少女を胸に抱き「可愛げのない女だ」と言う婚約者にどういう表情をしたら良いのだろう?

桃瀬さら

文字の大きさ
上 下
2 / 26

1:図書館

しおりを挟む
 リーリエが通う学園ではそれぞれの学部によって専用の建物がある。
 学術部なら大きな講堂や専門的な蔵書がある図書館。剣術学部なら鍛錬場など、それぞれの学部の特色にあった施設が備わっている。

 リーリエがいるのはすべての学部の生徒が利用する建物にある学術部の図書館より大きな図書館。

 いつもなら学術部の図書館を利用しているが気分転換にいつもと違う図書館にやって来た。


 空いている席に座り授業で出された課題をしていると。

 
「どうしてお前がここにいる」


 すぐ側で聞こえた声に視線を上げると、眉間にシワを寄せたアイヴァンが男子生徒数人と一緒に立っていた。

 
 油断していた。
 図書館なら会わないと思っていたのに。


 アイヴァンはリーリエが気に食わないのか、学園で顔を合わすたびになにかとリーリエに突っ掛かってくる。

 毎回毎回、反応に困っているリーリエはいつしかアイヴァンを避けるようになっていた。
 

「学術部の図書館よりここのほうが本が多いから」
「そんなことを聞いているんじゃない。お前は……」


 毎度のごとく理由もなく突っ掛かってくるアイヴァンに、リーリエは表情には出さず図書館に来たことを後悔していると。

 何かを言いかけたアイヴァンは図書館にいる生徒たちの視線に気が付いて言い淀むと、ハァと深い息を吐いてリーリエに近付く。


 アイヴァンは頬を寄せてリーリエだけに聞こえる声で囁いた。


「学園では俺に近付くなと言っただろ」
「言われていないわ」
「なら今言った。分かったか?」


 リーリエの返事を聞こうともせず、鋭い視線でリーリエを見るとアイヴァンは図書館を去って行った。


 リーリエはその背中を見送ることなく、何ごともなかったように机に視線を戻す。

 すると、二人の様子の見ていた生徒たちがヒソヒソと話し出す。


「ねぇ、彼でしょ?精霊に愛されている剣術学部に通う生徒って」
「言うことも聞かない精霊に愛されるなんて災厄なだけよ。精霊の気まぐれで宮殿が焼けたって有名な話よ」


 この世界には精霊が存在する。
 人の前には姿を現さない彼らは想像もできない力を持っている超自然的な存在。

 人間の法律で取り締まれない彼らを人間は畏怖の対象として見ている。

 そして、そんな彼らに愛されているのがリーリエの婚約者アイヴァンである。


「彼が話しかけていた相手は誰なの?」
「メガネの子?彼女は……――」
 

 お喋りしていた声が止み、図書館全体が静まり返る。


 止んだ話し声に不思議に思いながら、先生が来たのかと思っていると。

 リーリエの目の前に影が出来る。

 もしかしてアイヴァンか戻って来たのかと重い顔を上げると。


「隣。座ってもいいかな?」


 そこにはキラキラと輝く王子様が立っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

私の婚約者でも無いのに、婚約破棄とか何事ですか?

狼狼3
恋愛
「お前のような冷たくて愛想の無い女などと結婚出来るものか。もうお前とは絶交……そして、婚約破棄だ。じゃあな、グラッセマロン。」 「いやいや。私もう結婚してますし、貴方誰ですか?」 「俺を知らないだと………?冗談はよしてくれ。お前の愛するカーナトリエだぞ?」 「知らないですよ。……もしかして、夫の友達ですか?夫が帰ってくるまで家使いますか?……」 「だから、お前の夫が俺だって──」 少しずつ日差しが強くなっている頃。 昼食を作ろうと材料を買いに行こうとしたら、婚約者と名乗る人が居ました。 ……誰コイツ。

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

処理中です...