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72.幕間――王の血筋⑨
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ぽつり、と水滴が床に落ちた。
「俺は怖かった。……笑われるのが。本当なら立派なおう……貴族にならないといけないから、魔法の勉強なんて止めなさい、って言われるのが。だから」
大人の理屈で言いくるめられる前に、行動で示したかった。
「そのことを話したことはなかったのね」
「だって。誰も俺の話なんて聞いてくれやしないだろ」
大人は子供の話なんて聞いてくれやしないんだから。
(くっそ。早く収まれ)
心ん中で悪態をついていると、頭に何かが触れた。
「言ってよかったのですよ。話を聞いた限りではその新しい保護者の方はそれほどひどい方には聞こえなかったですよ」
頭を撫でられている、と思った次の瞬間、俺は抱き締められていた。
「あの、」
「よく、耐えましたね」
それはこれまで聞いたなかで一番ぬくもりを感じる言葉だった。
だけど俺はつい、
「同情なんかいらない」
「これまでのことを考えると仕方ないのでしょうが、これは同情ではありませんよ。あなたがもう少し落ち着いて周りを見られるようになったら、分かるかもしれませんね」
労わるようなリナの瞳が俺を見下ろしていた。
(……リナって思ったより胸あるな)
そう思ったのは生涯の秘密にしておこうと思う。
そこでお開きとなって俺はリナ達と別れ、宿屋に着いてからしっかりとお説教を食らった。
誰に、って?
「ふうん。君はこの辺りに住む子供達に『悪漢から逃げるのに力を貸してくれ』って頼んだの?」
とっくに宿へ戻ってた大賢者サマです。
相変わらずの拳を食らって頭を押さえていると、
「いいかい? この国では火事は一大事なんだよ。だからどんな悪党でもこういった嘘は使わないんだ」
「あいつらは俺のためにやってくれたんだ」
「この騒ぎで叩き起こされた騎士団や火消しに集まってくれた有志、安眠を妨害された市民、それから――」
「だからそれは俺が」
「うん? まだ分かってないようだね。この咎は始めに火事だと叫んだ子供達だからね」
言外に君は関係ないよ、と言われたようだった。
「だって俺は――」
『新しい保護者の方はそれほどひどい方には聞こえなかったですよ』
俺は勢いよく頭を下げた。
「ごめんっ!! ライン、俺が悪かったっ!!」
そこからは一気に話した。
母ちゃんの復讐がしたくてフリント王国で魔法を学びたかった、というところまで話すと、
「それだったら俺が教えたのに」
(どこか落ち込んで聞こえるのは気のせいかな)
「本当に教えてくれるのか?」
「どういう意味かな?」
「だって、俺は立派な王族にならないといけないんだろ?」
てっきりそんなことをしている暇はない、って言われると思った。
そう返すと大賢者は眉を寄せた。
「カイン様、貴方とはもう少しきちんとお話をしたほうが良さそうですね」
(何かすっげぇ圧きたぁっ!!)
「俺は怖かった。……笑われるのが。本当なら立派なおう……貴族にならないといけないから、魔法の勉強なんて止めなさい、って言われるのが。だから」
大人の理屈で言いくるめられる前に、行動で示したかった。
「そのことを話したことはなかったのね」
「だって。誰も俺の話なんて聞いてくれやしないだろ」
大人は子供の話なんて聞いてくれやしないんだから。
(くっそ。早く収まれ)
心ん中で悪態をついていると、頭に何かが触れた。
「言ってよかったのですよ。話を聞いた限りではその新しい保護者の方はそれほどひどい方には聞こえなかったですよ」
頭を撫でられている、と思った次の瞬間、俺は抱き締められていた。
「あの、」
「よく、耐えましたね」
それはこれまで聞いたなかで一番ぬくもりを感じる言葉だった。
だけど俺はつい、
「同情なんかいらない」
「これまでのことを考えると仕方ないのでしょうが、これは同情ではありませんよ。あなたがもう少し落ち着いて周りを見られるようになったら、分かるかもしれませんね」
労わるようなリナの瞳が俺を見下ろしていた。
(……リナって思ったより胸あるな)
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そこでお開きとなって俺はリナ達と別れ、宿屋に着いてからしっかりとお説教を食らった。
誰に、って?
「ふうん。君はこの辺りに住む子供達に『悪漢から逃げるのに力を貸してくれ』って頼んだの?」
とっくに宿へ戻ってた大賢者サマです。
相変わらずの拳を食らって頭を押さえていると、
「いいかい? この国では火事は一大事なんだよ。だからどんな悪党でもこういった嘘は使わないんだ」
「あいつらは俺のためにやってくれたんだ」
「この騒ぎで叩き起こされた騎士団や火消しに集まってくれた有志、安眠を妨害された市民、それから――」
「だからそれは俺が」
「うん? まだ分かってないようだね。この咎は始めに火事だと叫んだ子供達だからね」
言外に君は関係ないよ、と言われたようだった。
「だって俺は――」
『新しい保護者の方はそれほどひどい方には聞こえなかったですよ』
俺は勢いよく頭を下げた。
「ごめんっ!! ライン、俺が悪かったっ!!」
そこからは一気に話した。
母ちゃんの復讐がしたくてフリント王国で魔法を学びたかった、というところまで話すと、
「それだったら俺が教えたのに」
(どこか落ち込んで聞こえるのは気のせいかな)
「本当に教えてくれるのか?」
「どういう意味かな?」
「だって、俺は立派な王族にならないといけないんだろ?」
てっきりそんなことをしている暇はない、って言われると思った。
そう返すと大賢者は眉を寄せた。
「カイン様、貴方とはもう少しきちんとお話をしたほうが良さそうですね」
(何かすっげぇ圧きたぁっ!!)
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