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第1話 ヒロインイコール悪役令嬢っ!?
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「ロクサーヌ・クライスト公爵令嬢っ!! 貴様との婚約は今日この時を持って破棄するっ!! そして俺はこのロッテ・ブラウン男爵令嬢と婚約を結ぶっ!!」
ダルロ・エリオット・シーズクリースト第3王子の声は卒業パーティー会場となった講堂に響き渡った。
シーズクリースト王国は内陸の小国である。
特産物は黒すぐり等の希少な果物を保存食品にしたものや岩塩が主力で、隣国のガルム帝国のような巨大な軍事力はないが、外交手腕が巧みな宰相の一族と極力敵対勢力を作らないように治世を敷いてきた王家のお陰でここ数十年、大きな戦は起きていなかった。
そのことで多少の緩みが出て来たのかもしれない。
第1王子である王太子や第2王子は堅実な人柄らしいが、その分第3王子に皺寄せが来たようだった。
王妃譲りの金髪碧眼の造作の整った顔立ちなのだが、その顔立ちには経験不足故の甘さが見て取れた。
卒業生は18歳前後であり、これまでの学園生活の中で培ってきた経験からか多少大人びた雰囲気を醸し出す卒業生が多い中、ダルロ第3王子は少々浮いて見えた。
そんなダルロ王子がキッ、と見据えた先には銀髪と青い瞳をした令嬢が佇んでいた。
――クライスト公爵令嬢。
5歳でダルロ王子と婚約を結び、王子妃教育を既に終え、責任感も強く淑女の模範、と女生徒達からは憧れのまた男子生徒からは高嶺の花、と一歩引かれた視線を送られる令嬢。
冷たさを感じるほど整った顔立ちは人を寄せ付けないように見える。
だが、それはあくまで表向きのこと。
きちんと向き合えば彼女がただ冷たく、正論を吐くだけの人物ではないと分かるだろう。
――よほどの単細胞でなければ。
「貴様はロッテが大人しいのをいいことに嫌がらせをしてきただろう? 彼女の悪い噂を故意に流したり、教科書を破損させたり、挙句には階段から突き落としたなっ!!」
鋭い眼差しを受けてもクライスト公爵令嬢の顔は少しも変わらなかった。というよりもどこか呆れ返ったようにも見えた。
その視線を受けた『ロッテ』はこっそりと心の中で詫びた。
(ごめんなさい。こんなことになってしまうなんて。まさか本当に気付かないなんて。巻き込んでしまってごめんなさい。――マリーベル)
そう。現在ダルロ王子の謂れなき叱責を受けているのはロクサーヌではなく、従姉妹のマリーベルだった。
そして本物のロクサーヌは――。
「ああ。こんなに震えて。もう何の心配もないよ」
蕩けるように甘い眼差しを一身に浴びて私――ロッテ・ブラウンことロクサーヌ・クライストは内心恐れおののいた。
(違いますっ!! 感情の起伏を抑えているだけですっ!! まだ気付かないんですのっ!? 有り得ないと思いますがっ!?)
ふわふわの桃色の髪に白い髪飾りを付けた水色の瞳の少女。
魔道具のお陰で髪と瞳の色は変化し、軽い認識障害もあるが、よくよく見れば彼女だと気付くだろう。
現にロッテイコールロクサーヌ、と気付いている者達からは呆れたというような視線がダルロ王子に向けられていた。
「あの、ダルロ様。私、ロクサーヌ様に苛められてなんかいないです」
もう手遅れ、と知ってはいたが思い切って言ってみるが、ダルロ王子は更に甘やかな顔をした。
「そんな嘘は言わなくていいんだよ。誰がどう見ても一連の事件の黒幕はあの女だろう」
(そんな、)
確かに一連の嫌がらせはあったが、それは個々の令嬢がダルロ王子と親しい男爵令嬢のロッテを僻んでのことだった。
(と言いますか、自分で自分を苛める、とは一体どんな状況ですのっ!?)
特に納得がいかないのが階段から落とされたことだ。
男爵令嬢であるロッテに化ける際に何かあっては大変だ、と防御結界を張り巡らせる魔道具を装着していたお陰で事なきを得たが、ぶつかってきた令嬢は真っ青になっていたし、すぐに謝罪もされた。
ほとんど事故だと思うのだが、何故かダルロ王子達の中では『黒幕はロクサーヌで指示された令嬢がロッテを階段から突き落とした』というように情報が変換されていたようだった。
勢いよく恰好を付けてダルロ王子がロクサーヌ(マリーベル)に向き直った。
「これまでロッテはお前に数々の嫌がらせを受けてきたっ!! 貴様の罪は重いっ !! ロクサーヌ・クライスト公爵令嬢っ!! 貴様を国外追放とするっ!!」
(((((((――は?)))))))
ある意味、講堂内の人々の思いが一つになった瞬間だった。
ダルロ・エリオット・シーズクリースト第3王子の声は卒業パーティー会場となった講堂に響き渡った。
シーズクリースト王国は内陸の小国である。
特産物は黒すぐり等の希少な果物を保存食品にしたものや岩塩が主力で、隣国のガルム帝国のような巨大な軍事力はないが、外交手腕が巧みな宰相の一族と極力敵対勢力を作らないように治世を敷いてきた王家のお陰でここ数十年、大きな戦は起きていなかった。
そのことで多少の緩みが出て来たのかもしれない。
第1王子である王太子や第2王子は堅実な人柄らしいが、その分第3王子に皺寄せが来たようだった。
王妃譲りの金髪碧眼の造作の整った顔立ちなのだが、その顔立ちには経験不足故の甘さが見て取れた。
卒業生は18歳前後であり、これまでの学園生活の中で培ってきた経験からか多少大人びた雰囲気を醸し出す卒業生が多い中、ダルロ第3王子は少々浮いて見えた。
そんなダルロ王子がキッ、と見据えた先には銀髪と青い瞳をした令嬢が佇んでいた。
――クライスト公爵令嬢。
5歳でダルロ王子と婚約を結び、王子妃教育を既に終え、責任感も強く淑女の模範、と女生徒達からは憧れのまた男子生徒からは高嶺の花、と一歩引かれた視線を送られる令嬢。
冷たさを感じるほど整った顔立ちは人を寄せ付けないように見える。
だが、それはあくまで表向きのこと。
きちんと向き合えば彼女がただ冷たく、正論を吐くだけの人物ではないと分かるだろう。
――よほどの単細胞でなければ。
「貴様はロッテが大人しいのをいいことに嫌がらせをしてきただろう? 彼女の悪い噂を故意に流したり、教科書を破損させたり、挙句には階段から突き落としたなっ!!」
鋭い眼差しを受けてもクライスト公爵令嬢の顔は少しも変わらなかった。というよりもどこか呆れ返ったようにも見えた。
その視線を受けた『ロッテ』はこっそりと心の中で詫びた。
(ごめんなさい。こんなことになってしまうなんて。まさか本当に気付かないなんて。巻き込んでしまってごめんなさい。――マリーベル)
そう。現在ダルロ王子の謂れなき叱責を受けているのはロクサーヌではなく、従姉妹のマリーベルだった。
そして本物のロクサーヌは――。
「ああ。こんなに震えて。もう何の心配もないよ」
蕩けるように甘い眼差しを一身に浴びて私――ロッテ・ブラウンことロクサーヌ・クライストは内心恐れおののいた。
(違いますっ!! 感情の起伏を抑えているだけですっ!! まだ気付かないんですのっ!? 有り得ないと思いますがっ!?)
ふわふわの桃色の髪に白い髪飾りを付けた水色の瞳の少女。
魔道具のお陰で髪と瞳の色は変化し、軽い認識障害もあるが、よくよく見れば彼女だと気付くだろう。
現にロッテイコールロクサーヌ、と気付いている者達からは呆れたというような視線がダルロ王子に向けられていた。
「あの、ダルロ様。私、ロクサーヌ様に苛められてなんかいないです」
もう手遅れ、と知ってはいたが思い切って言ってみるが、ダルロ王子は更に甘やかな顔をした。
「そんな嘘は言わなくていいんだよ。誰がどう見ても一連の事件の黒幕はあの女だろう」
(そんな、)
確かに一連の嫌がらせはあったが、それは個々の令嬢がダルロ王子と親しい男爵令嬢のロッテを僻んでのことだった。
(と言いますか、自分で自分を苛める、とは一体どんな状況ですのっ!?)
特に納得がいかないのが階段から落とされたことだ。
男爵令嬢であるロッテに化ける際に何かあっては大変だ、と防御結界を張り巡らせる魔道具を装着していたお陰で事なきを得たが、ぶつかってきた令嬢は真っ青になっていたし、すぐに謝罪もされた。
ほとんど事故だと思うのだが、何故かダルロ王子達の中では『黒幕はロクサーヌで指示された令嬢がロッテを階段から突き落とした』というように情報が変換されていたようだった。
勢いよく恰好を付けてダルロ王子がロクサーヌ(マリーベル)に向き直った。
「これまでロッテはお前に数々の嫌がらせを受けてきたっ!! 貴様の罪は重いっ !! ロクサーヌ・クライスト公爵令嬢っ!! 貴様を国外追放とするっ!!」
(((((((――は?)))))))
ある意味、講堂内の人々の思いが一つになった瞬間だった。
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