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前述したように、勇者のほとんどは『転生者』か『異世界からの転移者』だ。


しかもそのほとんどが男性らしい。

ハイ、ここまでくればもうお分かりですね。


『だったら美女を送り込んで懐柔して手元に置けばいいじゃんっ!!』


という超短絡思考のもと、歴代の勇者パーティには美女率が高くなった、と。


(大人って)

遠い目になっていると、


「あれですね。……耐性のない方は近付かない方がいいみたいですね」


館、というだけあってレンガ造りでそれなりに趣も感じられるもののはずなのに、おどろどろしいとしかいいようのない雰囲気だった。


(うわ、これ絶対ヤバいもんいる)

もしマンガとかだったらカケアミとかでぐるぐる囲むんだろうか、と考えていると、


「行きますよ」


(いや、行きますよ、って何で一番年下がマウント取ってんだよっ!?)


だが、それを気にしてたのは俺だけだったようで、


「シュウくん、聖水持ってる?」

「もちろんですよ。ミラルカさんは?」


「当たり前じゃない!! ねぇそれより、お姉さん、って呼んでも――」


(ずいぶん口調が砕けたな。お子さま効果って凄いなぁ)


無情を味わっていると、いつの間にか先に行っていた勇者が、軋んだ音を立てさせて扉を開けていた。


「開いたぞ。で、どうするんだ?」


(って、おいっ!!)


そう思ったのは俺だけではなかったようで、


「何してくれてるの、タイガッ!! 私が行くまで入ったら、って、ああっ!!」


ミラルカさんの決死の呼びかけも空しく、勇者の足が中へ入った。


「何?」



(……これが『勇者』ね。枕詞は『猪』がいいかな)


現実逃避している間に今度はダリウスさんが足を踏み入れる。


「うむ。人の気配らしきものはないな」


「あんたまで何してくれてるのぉっ!!」


だんだんこのパーティのそれぞれの役割が見えてきた。


(やっぱり、帰りたいな)


「ん? これってどういうことなの? ミラルカ?」


弓使いのサイドポニーテール美少女がフロアを覗き込みながら問いかけてきた。


「シャロン、貴女まで続かないでね。……何らかの儀式が行われたようね」


(何らかの儀式、って何だよっ!! 開幕早々クライマックスは止めて欲しいんだけどっ!!)


おののく俺をよそに話は続く。


「一番奥からも気配がしますね」

「というか、儀式の残り香みたいなのがあちこちにあって特定は難しいのに、よく分かったね」


話し合いの末、その濃厚(?)な箇所にはタイガさんとミラルカさんが、上の階をダリウスさんとシャロンちゃんが見に行くことになったんだが。


「おーい」


廊下の先へ進んでいたタイガがかなり遠くから声を上げた。


「ちょっとタイガッ!! あれほど一人で行くのは止めなさい、って――」


「では何か異常があれば報告へ戻るか」


ホールを半円状に囲む緩やかな階段へ足をかけたダリウスさんが俺とシュウに告げた。


「あ、待ってよダリウス」


その後を身軽に追いかけるシャロンちゃん。


ちなみに俺とシュウは皆の安全のため、このホールで待機、となっている。


二組の姿が見えなくなって、


(うーん、一体どうなってるんだ?)


こっそり気配を探ってみたが、困ったことに人の気配がない。


(ちょっとこれ、かなりヤバくないか)


それだけならまだいいんだが――。


思案していると、袖口をくい、と引かれた。


「それでは皆さんいなくなったようなので行きましょうか」


「は、え」


悪戯小僧のような顔をしたシュウがそう断言した。


「やだなぁ。本当に一番『濃厚』な気配がしてるのは『地下室』じゃないですか」




ホールから一番近い部屋(迷いもなく入りやがった)で、壁に掛かっていた絵を外し、どう見ても壁の模様としか思えないそこを数回叩いたり、引いたりすると。


機械が動くような音と共に床板が動き、下へ向かう階段が現れた。


(いや確かにずっとその辺からいや~な気配はしてたのは知ってるよっ!! だけどさ)


オカルトは勘弁して欲しい。


「怖いんですか?」

「ばかっ、誰がこんなもん、怖いかっ!!」


「「……」」


(しまったっ!!)


「分かりました。では僕が先に行きましょう」


余裕綽々、といった風情を醸し出して階段へ足を向けた子供サギについ俺は、


「先に行ってやらあっ!!」


真っ暗な階段へ足を踏み出した。


「そうですか。ではお先にどうぞ」



(しまっ……)




地下への階段は人ひとりがやっと、というくらいの幅しかなかった。


(まあデフォーだよな)


『ライト』の魔法で灯りを確保し、先へ進む。


階段は二十段ほどで終わりになっていた。


より濃厚になったイヤなけに辟易していると、くん、と上着の端を引かれた。


「やっぱり僕が先に行きましょうか?」


(だから違うってっ!! そういうふうに普通に心配そうに声掛けるの止めてっ!! オジさんのライフはゼロよっ!!)





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