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32.魔法のこな……?
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この場合、一番高い立場にいる人物を優先するのが定石で。
その流れだと、どう考えてもカサンドラ嬢が優先されるべきなのでは?
「それはどういう――」
聞き返そうとしたとき、ウォーターミラーに罅が入った。
(持たなかったか)
この時のあたしはまだ事態を軽く見ていた。
ギリシャ神話の知識が正しければ、ゴルゴンの視線を遮ることさえできれば、後は大したことはないはず。
なので、丸盾を持ったレンに任せれば大丈夫なのでは、と思っていたのだ。
「だからレンッ!! お前は戻れっ!!」
ただならぬオリジンさんの叫び声を聞くまでは。
(もしかしてレンって……)
呆けている場合じゃない、と魔導具を弄り回していると、指先に何かが当たった。
取り出して見ると、それは紙を幾重にも折った包みで、魔の森でラインが持たせてくれたものだった。
「これ……」
迷うあたしの傍らでまだ口論は続いていた。
「俺がこの程度でやられる訳ないだろうっ!!」
「そういう意味じゃねえのはお前も分かってるだろうがっ!! ……リリー、そいつは何だ?」
促されたのでざっくり説明するとオリジンさんの顔色が一気に良くなったようだった。
「じゃあ、早速――」
破壊音が、した。
見ると、ゴルゴンの蛇頭が崩れかけたウォーターミラーの隙間から現れてくるところで。
「リリーッ!!」
「はい!!」
反射的に手の中の包みを開けようとしたが、それは横から伸びた手に搔っ攫われた。
「「レンッ!!」」
「これはあいつのとっておき何だろ? こんなところで使うなんてもったいね、イテッ!!」
その赤毛をぽかり、と殴って取り上げたのはセクトルさんで。
「緊急事態です。使わせて貰いますよ」
包みを手早く解くと、ゴルゴン目掛けて投げつけた!!
「ちょっ」
止める間もなかった。
『いいかい? この魔法の粉は万能だけど、手順があるから――』
(ごめん。ライン、手順も何もすっとんでるわ)
包みは何か粉のようなものを撒き散らしながらゴルゴンへ向かった。
それこから魔法陣が発動され、皆はそれに気を取られているようだったけれど、あたしはそれどころではなかった。
(この匂い)
ゴルゴンに当たっていった包みから零れ落ちた粉。
この間、魔の森でラインが作ってくれたシチューとはまた違った、深みのある、どこか懐かしい――。
(だ〇の素……?)
「こりゃあ」
「素晴らしい」
「流石、賢者様ですわっ!! これほど精緻な魔法陣なんて初めて見ましたわっ!!」
上からオリジンさん、セクトルさん、カサンドラ嬢、そしてレンは、というと。
「……」
かなり不満げな表情で複雑な模様を成した魔法陣を睨み付けていた。
(どんだけ戦いたかったのよ)
あたしが冷めた目で見ているうちに魔法陣はゴルゴンへぶつかり――。
「消え」
「うわ」
「え」
(地震っ!?)
地鳴りのような音が響き、一瞬の浮遊感を感じた後、とても聞き覚えのある声がした。
「ずいぶんと早いお帰りだね」
黒いローブに長い黒髪、ややたれ目で優しげなオレンジがかった陽の瞳は、どこか呆れを含んでいるように見えた。
「ライン、その」
(うう、説明し辛い、って……ん? もしあれが『だ〇の素』だとしたら、ラインは――)
「ライン、聞きたいことが――」
だけどその問い掛けは、ラインがあたしの後方へ向けて掛けた声にかき消されてしまった。
「何故あなたがここにいるんですか?」
「よお。久しぶりだな、ライン」
ラインの怒りを込めたような言葉にレンはにっかりと笑ってそれに答えた。
(え、知り合いなのっ!?)
一触即発の雰囲気はオリジンさんの叫びに持っていかれてしまった。
「うわ、こいつも来やがったっ!!」
(え、ゴルゴンッ!!)
頭の中が追い付かないなか、ぐるりと見渡せば、あたし達は魔の森にいた。
(瞬間移動っ!? ダンジョンからっ!?)
状況把握に努めているとラインが口火を切った。
「オリジン、その体は――」
「後だ、後っ!! あいつを頼むっ!!」
オリジンさんの叫びを受けてラインが呪文を唱えた。
「――シャドウ」
ゴルゴンの周囲に影のようなものが現れ、巻き付くように渦を作った。
既にこの時点でゴルゴンの姿は見えない。
「――プリズン」
ガシャン、とどこからか現れた檻がゴルゴンを閉じ込めた。
「ちょうど、実験材料が欲しかったからいいですけどね。さて」
ラインがレンを睨めつけ、次に不承不承という体で最上級の礼をとった。
「どうして貴方がこんなところにいらっしゃるんですかね。レキシコン国王陛下」
その流れだと、どう考えてもカサンドラ嬢が優先されるべきなのでは?
「それはどういう――」
聞き返そうとしたとき、ウォーターミラーに罅が入った。
(持たなかったか)
この時のあたしはまだ事態を軽く見ていた。
ギリシャ神話の知識が正しければ、ゴルゴンの視線を遮ることさえできれば、後は大したことはないはず。
なので、丸盾を持ったレンに任せれば大丈夫なのでは、と思っていたのだ。
「だからレンッ!! お前は戻れっ!!」
ただならぬオリジンさんの叫び声を聞くまでは。
(もしかしてレンって……)
呆けている場合じゃない、と魔導具を弄り回していると、指先に何かが当たった。
取り出して見ると、それは紙を幾重にも折った包みで、魔の森でラインが持たせてくれたものだった。
「これ……」
迷うあたしの傍らでまだ口論は続いていた。
「俺がこの程度でやられる訳ないだろうっ!!」
「そういう意味じゃねえのはお前も分かってるだろうがっ!! ……リリー、そいつは何だ?」
促されたのでざっくり説明するとオリジンさんの顔色が一気に良くなったようだった。
「じゃあ、早速――」
破壊音が、した。
見ると、ゴルゴンの蛇頭が崩れかけたウォーターミラーの隙間から現れてくるところで。
「リリーッ!!」
「はい!!」
反射的に手の中の包みを開けようとしたが、それは横から伸びた手に搔っ攫われた。
「「レンッ!!」」
「これはあいつのとっておき何だろ? こんなところで使うなんてもったいね、イテッ!!」
その赤毛をぽかり、と殴って取り上げたのはセクトルさんで。
「緊急事態です。使わせて貰いますよ」
包みを手早く解くと、ゴルゴン目掛けて投げつけた!!
「ちょっ」
止める間もなかった。
『いいかい? この魔法の粉は万能だけど、手順があるから――』
(ごめん。ライン、手順も何もすっとんでるわ)
包みは何か粉のようなものを撒き散らしながらゴルゴンへ向かった。
それこから魔法陣が発動され、皆はそれに気を取られているようだったけれど、あたしはそれどころではなかった。
(この匂い)
ゴルゴンに当たっていった包みから零れ落ちた粉。
この間、魔の森でラインが作ってくれたシチューとはまた違った、深みのある、どこか懐かしい――。
(だ〇の素……?)
「こりゃあ」
「素晴らしい」
「流石、賢者様ですわっ!! これほど精緻な魔法陣なんて初めて見ましたわっ!!」
上からオリジンさん、セクトルさん、カサンドラ嬢、そしてレンは、というと。
「……」
かなり不満げな表情で複雑な模様を成した魔法陣を睨み付けていた。
(どんだけ戦いたかったのよ)
あたしが冷めた目で見ているうちに魔法陣はゴルゴンへぶつかり――。
「消え」
「うわ」
「え」
(地震っ!?)
地鳴りのような音が響き、一瞬の浮遊感を感じた後、とても聞き覚えのある声がした。
「ずいぶんと早いお帰りだね」
黒いローブに長い黒髪、ややたれ目で優しげなオレンジがかった陽の瞳は、どこか呆れを含んでいるように見えた。
「ライン、その」
(うう、説明し辛い、って……ん? もしあれが『だ〇の素』だとしたら、ラインは――)
「ライン、聞きたいことが――」
だけどその問い掛けは、ラインがあたしの後方へ向けて掛けた声にかき消されてしまった。
「何故あなたがここにいるんですか?」
「よお。久しぶりだな、ライン」
ラインの怒りを込めたような言葉にレンはにっかりと笑ってそれに答えた。
(え、知り合いなのっ!?)
一触即発の雰囲気はオリジンさんの叫びに持っていかれてしまった。
「うわ、こいつも来やがったっ!!」
(え、ゴルゴンッ!!)
頭の中が追い付かないなか、ぐるりと見渡せば、あたし達は魔の森にいた。
(瞬間移動っ!? ダンジョンからっ!?)
状況把握に努めているとラインが口火を切った。
「オリジン、その体は――」
「後だ、後っ!! あいつを頼むっ!!」
オリジンさんの叫びを受けてラインが呪文を唱えた。
「――シャドウ」
ゴルゴンの周囲に影のようなものが現れ、巻き付くように渦を作った。
既にこの時点でゴルゴンの姿は見えない。
「――プリズン」
ガシャン、とどこからか現れた檻がゴルゴンを閉じ込めた。
「ちょうど、実験材料が欲しかったからいいですけどね。さて」
ラインがレンを睨めつけ、次に不承不承という体で最上級の礼をとった。
「どうして貴方がこんなところにいらっしゃるんですかね。レキシコン国王陛下」
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