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52.幕間――サウス帝国第二皇子 ③

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それからしばらくしてフリント王国への留学の話が持ち込まれた。


――フリント王立魔法学園。


一種の社交場のようなものだが、それなら素直に社交界デビューをした方が早い。



だが、それにはフリント王国の特殊な事情が絡んでいた。


フリント王国の国民は総じて魔力を持つ者が多い。


つまり、魔法使いや果ては賢者となる者の卵がゴロゴロ存在しているのだ。


目立った特産物もないの国では、高い魔力を持つ人物を確保するために、この学園を設立したらしい。


(しかし、何故学園なんだ?)

数代前の王が始めたことらしいが、その辺りの詳しい事情は入ってこなかった。


(だが、もしこれらのことにユーリのような人間が関わっていたのだとしたら)

ユーリの話を聞くと、この『学園』の仕組みはユーリのよく知る『学校』とよく似ているらしい。


『これは絶対、私と同じ世界の人間が関わってますよっ!! ……私にもっと知識があれば』


ユーリの言によれば、ユーリがいた世界はこちらより文明度が高かったらしい。


『クルマとか、ヒコウキとかイリョウキキとか。作り方を知っていれば、こちらの世界の人達を助けられたのかもしれません』


(おっと、これはマズいな)


「君には悪いがそれはないだろう」

「え?」


ユーリはずいぶんと心が幼いようだ。


「聞いた限りでは、それらの代物シロモノにはかなり沢山の材料と技術が要りそうだね。そういったモノや人を用意できるのは貴族以上の立場にいる者だよ。そしてまず、真っ先に使うだろうね。――戦争に」


恐らく、ここまで言わなければ、他でも漏らすかもしれない。


曖昧な知識でも欲しがるやからは多い。


「例えば『クルマ』。馬を使わずに何人もの兵士をより遠くへ移動させられるのだろう? この『クルマ』を何十、何百と作ることができたら。その国は世界を掌中に収めるのも夢じゃないかもしれない」


「……」


「それに『イリョウキキ』。どんな怪我でも治せるんだろう? 怪我を負った兵士の治療には打ってつけだね」


それに、と更に厳しい展開を見せておく。


「同盟国の王族や貴族の中には重い病を患っている者もいる。『イリョウキキ』はいい取引材料になるね」


生かすにせよ、またその逆だとしても――。


「……リンツ様」


ユーリは真っ青になっていた。

「すまないね。そこまで脅すつもりはなかったんだけど」


「……すみませんでした」


「もういいよ」


「あの、そうじゃなくて」


「ん?」


この後、俺達はまた更に驚きの事実を知らされることになる。




「……いやはや」


まさか、フリント王国が舞台の物語まであるとは。


「物語といいますか、選択すると結末が変わる……一種の遊戯ゲームといいますか」


その『遊戯』とやらは、こちらには存在しないものらしく、ユーリも説明し辛そうだ。


「取り敢えず登場人物だけでもいいから教えるように」


促して聞き出した事柄は――。


内容が女性向けのため、『イケメン』と呼ばれる若い男性が多いこと。


主人公は女性。


男爵令嬢だが、強い魔力持ちということだった。


(強い魔力持ちか)


「あ、止めて下さい。実在したら、とんでもないのでスカウトとか止めて下さい」


(は?)


詳しく聞くと、その『ヒロイン』とやらは相手が上位の貴族であっても庶民が使うような態度や言葉遣いをするらしい。


「……それでどうして第一王子や他の貴族に受け入れられるんだ?」


この身分制度が確立した世界では、そんな無作法な真似など、とうてい看過できるものではない。


「まあ遊戯ですから。製作者もそんな時代劇みたいな口調になったら、世界観が壊れる、とでも考えたんでしょうが」


(普通なら、不敬罪で処罰ものだが)


第一、それでは国が成り立たない。


ユーリが『遊戯だから』というのも頷けた。


だが、


「ここは遊戯ゲームとやらではないのだが」


まさか、本当にそんな人物がのうのうと暮らしていたのか、という体で聞くと、


「可能性の一つ、と思って下さい。それと『悪役令嬢ライバル』もいるんですが……」



(悪役令嬢?)

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