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第34話 ローズ・ファラント ②
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そこからは試行錯誤の繰り返しだった。
別れた自分は次の世界でも時間遡行を繰り返し、番が亡くならない未来を構築しようとした。
国内の派閥を掌握するのは勿論、国外の脅威も排除したが、それでも――。
『どうして……』
番が消える未来はなかなか変わらなかった。
そして自分は少し違う方法を試すことにする。
懐から取り出したのは銀の髪飾り。
番がローズのために作らせたものだった。
『銀の髪に銀だなんて』
嬉しかったのに文句しか返せなかったその時の自分が恨めしい。
その髪飾りに魔術を定着させる。
ある一定の条件を達成することでこれまでの自分の記憶が蘇るようにしておくのだ。
毎回、自分に説明するのも手間暇だということもあるが、これはひとつの世界に同じ人物が『二人』存在してはならない、ということに気付いたこともある。
世界に強制排除される前に手っ取り早く状況を理解してもらうにはこの方が都合が良かった。
そして自分の年齢と魔力の残り具合から次の世界が最後、と決めていた。
その世界では少しだけ違う接触を試みた。
わざと自分が生まれるよりずっと以前の世界へ行き、自分の父親と会った。
相手は貴族なので潜入に手間取ったが何とか言葉を交わし、将来の家族に感情を向けられるように持って行く。
かなり回りくどい方法だが、恐らくこれで生まれる新しい自分の性格に良い影響が生まれるかもしれない。
少なくともどのような出会いでも最初から拒絶するようなことはないだろう。
そして今回は自分がある程度成長するまで番と出会わないようにした。
人族のローズがベリルの『運命の番』だと分かったのか。それには理由があった。
シュガルト国とカントローサ国との国境線での小競り合いの中、敗残兵が持っていた所有物からローズの存在が知れたのだ。
ローズが始めて刺繍を施したハンカチだった。
それは本来ならば父親へ送ろうとしたのだが、どうしても渡すことが出来ず、思わず捨てようとした時、見かねたのか出入りの人の好さげな商人が受け取ってくれた。
だがその商人は運悪く盗賊に襲われ、盗賊と結託していたカントローサ国の兵士に強奪に遭い亡くなってしまう。
そんな経緯など知らないシュガルト国側はローズの生家がカントローサ国へ与していると考え、ローズを嫁せば見逃してやろうと話を持ち出したのだ。
そんな流れで運命の番だと言われても納得できるはずもなく。
『これはお前のものだろう』
見せられたハンカチは微かに血痕がついていて。
『……ベンヌ叔父様に何をしたの?』
『そんな者は知らないが。――まだ何か裏があったのか』
事情は後から知れたがその頃には関係の修復は不可能なほどになっていた。
『ベンヌ叔父様が死んだ? 貴方達が殺したの!?』
『違う!! これはカントローサの――』
『もう、いい。叔父様までいないなんて……』
元々家族の愛情が希薄だったローズの心の拠り所の一つでもあった商人の死を知らされ、ローズの心は更に閉ざされた。
俯瞰して見ていたローズはそこでも違和感を感じた。
(変ね? ベンヌなどという商人は知らないのだけれど――)
その疑問はすぐに晴れることになる。
時間遡行した自分が策を講じたのだ。
最初の頃は直接ベンヌの商隊を助けていたが、それでも後に何度も襲われ、似たような流れが出来上がってしまう。
なので今度は違う方法を取ることにした。
要は父親がローズの刺繍したハンカチを受け取ればいいのだ。
自分の忠告を受けたせいか、父親は以前ほど厳しい態度を見せず、ローズの拙い刺繍入りハンカチを受け取った。
(――え?)
『これをお前が仕上げたのか?』
『はい。お父様』
緊張しながら答えたローズにファラント公爵は優しい笑み浮かべた。
『そうか。良くやったな』
『有難うございます』
どうして忘れていたのか。
そしてこの後兄ダニエルにも強請られてもう一枚ハンカチに刺繍するはめになったことも。
(どうして思い出せなかったのかしら?)
ローズは――少なくとも現在は――家族の愛情が希薄な子供ではなかった。
そして以前はなかったはずのエドモンドとの婚約。
これでどうやって番と出会うというのだろう。
エドモンドが『運命の番』と出会い、婚約が解消されるのも知っている。
修道院へ行く段になって漸くローズは気が付いた。
あの蹲っていた老婆は自分なのだ、と。
そして礼にと渡された銀の髪飾り。
それは確かにベリルが選んだという髪飾りだった。
(だけど――)
これは後にベリルから贈られるものである。
後から矛盾にならないだろうか。
それに受け取りはしたが、髪飾りから記憶を受け取った感覚は――
『ちょうど頃合いだね』
聞いたことのある声がし、ローズの意識は引き戻される。
(待って――)
まだ情報が足りない。
抗うローズの意識に幾つかの場面の断片のようなものが掠めた。
『……どうして貴女が、』
『もっと力が欲しい』
『俺に番なんて居ません』
(あ、れは――)
別れた自分は次の世界でも時間遡行を繰り返し、番が亡くならない未来を構築しようとした。
国内の派閥を掌握するのは勿論、国外の脅威も排除したが、それでも――。
『どうして……』
番が消える未来はなかなか変わらなかった。
そして自分は少し違う方法を試すことにする。
懐から取り出したのは銀の髪飾り。
番がローズのために作らせたものだった。
『銀の髪に銀だなんて』
嬉しかったのに文句しか返せなかったその時の自分が恨めしい。
その髪飾りに魔術を定着させる。
ある一定の条件を達成することでこれまでの自分の記憶が蘇るようにしておくのだ。
毎回、自分に説明するのも手間暇だということもあるが、これはひとつの世界に同じ人物が『二人』存在してはならない、ということに気付いたこともある。
世界に強制排除される前に手っ取り早く状況を理解してもらうにはこの方が都合が良かった。
そして自分の年齢と魔力の残り具合から次の世界が最後、と決めていた。
その世界では少しだけ違う接触を試みた。
わざと自分が生まれるよりずっと以前の世界へ行き、自分の父親と会った。
相手は貴族なので潜入に手間取ったが何とか言葉を交わし、将来の家族に感情を向けられるように持って行く。
かなり回りくどい方法だが、恐らくこれで生まれる新しい自分の性格に良い影響が生まれるかもしれない。
少なくともどのような出会いでも最初から拒絶するようなことはないだろう。
そして今回は自分がある程度成長するまで番と出会わないようにした。
人族のローズがベリルの『運命の番』だと分かったのか。それには理由があった。
シュガルト国とカントローサ国との国境線での小競り合いの中、敗残兵が持っていた所有物からローズの存在が知れたのだ。
ローズが始めて刺繍を施したハンカチだった。
それは本来ならば父親へ送ろうとしたのだが、どうしても渡すことが出来ず、思わず捨てようとした時、見かねたのか出入りの人の好さげな商人が受け取ってくれた。
だがその商人は運悪く盗賊に襲われ、盗賊と結託していたカントローサ国の兵士に強奪に遭い亡くなってしまう。
そんな経緯など知らないシュガルト国側はローズの生家がカントローサ国へ与していると考え、ローズを嫁せば見逃してやろうと話を持ち出したのだ。
そんな流れで運命の番だと言われても納得できるはずもなく。
『これはお前のものだろう』
見せられたハンカチは微かに血痕がついていて。
『……ベンヌ叔父様に何をしたの?』
『そんな者は知らないが。――まだ何か裏があったのか』
事情は後から知れたがその頃には関係の修復は不可能なほどになっていた。
『ベンヌ叔父様が死んだ? 貴方達が殺したの!?』
『違う!! これはカントローサの――』
『もう、いい。叔父様までいないなんて……』
元々家族の愛情が希薄だったローズの心の拠り所の一つでもあった商人の死を知らされ、ローズの心は更に閉ざされた。
俯瞰して見ていたローズはそこでも違和感を感じた。
(変ね? ベンヌなどという商人は知らないのだけれど――)
その疑問はすぐに晴れることになる。
時間遡行した自分が策を講じたのだ。
最初の頃は直接ベンヌの商隊を助けていたが、それでも後に何度も襲われ、似たような流れが出来上がってしまう。
なので今度は違う方法を取ることにした。
要は父親がローズの刺繍したハンカチを受け取ればいいのだ。
自分の忠告を受けたせいか、父親は以前ほど厳しい態度を見せず、ローズの拙い刺繍入りハンカチを受け取った。
(――え?)
『これをお前が仕上げたのか?』
『はい。お父様』
緊張しながら答えたローズにファラント公爵は優しい笑み浮かべた。
『そうか。良くやったな』
『有難うございます』
どうして忘れていたのか。
そしてこの後兄ダニエルにも強請られてもう一枚ハンカチに刺繍するはめになったことも。
(どうして思い出せなかったのかしら?)
ローズは――少なくとも現在は――家族の愛情が希薄な子供ではなかった。
そして以前はなかったはずのエドモンドとの婚約。
これでどうやって番と出会うというのだろう。
エドモンドが『運命の番』と出会い、婚約が解消されるのも知っている。
修道院へ行く段になって漸くローズは気が付いた。
あの蹲っていた老婆は自分なのだ、と。
そして礼にと渡された銀の髪飾り。
それは確かにベリルが選んだという髪飾りだった。
(だけど――)
これは後にベリルから贈られるものである。
後から矛盾にならないだろうか。
それに受け取りはしたが、髪飾りから記憶を受け取った感覚は――
『ちょうど頃合いだね』
聞いたことのある声がし、ローズの意識は引き戻される。
(待って――)
まだ情報が足りない。
抗うローズの意識に幾つかの場面の断片のようなものが掠めた。
『……どうして貴女が、』
『もっと力が欲しい』
『俺に番なんて居ません』
(あ、れは――)
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