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56.最下層主

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――最下層。


「出来れば先にここの主を倒しておきたいところなんだけどね」


ラインがそう言った時、奥から気配がした。


(え!? 誰もいなかったのにっ!!)


目の前の空間から突然姿を現したのは、牛の頭を持った魔人で。


(もしかして、ミノタウロスッ!! ……このダンジョン、そっちの要素多すぎっ!!)


斧を手に現れた牛頭の魔人はあたし達を認めると、


「よくぞここまで来たな。下賤げせんな人間どもが」



「前よりも知能が発達しているね」


「え?」


「以前は人の言葉なんて話せなかったんだけど」


魔導具マジック・バッグに手を掛けながらラインが言った言葉を聞き咎めたように、牛頭魔人が、


「小僧。聞き捨てならぬことを言ったな。我は最強最悪の魔人ぞ」


(何かどこかで聞いたような――)


「うん。一体どこの誰が君をそんなふうにしたか、本当は聞き出したいところなんだけどね」



ラインは身振りであたしに下がるよう指示を出すと、魔導具マジック・バッグからどこか既視感を感じさせる剣を二振り取り出した。


(え、あの造りってまさか――)


「今は時間がないから、こうするだけだからね」


何故か念押しするように言うと剣――どう見ても立派な日本刀――を鞘から抜くライン。


「ほお。二刀流か。だかそれも――」


牛頭魔人が感心したように言い掛けたその時、


「行け、ムラマサ」


(……え?)


何の呪文も唱えてないのに、その妖しいくらい煌めく刀が、意思を持ったように空を飛び、牛頭魔人の胸に突き刺さった。


「好きなだけ暴れなさい、ドウダヌキ」


今度は造りは簡素だけど、その輝きはムラマサに勝るとも劣らない。その刀が牛頭魔人の右腕を斬り落とした。


「――グガァッ!!」



だけどそれだけでは終わらない。


牛頭魔人の胸から自発的に外れた『ムラマサ』と『ドウダヌキ』は、嬉々としたように牛頭魔人を斬り刻んで行く。


(うわあ。スプラッタ)


やがて牛頭魔人は物言わぬ骸となり、


「もう良いだろう。お戻り」



ラインが声を掛けると、手にしていた鞘に二振りがそれぞれ収まった。


(なんやねん、これ)


有り得ないモノを目にしてしまった衝撃から立ち直れずにいると、魔導具マジック・バッグに二振りをしまいながらラインが、


「ほんとにこんなことはしたくなかったんだけどね」


「……いろいろと突っ込みたいことはあるんだけど、ライン」


「何かな?」


あたしは思わずラインのローブを掴んで、


「それって本物っ!! しかも『ムラマサ』って!! どこからパクッて来たのっ!?」



「ちょっ、パクッてって!! 人を泥棒みたいに言うのは止めてくれないかなっ!!」


ラインの様子を見ると、どうやら違うらしい。


(じゃあ……)


「どこで買ったの?」


「いや売ってないからねっ!! ってそんな目でみないっ!! ……これは作ったんだよっ!! 元々そういったことに興味があったし、……まあ、名前はちょっとあれだったけど」



「ふーん」

「何かな、その目は?」


たじたじと下がりかけたラインのローブを先ほどより少しきつく握る。


「それなら、銃でもよかったんじゃないの?」


「そんなの、構造が分かっていても、おいそれとは作れないって!! どれだけの技術が要ると思うんだいっ!!」


「でも作ったよね、刀」

(これだって凄い技術なんだけど)


じゃないと、全国の刀匠さん達の立つ瀬がない。


「ぐっ、」


「まあ、ロマンだよね」


(かわいそうだから、厨〇病呼びは勘弁してあげようかな)




「で、ライン?」


あたしはわざとらしく小首を傾げてみせた。


「何かな?」


どことなく警戒心を見せるライン。




「……ザン〇ツケンはないの?」



「言われると思ったよっ!!」



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