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16:エヴァという名の少女(エヴァ視点)
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「クソッ!どいつもこいつもふざけやがって」
眉間に皺を寄せ怒りを露わにするアイヴァンは、剣術学部の生徒たちの嘲笑うような視線を思い出して目の前にある物をなぎ払う。
飾られていた陶器製の花瓶は軽い音をたてて床にぶつかり、無惨にも壊れてしまう。
花瓶の中の水が飛び散り、アイヴァンのズボンにシミを作る。
怒りが収まらないまま肩で息をするアイヴァンに一人の少女が近づく。
「アイヴァン様。落ち着いてください。怪我をしてしまいます」
アイヴァンの背中に優しくそっと触れる少女が一人。
心の底から心配した声の制服を着た少女の名前はエヴァ。
魔法学部でアイヴァンと抱き合っていたところをリーリエに見られたのが彼女だ。
魔法学部でリーリエにアイヴァンとの浮気現場を見られて以降。
アイヴァンの側に一番いたのがエヴァである。
今もアイヴァンを心配して寄り添いながら、アイヴァンに微笑みかけている。
アイヴァンは自分に触れるエヴァの手を振り払うと手首を掴む。
手首を掴む力は強く、悲鳴を上げる手首を悟られないように笑顔を崩すことなく、エヴァはアイヴァンと視線を合わす。
「落ち着けだと?お前が指図するな。エヴァ。お前も俺を馬鹿にしているんだろう」
「馬鹿にしてなどいません。アイヴァン様はこんな私にも優しくしてくださる素敵な方ですもの。アイヴァン様をよく知らない人からの心ない言葉に、心を痛め自分自身を傷つける姿を見たくないのです」
アイヴァンの目をジッと見つめ優しい声で語りかけるように話すと、エヴァは掴まれていない方の手で手首を掴むアイヴァンの手に触れる。
見つめ合う二人。
先に視線を逸らしたのはアイヴァンだった。
「…………すまない。エヴァはこんなにも俺のことを思ってくれているのに」
エヴァの言葉に先程までの怒りが嘘かのように、アイヴァンは沈痛な面持ちでエヴァの赤くなった手首を見ないように視線を逸らした。
手首を掴む力は緩み、手首を掴むアイヴァンの指をエヴァは一本一本ほどくと両手で優しく包み込む。
「忘れないでください。エヴァはいつもアイヴァン様のお側にいます」
項垂れるアイヴァンにエヴァは身体を寄せた。
アイヴァンの胸にすっぽりと収まるその小さな身体を、アイヴァンは先程とは違い優しく抱きしめる。
穏やかな時間が二人の間に流れる中。
アイヴァンの胸の中で抱きしめられたエヴァの表情は抜け落ち、可憐な顔からは想像もできないゴミを見るような冷たい視線で割れた花瓶を見つめていた。
眉間に皺を寄せ怒りを露わにするアイヴァンは、剣術学部の生徒たちの嘲笑うような視線を思い出して目の前にある物をなぎ払う。
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花瓶の中の水が飛び散り、アイヴァンのズボンにシミを作る。
怒りが収まらないまま肩で息をするアイヴァンに一人の少女が近づく。
「アイヴァン様。落ち着いてください。怪我をしてしまいます」
アイヴァンの背中に優しくそっと触れる少女が一人。
心の底から心配した声の制服を着た少女の名前はエヴァ。
魔法学部でアイヴァンと抱き合っていたところをリーリエに見られたのが彼女だ。
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今もアイヴァンを心配して寄り添いながら、アイヴァンに微笑みかけている。
アイヴァンは自分に触れるエヴァの手を振り払うと手首を掴む。
手首を掴む力は強く、悲鳴を上げる手首を悟られないように笑顔を崩すことなく、エヴァはアイヴァンと視線を合わす。
「落ち着けだと?お前が指図するな。エヴァ。お前も俺を馬鹿にしているんだろう」
「馬鹿にしてなどいません。アイヴァン様はこんな私にも優しくしてくださる素敵な方ですもの。アイヴァン様をよく知らない人からの心ない言葉に、心を痛め自分自身を傷つける姿を見たくないのです」
アイヴァンの目をジッと見つめ優しい声で語りかけるように話すと、エヴァは掴まれていない方の手で手首を掴むアイヴァンの手に触れる。
見つめ合う二人。
先に視線を逸らしたのはアイヴァンだった。
「…………すまない。エヴァはこんなにも俺のことを思ってくれているのに」
エヴァの言葉に先程までの怒りが嘘かのように、アイヴァンは沈痛な面持ちでエヴァの赤くなった手首を見ないように視線を逸らした。
手首を掴む力は緩み、手首を掴むアイヴァンの指をエヴァは一本一本ほどくと両手で優しく包み込む。
「忘れないでください。エヴァはいつもアイヴァン様のお側にいます」
項垂れるアイヴァンにエヴァは身体を寄せた。
アイヴァンの胸にすっぽりと収まるその小さな身体を、アイヴァンは先程とは違い優しく抱きしめる。
穏やかな時間が二人の間に流れる中。
アイヴァンの胸の中で抱きしめられたエヴァの表情は抜け落ち、可憐な顔からは想像もできないゴミを見るような冷たい視線で割れた花瓶を見つめていた。
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