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13:差出人なしの手紙
しおりを挟む「今日はありがとう。とても楽しかったわ。それと……
恥ずかしい姿を見せてごめんなさい」
広場での出来事を思い出して、泣いたせいなのかリーリエの目元は赤くなっている。
太陽は地平線に沈み、夜の静けさが学園を支配している。街灯が照らす女子寮へと続く道にはリーリエとジェレミー以外誰もいない。
「リーリエ。僕は「じゃあ!おやすみなさい。送ってくれてありがとう」
ジェレミーの言葉を遮ってリーリエは背中を向けて女子寮へと駆けて行く。
呆気にとられるジェレミーはリーリエに手を伸ばすが、空を掴むだけ。
リーリエの姿が女子寮に消えていくのを見届けたジェレミーは、女子寮とは反対方向にきびすを返した。
物影から二人を見ていた影が一つ。
リーリエとジェレミーは影に気付かないまま、影は学園のどこかに消えていった。
「はぁ……」
リーリエは女子寮のドアを開けるとズルズルと座り込み、膝を抱える。
「恥ずかし過ぎる……」
リーリエは自分は我慢強い方だと自負していた。アイヴァンの横柄な態度、浮気、周囲からの視線にも耐えてきた。
それなのに。よりにもよってジェレミーの前で泣くなんて。
ジェレミーが優し過ぎて、一緒にいると調子が狂う……。
ダメだ。自分が弱い人間になっていく気がする。
「私を置いて街に行くなんてリーリエの薄情者」
「ごめんなさい。昨日街に行ったのはいきなりだったの。次はジャスミンも誘うから」
「絶対よ?次は私も誘ってね?」
「もちろん。ここで嘘をつく必要ないもの」
昨日、リーリエがお土産にと買ってきたアップルパイを朝の女子寮の食堂で、ジャスミンは不満を言いながら食べている。
どこで買ったのか聞かれて、正直にジェレミーと街に行ったとリーリエが話すと。ジャスミンを誘わずに街に行ったことに対して、拗ねるジャスミンにリーリエは街に行く約束をして、ふと疑問に思う。
あれ?次ってことはジャスミンとジェレミーと私。3人で街に行くということ?
次という言葉に混乱していると。
「それにしても、このアップル「少しいいかしら?」
以前のように言葉を遮られたジャスミンは、不満げに声のした方を見る。
そこには以前のように女子学生が立っていた。以前と違うのは彼女は1人で手には手紙を持っているということ。
「どうかしましたか?」
リーリエが尋ねると彼女はリーリエに手に持っていた手紙を差し出した。
「リーリエさんにお手紙を渡すように頼まれたの」
「私に手紙?」
リーリエが手紙を受け取ると、彼女は「じゃあね」とリーリエたちから去って行く。
白い一般的な便箋にリーリエの名前が書かれている。
手紙の裏を見ると。
差出人は……、なし。
「誰からの手紙なの?」
「差出人は書いてないみたい」
「何よそれ。怪しさ満点じゃない」
確かに怪しい。
差出人がないのに女子寮へと届く手紙。
普段は寮母が一人一人に手紙を渡すのに、女子学生から渡された手紙。
手紙をジーと見るリーリエをジャスミンは驚いた顔をした。
「もしかして開けるつもり?」
「何が書かれているか気にならない?」
「気にはなるけど読んでほしいなら名前を書くでしょ?後ろめたいことがあるから名前を書かないのよ……ってコラ!人の話を聞きなさい!」
何が書かれているのか気になったリーリエは、手紙を読んで固まる。
そんなリーリエを不思議に思ったジャスミンは心配そうにリーリエを見る。
「何が書いてあったの?」
「気を付けて」
「え?」
「気を付けて。そう書いてある」
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