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「こっちだーっ!!」
「いいか、持って行くのは必要最小限にしろっ!! いざって時動けなくなるぞっ!!」
「そこのじーさんっ!! 荷車は止めとけっ!!」
建物の外へ出ると、そこは既に喧噪に包まれていた。
「兄ちゃんも冒険者なのかい?」
近くにいたおばさんにそう声を掛けられて、
「え、いや、俺は……」
「ああ。ごめんね。あんたソレ持ってるってことは吟遊詩人かい? だったらあんたも早く東門へお行き。次の街でいい稼ぎができるといいねえ」
その言い方に少し引っ掛かるものを感じた俺は、
「どういう意味でしょうか?」
「知らないのかい? アレに襲われた街は幾ら冒険者が抑えてくれても魔物の死骸から出る毒で使い物にならなくなるのさ」
まあ、あんな数を抑えるなんて勇者様でも難しいだろうね。
それを聞いて俺は走り出した。
「あ、ちょっとっ!!」
東門ではなく、その逆、スタンピードが近付いているという西門へ。
(スタンピードって、そんなにヤバいやつだったのかっ!?)
前世で読んだライトノベルでは、こういうときチートな主人公が無双して、食い止めることになってたのに。
(何なんだよっ!! 魔物の毒って!!)
記憶を浚うと、ある情報がヒットした。
(なになに……大抵の魔物は毒素を追っており、その死骸にも残存するが即座に至るものではない。ただし、スタンピード等により大量の死骸が出た場合、その毒素は分解されることなく溜まっていくため、人が住めなくなるって!!)
「なんだよ、それ」
小さく呟いたとき、西門が見えた。
先んじて来たせいか、人はまだまばらだ。
(どうするか)
ここで彼らの印象に残るのはマズい。
俺は西門の手前で建物の陰へ身を隠した。
(さて、と)
気配を探ると、確かにスタンピードらしい魔物の大群が近付いて来ているのが分かった。
(こりゃ、面倒だな)
一応、俺は魔物だが、スタンピードと化した魔物達は平時以上に周りに目が行かない。
(ここで魔王としての力を奮って追い返してもいいが、そうすると後がなぁ……)
街の人々に俺が魔王だとは知られたくない。
(何か、スタンピード以上の混乱が起きるような気がする)
はぁっ、とため息が出た。
(取り敢えず、先行して大物を叩いておくか)
できれば全部片付けたかったが、数が多すぎた。
なんとはなしに重い気分になりながら、人がいない箇所を探す。
(別に俺が責任感じることじゃ……魔王だけど)
当然か、とひとりごちて無人の城壁へ飛び上がる。
(よし、誰もいないな)
そのまま反対側に飛び下りる。
そしてスタンピードの方へと走った。
流石に見つかると思うがそこは仕方がない。
(片が付いたら、このままトンズラした方がいいかもな)
それがとんでもなく甘い見通しだということに、その時の俺は気付かなかった。
コボルト、ゴブリン、オーク――。
次々と現れる魔物の群れをやり過ごす。
(っと。もうちょい先か)
木々の間を縫いながら探索していると、比較的大きな魔力が複数見付かった。
(思ったより早いな)
急いで移動し、得物の前へ出る。
(リザードマンか)
手の平から雷を出し、数体まとめて屠る。
(うわ、焦げ臭っ!!)
解体してる暇はないので、そのまま次の得物へ移動する。
(次は……サイクロプスか)
神話のひとつ目の巨人。
(うーん、ほんとにごたまぜだなあ)
魔王なんてものになっちゃいるが、ここは俺にとって全く見知らぬ世界。
(何が出てきてもおかしくないか)
そんなことを考えながら適当な距離を取り、指先に魔力を纏わせる。
「グガァッ!!」
その間にもサイクロプスは地響きを響かせながら迫ってくる。
四メートル、三メートル……。
俺は魔力を込めた指先をピストルのように突き出す。
「――魔光弾っ!!」
(厨二病だよなあ。誰も見てないから、いっか)
それに何となくだが、技名を叫んだ方が威力が上がるような気がした。
実際、それはこの世界へ来て初めて出したものとは雲泥の差で、勝負は一瞬で着いた。
「……は?」
目の前が真っ白になった、と思ったら眼前に迫っていたサイクロプスは消えていた。
そこまではまだいい。
幅二メートル程の平らな地面がはるか彼方まで広がっているのは一体……。
じっと手を見る。
(やりすぎたか……)
人里離れていて良かった。
心底そう思ったとき、
「何をしてるんですか、貴方は」
ここで聞こえるとは思っていなかった声がした。
振り返ると、ロッドを手にしてローブを纏ったシュウがいた。
「いいか、持って行くのは必要最小限にしろっ!! いざって時動けなくなるぞっ!!」
「そこのじーさんっ!! 荷車は止めとけっ!!」
建物の外へ出ると、そこは既に喧噪に包まれていた。
「兄ちゃんも冒険者なのかい?」
近くにいたおばさんにそう声を掛けられて、
「え、いや、俺は……」
「ああ。ごめんね。あんたソレ持ってるってことは吟遊詩人かい? だったらあんたも早く東門へお行き。次の街でいい稼ぎができるといいねえ」
その言い方に少し引っ掛かるものを感じた俺は、
「どういう意味でしょうか?」
「知らないのかい? アレに襲われた街は幾ら冒険者が抑えてくれても魔物の死骸から出る毒で使い物にならなくなるのさ」
まあ、あんな数を抑えるなんて勇者様でも難しいだろうね。
それを聞いて俺は走り出した。
「あ、ちょっとっ!!」
東門ではなく、その逆、スタンピードが近付いているという西門へ。
(スタンピードって、そんなにヤバいやつだったのかっ!?)
前世で読んだライトノベルでは、こういうときチートな主人公が無双して、食い止めることになってたのに。
(何なんだよっ!! 魔物の毒って!!)
記憶を浚うと、ある情報がヒットした。
(なになに……大抵の魔物は毒素を追っており、その死骸にも残存するが即座に至るものではない。ただし、スタンピード等により大量の死骸が出た場合、その毒素は分解されることなく溜まっていくため、人が住めなくなるって!!)
「なんだよ、それ」
小さく呟いたとき、西門が見えた。
先んじて来たせいか、人はまだまばらだ。
(どうするか)
ここで彼らの印象に残るのはマズい。
俺は西門の手前で建物の陰へ身を隠した。
(さて、と)
気配を探ると、確かにスタンピードらしい魔物の大群が近付いて来ているのが分かった。
(こりゃ、面倒だな)
一応、俺は魔物だが、スタンピードと化した魔物達は平時以上に周りに目が行かない。
(ここで魔王としての力を奮って追い返してもいいが、そうすると後がなぁ……)
街の人々に俺が魔王だとは知られたくない。
(何か、スタンピード以上の混乱が起きるような気がする)
はぁっ、とため息が出た。
(取り敢えず、先行して大物を叩いておくか)
できれば全部片付けたかったが、数が多すぎた。
なんとはなしに重い気分になりながら、人がいない箇所を探す。
(別に俺が責任感じることじゃ……魔王だけど)
当然か、とひとりごちて無人の城壁へ飛び上がる。
(よし、誰もいないな)
そのまま反対側に飛び下りる。
そしてスタンピードの方へと走った。
流石に見つかると思うがそこは仕方がない。
(片が付いたら、このままトンズラした方がいいかもな)
それがとんでもなく甘い見通しだということに、その時の俺は気付かなかった。
コボルト、ゴブリン、オーク――。
次々と現れる魔物の群れをやり過ごす。
(っと。もうちょい先か)
木々の間を縫いながら探索していると、比較的大きな魔力が複数見付かった。
(思ったより早いな)
急いで移動し、得物の前へ出る。
(リザードマンか)
手の平から雷を出し、数体まとめて屠る。
(うわ、焦げ臭っ!!)
解体してる暇はないので、そのまま次の得物へ移動する。
(次は……サイクロプスか)
神話のひとつ目の巨人。
(うーん、ほんとにごたまぜだなあ)
魔王なんてものになっちゃいるが、ここは俺にとって全く見知らぬ世界。
(何が出てきてもおかしくないか)
そんなことを考えながら適当な距離を取り、指先に魔力を纏わせる。
「グガァッ!!」
その間にもサイクロプスは地響きを響かせながら迫ってくる。
四メートル、三メートル……。
俺は魔力を込めた指先をピストルのように突き出す。
「――魔光弾っ!!」
(厨二病だよなあ。誰も見てないから、いっか)
それに何となくだが、技名を叫んだ方が威力が上がるような気がした。
実際、それはこの世界へ来て初めて出したものとは雲泥の差で、勝負は一瞬で着いた。
「……は?」
目の前が真っ白になった、と思ったら眼前に迫っていたサイクロプスは消えていた。
そこまではまだいい。
幅二メートル程の平らな地面がはるか彼方まで広がっているのは一体……。
じっと手を見る。
(やりすぎたか……)
人里離れていて良かった。
心底そう思ったとき、
「何をしてるんですか、貴方は」
ここで聞こえるとは思っていなかった声がした。
振り返ると、ロッドを手にしてローブを纏ったシュウがいた。
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