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第28話 番の資格

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 授業の後、ローズはベリルの部屋へ向かった。

 部屋の前へ着くと控えていた衛兵が心得たとばかりに扉を開けてくれた。

 中へ入り、寝室へ続く小部屋を抜けてベリルが横たわる寝台へ近付く。

 付き添っていた侍女が一礼して出て行くが、その際もほんの一瞬だが怪訝そうな視線を浴びた気がした。

「あの侍女は配置換えされた方がよろしいのでは?」

 ごく小さな声でアンヌが提案してきたため、気のせいではなかったようだ。

 ローズは軽く首を振る。

「いいのよ」

 彼女達の疑問も最もなことなのだから。

 ベリルの呼吸は前に比べると良くなったように見えるが、まだ目を覚まさない。

 声を掛けてみようか、とは何度も思った。

 だがどうしてもそこから先に進めない。

 もし声を掛けても何の反応もなかったら。

 ここに居る侍女はアンヌだけだが、それでも怖かった。

 自分は番ではないのではないか、と言われるのが。

 勿論アンヌがそんなことを言うはずがないとは分かっていたが、それでもローズは声を掛けることが出来なかった。

 暫く規則正しい呼吸音を確かめた後、ローズは退出した。

 廊下に待機していた侍女に後を任せるが、その際少しばかりの期待の籠った目を向けられ、それに首を振って答える。

 失望の色を隠せない侍女が部屋へ入って行くのを見送り、自室へ戻ろうとした時だ。

「お義兄さまは目を覚ましたの?」

 アンジェ嬢がややキツい口調で聞いてきた。

 ここは王城とはいえまだ廊下である。

 こんな誰が聞いているかも分からない場所でベリルのことを話したくなかった。

「それに関してはあちらで話しませんか」

 自室へ案内し、アンヌにお茶の用意を頼んだ。

 用意が整ったところでローズは口を開いた。

「まだ目を覚まされてないわ」

 次に来るだろう罵倒を堪える心構えをしながら。

「はあ!? 冗談よね? あれから何日経ったと思ってるの? 三日よ!! そんなに経つのにどうしてお義兄さまは目を覚まさないのよ!?」

 ――貴女、本当にお義兄さまの番なの!?

 アンジェ嬢が怒鳴るだけ怒鳴って最後にそう言うと、こっちだってそんなに暇じゃないのよ、と去って行くのが定番だった。

 だが、今日は少し違っていた。

 最後に怒鳴って堪えきれないというふうに席を立つまではこれまでと変わらなかったが、

「……早くお義兄さまを起こしてあげて。話がややこしくなる前に」

(え?)

 それは一体どういうことか、とローズが聞くより先にアンジェ嬢が身を翻す。

「いいこと? 早くお義兄さまを起こすのよ」

 さっさと控えていた侍女に指示して扉を開けさせるとアンジェ嬢は退出して行った。

「全く。無礼な」

 憤慨したようにアンヌが茶器の片づけを侍女に指示する。

(どういう意味かしら?)

 言葉こそ厳しかったが、どこかローズの身を案じているように聞こえたのだ。

 

 当然だがこのシュガルト国にも宰相が存在する。

「運命の番に関してはこちらが口を挟むことではないのですが」

 一見すると獣耳とは分からないそれをふわふわの茶髪に潜ませた宰相が言い辛そうに口を開いた。

 後に聞いたところによると梟の獣人だということだった。

「何でしょう?」

 番に関することなら情報は幾らでも欲しかった。

「現在城内では王妃様に対し、非常に不心得な発言をする者が増えております」

「私が陛下の運命の番ではないのではないか、ということですか」

「申し訳ありません。王妃様の耳にまでお届きとは」

 解雇したり罰を与えることも可能ですが、と宰相に問われたローズは試されている、と感じた。

「今はその必要はありません」

「畏まりました」

「念の為聞きますが、発言内容と発言者は分かっているのですね?」

 いつでも相応の処分はできるのだろう、と問えば是、との答えがあった。

「はっ、幾ら王妃様がこちらの事情に疎いとはいえ、城仕えの者とは思えぬ発言ですから」

 全て控えてあります。

 それを聞いてローズは頷いた。

(私のためではないのね)

 ――ここに味方はいない。

 分かっていたことだが、少しばかり心の奥が痛む。

 そんなローズの胸中を知ってか知らずか、事態が動いた。




「――私はサファイア・ベルガモットよ。貴女がベリルを騙した偽物の番?」

 金色の獣耳を持った金髪碧眼の美女がローズに表面上はにこやかに笑い掛けていた。






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