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パチンッ パチンッ

  
 ステファンと話してから数日が経ったある日。

 学園の温室で一人。いつものように月光蝶のサナギの世話をしていた。


 満月はもう少し先だから、羽化するにはまだ時間がかかりそうね。

 
 月光が当たりやすいように調節していると。


バンッ


 温室のドアが勢いよく開く音がした。



「マァ~リ~~ベルゥ~~~~!!!!!」


ドンッ


 ドアの音に驚きつつも名前を呼ばれて振り返ると、身体に衝撃が走った。

 ギューと抱きしめられているのに驚いて、目を白黒させていると。


「あっ!怪我をしてるんだった!!!!」


 私に抱きつくその人物は、パッと身体を離して「ごめんなさい。痛かったわよね??」と眉を下げて心配そうな顔で見つめてくる。


「もう治ったから大丈夫よ」


 私の言葉にホッと息つく彼女は、錬金術科の同級生で友人のエラだ。


 錬金術科の生徒の例に漏れず、研究中毒で研究室から中々出てこないエラを見るのは久しぶりだ。


「聞いたわ!!婚約者の幼馴染に階段から突き落とされたんですって!?!?」


 久しぶりに会ったエラは、不穏な物を手にして「大丈夫なの?」と言った。


「大丈夫よ。怪我は治ったし。それが原因でステファンと婚約破棄することになったの」

「まぁ!!」


 驚いた顔をしてエラは言葉を続けた。


「実はずっと婚約破棄しないのかな?って思っていたの。マリベルをないがしろにするし、婚約者の前で幼馴染と仲良くするわ。正直、彼のことは優柔不断な八方美人という感じで好かなかったの」
 

 エラは顔を歪めて、心底ステファンが嫌いだという顔をした。


 ステファンがエラにこれほど嫌われていたなんて知らなかった。エラには今まで、たくさん心配を掛けてしまったものね……。

 
 申し訳なく思っているとエラがギュッと胸に抱く、不穏な赤い何かが付着した物が気になってしまう。


「それはどうしたの?」

「これ?これは先輩に借りたの。婚約者と幼馴染にお仕置きをしようと思って」


 「この赤いのは苺の果汁だから安心して」そう言ってエラは、手の長さぐらいの木の棒をビュッと横に振ってみせた。


「で、奴らはどこにいるの??」

「奴ら……??」


 キラキラとした目で、今にも殴りに行きそうな勢いで聞いてくるエラに、ステファンとは婚約破棄をして、ステファンは領地に戻って親の仕事を継ぐことになったこと。そして、エミリーとは裁判中で停学処分中だということを話した。


「なんてこと……」


 これまでの経緯を聞くと、エラはショックな顔をした。


 何か悪いことを言ったかしら?


 どうして落ち込んでいるのか分からなくて、首を傾げると。


 エラは泣きそうな顔をして言った。


「親友が辛い思いをしていた時に、私は研究に夢中になっていたなんて。親友失格だわ……」
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