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5:春の恋する乙女③

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「お分かりいただけましたか。私の指導について責める前に、自らの娘との接し方を見直されてはいかがです?」
「なん、だと……」

 
 子供に向けるような笑顔を浮かべて言うラファエルに、保護者は弱々しく反応すると、ラファエルの笑顔を見て身体を震わせた。

 そして、保護者は顔をしかめると肩を落とした。
 

「では、私はこれで失礼します。おっしゃりたいことがあれば書簡にてよろしくお願いします。事務局の扉はいつでも開いていますので」
「………………」


 俯いて黙ったまま動こうとしない保護者に背中を向け、ラファエルは事務員の肩を叩いた。
 
 
「君。お客様がお帰りのようだ。外までお送りして差し上げなさい」
「は、はいっ!!」

 
 事務員にそう言ったラファエルは、カタリナたちの方に向かって進んでくる。


 まずい。
 ラファエルがこっちに来る。このままだと覗き見してたことがバレてしまう。
 

「逃げるぞ」
「そうね」


 焦った声のマクシミリアンに促されて、踵を返して逃げようとすると。
 

「二人はそこで何をしてるのですか?」


 ラファエルの声にマクシミリアンとカタリナは、逃げようとしていた身体をピタッと止める。

 ゆっくりと振り返れば、不思議そうな顔をしたラファエルが後ろに立っていた。

 カタリナがぎこちなく笑顔を浮かべる横で、マクシミリアンは気まずそうに視線を逸らしている。

 そんな二人を交互に見て、ラファエルは口を開いた。
 

「二人は――」  


 ジッと見つめるラファエルの視線にカタリナは、悪さをしていたのがバレた仔犬のように身体を震わせる。
 
 
「先程からそこで見ていましたよね?」
「えぇっと……。たまたま歩いていたら声が聞こえてきたの」
「カタリナ!!」

 
 思わず話を聞いていたのを自供したカタリナをマクシミリアンが止めようとしたが、一足遅かった。

 あっ……!!

 気付いた時にはもう遅く、カタリナは口元を手で押さえる。

 カタリナはチラッとラファエルを上目遣いに見る。
 
 
「バレちゃった?」
「バレバレです」


 先程までの冷たい声とは違う優しい声と表情に、怒っていないとわかってカタリナはホッと息を吐く。


「ラファエルも大変ね」
「そう、ですね。これがはじめてではないので慣れました」
「学園長に相談したりはしないのですか?」
「そうよ!叔父様に相談するのが一番だわ」


 ラファエルはまだ貴族に対しての受け答えができるからいいけれど、全ての先生がそうだとは限らない。

 今日みたいなことが何回もあったら先生達の心が保たないわ。


 カタリナを真ん中にマクシミリアンとラファエルが並んで廊下を歩きながら話す。

 
「私は大丈夫ですが……。最近はある言葉が流行ってているのが原因みたいです」


 言葉が流行っている?
 自由恋愛とか婚約破棄のことかしら?

 流石、教師。生徒の流行りにも敏感なのね。
 
 
「それは何?」
「イケオジ」
「イケ、オジ……?」


 真剣な顔で言うラファエルに、カタリナは驚きを隠せず繰り返す。


 
「そうです。イケてるオヤジ略してイケオジ。私もそれに当てはまるらしく、そのせいなのか最近はよくこんなことに巻き込まれているようです」


 イケてるは分かるけれど、オヤジ?

 確かにラファエルはハーフエルフで年齢に対して若い見た目をしてるけど、そんなラファエルがイケオジなんて。

 カタリナは笑いそうになるのを必死に我慢した。
 
 何が面白いかって、今までの話を笑うことなく真剣に話していることだ。

 そして、マクシミリアンも何を言ってるんだ?という顔でラファエルを見ているのが面白くて、ふふっと思わず笑うとラファエルは心底不思議そうな顔した。


「イケオジって今流行ってる、のか……?」
「私は何か間違ったことを言いましたか?」
「いいえ。私も今度から使わないとイケオジ先生」
 

 カタリナとマクシミリアンの反応を見て、ラファエルは不思議そうにしている。


 イケオジ先生って壊滅的に似合わないわね。
 

 普段はしっかりしているのに昔と変わらない少し抜けているラファエルの姿に、カタリナは眩しいものを見るように目を細めて微笑んだ。
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