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第40話 仮面舞踏会 ② (ギルバート side)
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舞踏会会場は盛況のようだった。
(今のところ、怪しげな素振りをする奴はいないみたいだな)
俺は仮装とはいっても普段からこのローブ姿なので特に工夫はしていなかった。
この黒いローブと目を隠す黒い仮面で魔術師の仮装ということで勘弁して貰いたい。
この仮装のことを知った陛下や王妃様は何か言いたそうだったが、会場内の警備も兼ねているので、と無理矢理納得させた。
今日までこれまでのことを元に出来る限りの手は打ったつもりだ。
(カントローサの刺客も密偵も分かる限りは押さえたし、内部の不穏分子は掌握してある)
それでもまだ何か見落としているような気がしてならない。
会場内に再び目を向けた時、癇に障る匂いが鼻腔を刺激した。
流石に獣人のご令嬢や夫人達は弁えているが、人族は思い切り香水を振りまいていたため、俺は一旦庭へ出ることにした。
大きく間口を取られた出入り口から庭へ出ると木々の爽やかな匂いが夜風に乗って流れてきた。
(酷い目にあった)
大広間を中心に張った結界に異常がないことを確認した俺は少しだけ庭を散策することにした。
散策とはいっても王城沿いに少し歩くだけだ。
(何があるか分からないからな)
王城の警備は第一騎士団が受け持っているが、今回は人数が多いため、第二第三騎士団も駆り出されていた。
勿論俺達魔術師も例に漏れない。
第三の間まで歩いたところで俺は足を止めた。
他国に比べると騎士と魔術師達の軋轢は少ないとはいえ、あちらこちらに騎士の姿が見えている。
あまり彼らを刺激するのは得策ではなく、そろそろ戻ろうか、と思った時だった。
「おや、これは筆頭魔術師殿。こんなところまでどうしました?」
その声を聞いて俺はここまで足を伸ばしてしまった自分を蹴り飛ばしてやりたくなった。
(何で寄りによってここに君が居るんだ!!)
俺は殊更平静に聞こえるような声を作った。
「これは失礼しました。会場の熱気に中てられてしまい、少し夜風に当たっておりました。すぐに戻ります。サンダース副団長殿」
俺の言葉を聞いたサンダース副団長はああ、と頷いた。
「人族も沢山招待したせいか、凄い匂いですよね。私の部下も何名か鼻を治しに行ってますよ」
今回の仮面舞踏会では警備に当たる騎士達も仮面の着用を義務付けられているため、彼女も仮面を付けていたがその魅力は少しも損われてなかった。
明るい金茶の髪は広間の明かりを受けて煌めいているように見え、その長い耳に誘われているような気さえする。
(鎮静剤は効いているよな)
何とか欲望を抑え、適当な辞去の挨拶をしようとした時、彼女が口を開いた。
「それにしても王妃様には驚かされますね」
「王妃様が何か?」
「人族は獣人の番に向かない、ということを聞いたことあったので。杞憂だったようです」
それは言えることだった。
ぱっと見は共通点が多いように思える人族だったが、感覚は全く違っていた。
獣人にとっては至極簡単なことが人族には全く通じない。
そんなことが何度かあって漸く思い知らされるのだ。
彼らとは全く違う生き物なのだと。
「私は王妃様が人族だと知って正直この方で大丈夫なのか、と思ってしまいました。恐らくそれは幾らか態度にも出ていたと思います」
仕方がないだろう。
人族との番の例は少なく、またそれが上手くいったことなど聞いたことがなかったのだから。
(でもあの方は違う)
番との別れを経験したのに、禁術まで使って運命を変えようとしているのだ。
その方の平行世界の同一人物が釣り合わないはずがない。
「ここ数日であれほどの変化があるとは思いませんでした」
これまでのあの方は陛下の情をただひたすら否定するような態度が多かった。
というよりも陛下が向ける番としての情愛に全く気付いていないように思えた。
それが今はどうだろう。
気恥ずかしさが勝つのか否定するような態度が見られても、それは陛下の情愛を受け入れてからの反応に過ぎない。
それらは我ら獣人がよく見慣れている番同士のやり取りにしか見えなかった。
「国王夫妻の姿は人族でも運命の番足りえるということを教えてくれました。そこで」
ん? と訝しんだ時には真摯なトパーズ色の瞳が俺を見ていた。
「私達のどちらも人族ではなく、ましてや運命の番でもない。それでも惹かれ合うものはあると思っているのですが」
――どうか私と……。
(マズいマズいマズい!!)
俺が断りの言葉を口に出そうとした時、結界に反応があった。
「すみません!! 俺には無理です!! あと、結界に反応があったので失礼します!!」
後先考えずに俺はそう叫んでそこを後にした。
結界に反応があったのは本当だし、それでここから逃れられると思ったのだが。
「待って下さい!!」
俺が叫んだ内容はそのどちらもが捨て置けないものだったらしく、後から追ってくる気配がしたので、咄嗟に非常用の魔術を展開してそこから移動する。
傍からは俺が一瞬でそこから消えたように見えただろう。
(もうこれで追ってこれないよな)
反応のあった結界の方へ向かいながらも何故か落ち込む俺がいた。
(今のところ、怪しげな素振りをする奴はいないみたいだな)
俺は仮装とはいっても普段からこのローブ姿なので特に工夫はしていなかった。
この黒いローブと目を隠す黒い仮面で魔術師の仮装ということで勘弁して貰いたい。
この仮装のことを知った陛下や王妃様は何か言いたそうだったが、会場内の警備も兼ねているので、と無理矢理納得させた。
今日までこれまでのことを元に出来る限りの手は打ったつもりだ。
(カントローサの刺客も密偵も分かる限りは押さえたし、内部の不穏分子は掌握してある)
それでもまだ何か見落としているような気がしてならない。
会場内に再び目を向けた時、癇に障る匂いが鼻腔を刺激した。
流石に獣人のご令嬢や夫人達は弁えているが、人族は思い切り香水を振りまいていたため、俺は一旦庭へ出ることにした。
大きく間口を取られた出入り口から庭へ出ると木々の爽やかな匂いが夜風に乗って流れてきた。
(酷い目にあった)
大広間を中心に張った結界に異常がないことを確認した俺は少しだけ庭を散策することにした。
散策とはいっても王城沿いに少し歩くだけだ。
(何があるか分からないからな)
王城の警備は第一騎士団が受け持っているが、今回は人数が多いため、第二第三騎士団も駆り出されていた。
勿論俺達魔術師も例に漏れない。
第三の間まで歩いたところで俺は足を止めた。
他国に比べると騎士と魔術師達の軋轢は少ないとはいえ、あちらこちらに騎士の姿が見えている。
あまり彼らを刺激するのは得策ではなく、そろそろ戻ろうか、と思った時だった。
「おや、これは筆頭魔術師殿。こんなところまでどうしました?」
その声を聞いて俺はここまで足を伸ばしてしまった自分を蹴り飛ばしてやりたくなった。
(何で寄りによってここに君が居るんだ!!)
俺は殊更平静に聞こえるような声を作った。
「これは失礼しました。会場の熱気に中てられてしまい、少し夜風に当たっておりました。すぐに戻ります。サンダース副団長殿」
俺の言葉を聞いたサンダース副団長はああ、と頷いた。
「人族も沢山招待したせいか、凄い匂いですよね。私の部下も何名か鼻を治しに行ってますよ」
今回の仮面舞踏会では警備に当たる騎士達も仮面の着用を義務付けられているため、彼女も仮面を付けていたがその魅力は少しも損われてなかった。
明るい金茶の髪は広間の明かりを受けて煌めいているように見え、その長い耳に誘われているような気さえする。
(鎮静剤は効いているよな)
何とか欲望を抑え、適当な辞去の挨拶をしようとした時、彼女が口を開いた。
「それにしても王妃様には驚かされますね」
「王妃様が何か?」
「人族は獣人の番に向かない、ということを聞いたことあったので。杞憂だったようです」
それは言えることだった。
ぱっと見は共通点が多いように思える人族だったが、感覚は全く違っていた。
獣人にとっては至極簡単なことが人族には全く通じない。
そんなことが何度かあって漸く思い知らされるのだ。
彼らとは全く違う生き物なのだと。
「私は王妃様が人族だと知って正直この方で大丈夫なのか、と思ってしまいました。恐らくそれは幾らか態度にも出ていたと思います」
仕方がないだろう。
人族との番の例は少なく、またそれが上手くいったことなど聞いたことがなかったのだから。
(でもあの方は違う)
番との別れを経験したのに、禁術まで使って運命を変えようとしているのだ。
その方の平行世界の同一人物が釣り合わないはずがない。
「ここ数日であれほどの変化があるとは思いませんでした」
これまでのあの方は陛下の情をただひたすら否定するような態度が多かった。
というよりも陛下が向ける番としての情愛に全く気付いていないように思えた。
それが今はどうだろう。
気恥ずかしさが勝つのか否定するような態度が見られても、それは陛下の情愛を受け入れてからの反応に過ぎない。
それらは我ら獣人がよく見慣れている番同士のやり取りにしか見えなかった。
「国王夫妻の姿は人族でも運命の番足りえるということを教えてくれました。そこで」
ん? と訝しんだ時には真摯なトパーズ色の瞳が俺を見ていた。
「私達のどちらも人族ではなく、ましてや運命の番でもない。それでも惹かれ合うものはあると思っているのですが」
――どうか私と……。
(マズいマズいマズい!!)
俺が断りの言葉を口に出そうとした時、結界に反応があった。
「すみません!! 俺には無理です!! あと、結界に反応があったので失礼します!!」
後先考えずに俺はそう叫んでそこを後にした。
結界に反応があったのは本当だし、それでここから逃れられると思ったのだが。
「待って下さい!!」
俺が叫んだ内容はそのどちらもが捨て置けないものだったらしく、後から追ってくる気配がしたので、咄嗟に非常用の魔術を展開してそこから移動する。
傍からは俺が一瞬でそこから消えたように見えただろう。
(もうこれで追ってこれないよな)
反応のあった結界の方へ向かいながらも何故か落ち込む俺がいた。
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