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雲一つない青く透き通る空。
リーリエは一人。学術部のテラスにある椅子に座って寛いでいる。
太陽光が降り注ぐテラスには、勉強をしたり、お喋りをしたりと生徒たちが、ちらほらと自由に時間を楽しんでいる。
椅子に座って本を開いたまま、ボンヤリと物思いにふけるリーリエは、昨日のことを思い出していた。
――――――
「アイヴァンが悪いのよ。エヴァ・ガルソンと共謀して、私の大切な人たちにも手を出そうとしたんだから」
冬の湖のように静かで冷え切った軽蔑した瞳。強く怒りをはらむ声。
はじめて向けられる明確な拒絶の感情に、アイヴァンは焦りと動揺で瞳を揺らす。
「ちがっ、違うんだ!!俺はリーリエが俺じゃなくて、他の人に構うから……」
震えた声で縋るようにリーリエに手を伸ばす。
パシッ
アイヴァンの手は冷たい音と共に拒絶される。
「何が違うの?私が他の人に構う?それが私の大切な人たちに手を出そうした理由?」
精霊の愛し子という秘密を抱えた私は、人と距離を取って生きていた。
唯一の同い年の友人でもあったアイヴァンには冷たくされ、出来上がったのは人との関わり方を知らない未熟な私。
そんな私にやっとできた大切な友人であるジャスミンとジェレミー。
自分は今まで浮気を繰り返しておいて、そんなくだらない理由で危害を加えようとするなんて。
振り払われた手を逆の手で掴み、アイヴァンは傷ついた顔をした。
リーリエは怒りで責めたくなる気持ちを唇を噛んで我慢する。
「何かしようなんて考えないことね。アイヴァンにできることはただ待つことだけよ」
リーリエの忠告に沈黙するアイヴァンに背を向け、女子寮へと足を進めた。
――――――
アイヴァンにはああ言ったけれど、どうやって精霊の愛し子だと証明しよう。
『精霊は契約主である精霊の愛し子の願いを叶えようとする。精霊の超自然的な力は甚大である。一度間違えれば、焼野原にすることができる精霊の力はーー』
精霊について書かれた本を閉じたリーリエは、頭を悩ませる。
精霊は他の人には見えない。
だとすると、精霊の力を証明するために人前で力を使うしかない。
リーリエは幼い頃。宮殿を燃やしてしまったというトラウマがある。
大丈夫。火は必要ない。皇帝陛下の前で精霊の力で花を咲かせるだけでいい、はず……。
精霊はリーリエの生まれ故郷である、フランシフ領にいる。
まずは、精霊を首都に連れてこないと。お父様に家に帰ると手紙を書こう。
学術部を出たリーリエが女子寮へと歩いていると。
ドカーンッ
一筋の黄金の光が轟き音と共に、女子寮へと天から降り注いだ。
学園中に響き渡るような大きな音は、リーリエの周りにいた生徒たちも何が起きたのかと、騒ぎ出す。
雷……?
空は雲一つない晴天のまま。
魔法?それとも……。
胸騒ぎがしたリーリエは足早に女子寮へと向かうと、生徒や寮母たちが集まっているのが見える。
人垣へと近づくと。
皆んな、ある一点を見つめていた。
「奇跡よ……!!」
寮母の声が女子寮の庭に響き渡る。
枯れつつあった葉が青々とした新緑に変わり、水々しい輝きを放つ赤い実を実らせていた。
「リンゴ……?」
一人の女子生徒が呟く。
雲一つない晴天の日。
リーリエははじめてこの木がリンゴの木だと知った。
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