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60.それぞれの事情

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ギルドの受付の奥の廊下の更に奥の一角。


机や椅子が無造作に置かれた部屋にあたしとジェシカさんがいた。


「おいしいですっ!! この焼菓子っ!!」


あの後、ライラさんのところへオリジンさんとちょうどギルドに来ていたラインを案内した後、きちんと空気を読んで退出したあたしです。


(流石にこれ以上は関わっちゃマズいよね)


前回はラインが不在だったけれど、今回は違う。


(ライン達には意外だ、って顔されたけれど、あたしって何だと思われてるんだろう?)


もごもごと口を動かしながら、そんなことを考えていると、


「気に入って貰えたみたいで良かったわ。このハニーお婆さんのお店のお菓子、人気でなかなか手に入らないのよね」


にこにこしながらジェシカさんが教えてくれたけれど、


(ハニー、って……いや、遡ればきっととてもきれいなお姉さん……)


この世界、ときどき訳分からない単語ワード、ぶち込んでくるなあ、と遠い目になっていると、


「こっちの木の実が入ったのも香ばしくて……どうしたの?」


「ナンデモアリマセン」




あたしがジェシカさんと和やかに休憩を取っていた間、ライン達は大変だったらしい。


後でラインが話してくれたところによると、彼女はストロベキア公爵令嬢であるフランシェスカ公爵令嬢の依頼で、サウス帝国宰相であるバルツ公爵の身辺を探っていたという。


この宰相、腕は立つけど黒い噂が絶えない人物で、北のルドベキア公爵と並んでキナ臭い人物なのだという。


『もちろん、ただそれだけで人員は割けません。それもあって私を含め、極少ない人数で内偵を進めることになったのですが』


内偵は難航を極めると思われたが、ライラさん達は何とかそれらしい計画書を手に入れたのだという。


『ですが、脱出の際、見付かってしまい。計画書は隠すことができたのですが、捕まってしまって――』





話し終わったラインは難しい顔をしていた。


「どうしたの?」


「うん。何だかね。話を聞いていると一応筋は通っているんだけど、に落ちないところもあってね」


そのまま話し出そうとしたので思わず、


「あの、それあたしが聞いちゃっていい話?」



するとラインはおや、という表情になった。


「今更?」


「だって今のあたしはただの平民だし。そんなお貴族様の『事情』を聞かされても」



「君にしては珍しくまともな意見だね」


思わずじと目を返すと、ラインは簡易結界を張った。


ここはギルドの一室。


休憩室っぽい作りだけど、男女を一対一で放っておく、というのは。


(絶対、勘違いされてる)


「どうかしたかい?」


「何でもない。何か後で物凄く疲れそうな気がしただけ」


「――?」



「いいから続けて」



「まあ今更だよね。大体、君、レキシコン王の『事情』を知っているだろう?」


「え、まさかそれ」


「レキシコン王の素性については庶子、という以外、機密事項になっているんだよ」



(ええー)







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