上 下
33 / 73

33.会議を始めます

しおりを挟む
ダァンッ、と壁がいい音を立てた。


「これが少しばかりのことですか?」


場所は変わってラインの家の応接間。

と言えば聞こえはいいけれど、テーブルと椅子を四脚も入れれば後は立っているのがやっとというところに六人もいるのだ。


(はっきり言って、手狭)


ゴルゴンを入れた檻を魔導具マジック・バッグ(もちろんあたしが貰ったのとは違うもの)にサクッ、と収納してから、オリジンさんに手を貸して、ひとまずこの応接間へ落ち着いたのだけど、ここへ来るまでが大変だった。


オリジンさんの石化は、ラインが持っている薬草で何とかなる、とのことでラインがそれを取りに行っている間も、


「こ、国王陛下っ!! すみません、すみませんっ!! 斬首だけは勘弁して下さいっ!!」


とあたしが叫んだのを皮切りに、


「……この赤毛の男が国王陛下っ!? 申し訳ありませんっ!! 先ほどの発言は私の戯れ言ですわっ!! ですから、我がフローズン公爵家はどうかお見逃しを!!」


カサンドラ嬢が最上級の礼を取りながら後ずさる、という器用なことをしてくれた。


すると今度はセクトルさんが、


「お嬢様、それを言うなら私です。……申し訳ありません。まさかこのようなところに、国王陛下がいらっしゃるとは。てっきり然るべきところで政務に励んでおられるものとばかり。いえ、これはただの平民の独り言にございます」


謝ってるんだか、皮肉なのか分からない発言をした。


(どうしよ。せっかく追放だけで済んだのに、ここで不敬罪で命落とすなんて)


そんなあたし達に渦中の陛下は、


「あー、そのなんだ。俺は庶子だからな。そんな陰口は慣れてるしな。気にしないから」


蹴られたのは久々だったけどな。


と付け加えられ、あたしが竦みあがっていると、


「君ねぇ」


薬草を取りに行っていたラインが戻って来て呆れたようにあたしを見た。




「まあまあ、供も連れず、先触れも寄越さずにこんなとこまで来るこいつも悪いんだから、お互い様ってことで勘弁してやってくれないか?」


(うう、オリジンさん、自分も大変なのにいい人だ)


ラインが薬草の入った壺の口を開け、石と化した箇所に擦り込んでいく。


「全く。一国の王を蹴るだなんて」

「誠に申し訳ありません」

「まあまあ」


(ん? オリジンさん、って最初から知ってたっぽくない?)


あの気安さはそうそう出せるものではない。

そう思って聞くと、


「おお、こいつとはこいつがこんなのになる前からの付き合いだからな。どうしてもこんな感じになっちまう」


本当は俺も直した方がいいとは思うんだけどな。


そう続けたオリジンさんに間髪入れず、


「あんたはそのままでいいんだよ。あんたがおれに敬語だなんて虫唾が走る」


(仲いいんだ)

どうやら不敬罪うんぬん、というのは無しになりそうなので、ほっとしていると今度はラインが、


「そろそろ座って落ち着いたらどうかな?」


と皆に椅子を勧めてくれた。


そこまでは良かったのだけど、


まずはレキシコン王が着席(そこは全員一致だった。当人はかなり不満げな顔だったけど)。


(次はカサンドラ嬢かな。何ていっても公爵令嬢だし)


そこまで思ってあたしは疑問を感じた。

(あれ? 公爵令嬢なのに王様の顔知らなかったって?)


しかし、と思い直す。


(庶子ってことはお披露目したのは最近だし、ああいう式典とかって人が一杯だから貴族でも余程近くにいる人じゃないと顔も知らない、って昔何かの本で読んだような……後でセクトルさんに聞いてみようかな)


と見ていると、ラインに椅子を勧められたカサンドラ嬢が文字通り飛び上がった。


「ご冗談をっ!! かの賢者ラインハルト様より先に座るなど、フローズン公爵家の恥さらしですわっ!! ラインハルト様がご着席下さいませっ!!」


(ありゃー)


言われたラインが遠い目をしているように見えるのは、気のせいじゃないと思う。

その後、『リリー、お前女の子なんだから座っておけ』とオリジンさんに言われ、『オリジンさんこそ、その体……』『俺はいいんだよ、この体だと床のほうが楽だ』等の譲り合いの挙げ句、最後の席はあたしがゲットしました。

一連の流れを見ていたラインが、はあ、とため息をついた。


「次があったら、くじ引きでもしようか」


そしてようやく各人の状況説明となったのだけど、レキシコン王がどうしてたった一人でここまで来たのかを説明したところで、ラインがレキシコン王の後ろの壁を、ダァンッ、と叩いたのだった。


「これが少しばかりのことですか?」 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

灰色の冒険者

水室二人
ファンタジー
 異世界にに召喚された主人公達、  1年間過ごす間に、色々と教えて欲しいと頼まれ、特に危険は無いと思いそのまま異世界に。  だが、次々と消えていく異世界人。  1年後、のこったのは二人だけ。  刈谷正義(かりやまさよし)は、残った一人だったが、最後の最後で殺されてしまう。  ただ、彼は、1年過ごすその裏で、殺されないための準備をしていた。  正義と言う名前だけど正義は、嫌い。  そんな彼の、異世界での物語り。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

ナイナイ尽くしの異世界転生◆翌日から始めるDIY生活◆

ナユタ
ファンタジー
見知らぬ子供を助けて呆気なく死んだ苦労人、真凛。 彼女はやる気の感じられない神様(中間管理職)の手によって転生。 しかし生涯獲得金額とやらのポイントが全く足りず、 適当なオプション(スマホ使用可)という限定的な力と、 守護精霊という名のハツカネズミをお供に放り出された。 所持金、寝床、身分なし。 稼いで、使って、幸せになりたい(願望)。 ナイナイ尽くしの一人と一匹の ゼロから始まる強制的なシンプル&スローライフ。

魔剣が作れるおっさんは、今日も魔力が帯びた剣を生み出したがらない。

リゥル
ファンタジー
主人公【マサムネ】35歳は、何度も……何度も夢に見る。 過去の過ち、自分の無力さ。忘れられるはずのない、逃げてしまったあの時の記憶。 いつからかは分からない。人々は【箱庭】と呼ばれる限られた世界でしか暮らすことが出来ず。生活する為の資源を【ダンジョン】から採取し、日々生活を送っていた。 そんな人々には、生まれながらにして“才”と呼ばれる個体差が存在していた。 そしてそれを──。 “──戦う者” “──祈る者” “──作る者” っと呼ばれる三種類に、人々は分類分けをした。 資源を回収できるのは、もっぱら“戦う者”と“祈る者”だけ。当然の様に格差は生まれ、お互いの関係性は悪くなる。 “作る者”のマサムネは、そんな中。心を通わせることのできる仲間を見つけ。世界を広げるべく、ダンジョン攻略に挑んでいた。 ──挑んで居たのだが……。 独自の世界観が織りなすファンタジー世界で、マサムネは仲間と共に、どれだけ夢を追い続ける事が出来るのだろうか? そしてオッサンは今日も魔剣を生み出したがらない。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

トレンダム辺境伯の結婚 妻は俺の妻じゃないようです。

白雪なこ
ファンタジー
両親の怪我により爵位を継ぎ、トレンダム辺境伯となったジークス。辺境地の男は女性に人気がないが、ルマルド侯爵家の次女シルビナは喜んで嫁入りしてくれた。だが、初夜の晩、シルビナは告げる。「生憎と、月のものが来てしまいました」と。環境に慣れ、辺境伯夫人の仕事を覚えるまで、初夜は延期らしい。だが、頑張っているのは別のことだった……。 *外部サイトにも掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

処理中です...