(自分の恥を晒すようであまり言いたくないんだけどね)

「恐らくですが、今は一緒にいない方がいいと思ったのではないでしょうか」

 周囲の温度が下がったような気がした。

「どういう意味だ?」

「貴方の死因は幾つかありますが、自分ローズを庇ってのものもあります」

 そこまで言うと理解したようだ。

 すぐに立ち上がった彼に側近殿が声を掛ける。

「陛下?」
 
「迎えに行く」

 そのまま廊下へ出ると迷いなく地下への通路を選択する。

「貴女は向こうで待機していた方がいい」

 そう言われたがそれでは意味がない。

「こんな見た目ですが体力はあります」

 そう告げて無理矢理着いて行った。

 途中、刺客と思われる輩が襲って来たが護衛もいるし、彼も武人のため呆気なく決着は付いた。

「よく釣れるな」

「陛下が仮面舞踏会なんて開催されるからでしょう!!」

「文句を言うな。一番の獲物はちゃんと掛かってくれたんだから」

(一番の獲物……?)

 不思議に思っていると何故か視線がこちらを向いた。

(まさか――)

 ひく、と顔が引きつりそうになった時だった。

 国を守るものとは別に王城の周囲に張り巡らされた結界の一部が解けたのが分かった。

 この結界は筆頭魔術師が今回のために緻密な計算の元張ったものだ。

 そんじょそこらの輩に壊せるはずはないのだが。

(今ここを離れるのは不自然だね)

 それに時が迫っている。

(遠隔操作が出来ればよかったんだけどね)

 奇しくもかの筆頭魔術師と同じことを思っているとは知らずに城内を進んでいると、向こうから誰か来るのが見えた。

 記憶を爪繰ってあの梟の獣人は――と思った時、彼が口を開いた。

「サテマス。何故お前がここにいる?」

「これは陛下。申し訳ありません。少しお話ししたいことがありまして」

 何か違和感を感じたが頭の中を整理するより先にサテマスが彼に近付いた。

「……どういうつもりだ?」

 軽い音を立てて短剣が落ちる。

「――何故」

「そんなにローズの匂いを纏わりつかせてその態度。怪しんでくれ、と言っているようなものだが」

 捕縛された宰相は何故か口の端を上げた。

「人族の王妃など――」

 そこまで聞いた途端ベリルの殺気が膨れ上がったようだった。

「彼女を侮辱するな!!」

 だがそう怒鳴ったベリルの身体が均衡を崩した。

「陛下っ!!」

「流石の貴方もキルギスクの毒は知らなかったでしょう」

(あの短剣に毒が!!)

 避けたと思っていたのだが、どこか掠めていたらしい。

 蹲るベリルの顔色は悪い。

 これまでの知識を総動員して探すがキルギスクの毒など、聞いたこともなかった。

(ここまで来て……)

 どこまで運命は邪魔をするのか。

 王族――しかも国王ならば大抵の場合、毒に身を慣らしてある。

 それなのにここまで苦しんでいるとは本当に未知の毒のようだ。

(これはいよいよ使う時が来たみたいだね)

 これが最後か分からないが今の状態を見過ごす訳には行かない。

 魔力を練り、『奥の手』の魔術を展開した。

 これは言わば『身代わり』の魔術。

 相手の状態異常を全て引き受けるが、その相手が瀕死だった場合には死に至るもの。

(まさかこんなに早く使うことになるとは)

 まだ先があるような気がしてならないが、ここで使うしかないだろう。

 魔術を展開し終えた瞬間、一気に息苦しくなった。

 胸を中心に激痛が走り、思わず床に膝をつく。

(これ、で、いい)

 周りで誰かが何か叫んでいるようだがもう分からなかった。

 これできっと彼は助かる。

 思えば最初からこうすればよかったのかもしれない。

 出来なかったのはただの利己主義エゴだろう。

 これできっと彼の死の運命は変わる。

(後は頼んだよ――)

 この世界の自分ローズに後を託してそのまま意識が途切れるのに身を任せた。






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