16 / 47
15 サインと気持ち
しおりを挟む
「それは…」
副所長をチラッと見て笑ったマーティン様は言葉を続ける。
「研究所の者が優秀な人材をラミア国に取られたと嘆いていてね。実際に会ってみると、君が魔塔に所属しているのが本当に惜しいよ。今からでもシェルロン国に帰ってきて、働いてみないか?」
マーティン様の言葉に私は驚く。
エドワードの件があって、シェルロン国から逃げる様にラミア国に行った私は、学校に通いながら研修として魔塔に入った。
学校を卒業して正式に魔塔に所属した後も、実家に帰る事もなく、がむしゃらに目の前の仕事をやってきた。
その結果、マーティン様に名前を知ってもらえるなんて…。
今までの努力が認められたようで胸が熱くなった。
「嬉しいです。でも、シェルロン国に帰ってくるのは……」
言葉を濁した私は、どう答えたらいいのか考える。
尊敬していた人の下で仕事が出来るのは嬉しい。
でも、エドワードと婚約破棄をしても、エドワードのゴシップ誌のせいで私はこの国にいる事に居心地の悪さを感じる。
昔の私とは違う。「周りの人が言うことなんて気にしない」と強がったことを言いたいけど、私はそこまで強くなれていない……。
悩んでいると、副所長が言った。
「今日は物を届けに来ただけで、勧誘されに来たんじゃないぞ」
「あぁ。そうだったね」
副所長がマーティン様に包みを渡すと、「マーティン卿のサインが欲しかったんじゃないのか?」と聞いてくる。
副所長の言葉にハッとする。
そうだったわ!緊張して忘れてしまっていたけど、本を持ってきていたんだった。
「あの、マーティン様の論文から著書まで全て読ませて頂きました。以前からファン…いいえ、尊敬しています。宜しければ、サインを頂けませんか?」
私は鞄から本を取り出して、本を差し出した。
「勿論だよ」
サインをしてくださった本を受け取ると、マーティン様が不思議そうに聞いてくる。
「この本でよかったのかい?学生時代に発表した論文をまとめた本ではなく、他にもあったと思うけど」
「この本がいいんです。この本にはゲートの魔法陣の基礎になっている研究が書かれているので」
そう言って私は本をギュッと胸に抱いた。
マーティン様の本には他にも有名なのがあるけど、この本は私にとって他の本に比べられないほど価値のある物だ。
副所長をチラッと見て笑ったマーティン様は言葉を続ける。
「研究所の者が優秀な人材をラミア国に取られたと嘆いていてね。実際に会ってみると、君が魔塔に所属しているのが本当に惜しいよ。今からでもシェルロン国に帰ってきて、働いてみないか?」
マーティン様の言葉に私は驚く。
エドワードの件があって、シェルロン国から逃げる様にラミア国に行った私は、学校に通いながら研修として魔塔に入った。
学校を卒業して正式に魔塔に所属した後も、実家に帰る事もなく、がむしゃらに目の前の仕事をやってきた。
その結果、マーティン様に名前を知ってもらえるなんて…。
今までの努力が認められたようで胸が熱くなった。
「嬉しいです。でも、シェルロン国に帰ってくるのは……」
言葉を濁した私は、どう答えたらいいのか考える。
尊敬していた人の下で仕事が出来るのは嬉しい。
でも、エドワードと婚約破棄をしても、エドワードのゴシップ誌のせいで私はこの国にいる事に居心地の悪さを感じる。
昔の私とは違う。「周りの人が言うことなんて気にしない」と強がったことを言いたいけど、私はそこまで強くなれていない……。
悩んでいると、副所長が言った。
「今日は物を届けに来ただけで、勧誘されに来たんじゃないぞ」
「あぁ。そうだったね」
副所長がマーティン様に包みを渡すと、「マーティン卿のサインが欲しかったんじゃないのか?」と聞いてくる。
副所長の言葉にハッとする。
そうだったわ!緊張して忘れてしまっていたけど、本を持ってきていたんだった。
「あの、マーティン様の論文から著書まで全て読ませて頂きました。以前からファン…いいえ、尊敬しています。宜しければ、サインを頂けませんか?」
私は鞄から本を取り出して、本を差し出した。
「勿論だよ」
サインをしてくださった本を受け取ると、マーティン様が不思議そうに聞いてくる。
「この本でよかったのかい?学生時代に発表した論文をまとめた本ではなく、他にもあったと思うけど」
「この本がいいんです。この本にはゲートの魔法陣の基礎になっている研究が書かれているので」
そう言って私は本をギュッと胸に抱いた。
マーティン様の本には他にも有名なのがあるけど、この本は私にとって他の本に比べられないほど価値のある物だ。
47
お気に入りに追加
448
あなたにおすすめの小説
死を回避したい悪役令嬢は、ヒロインを破滅へと導く
miniko
恋愛
お茶会の参加中に魔獣に襲われたオフィーリアは前世を思い出し、自分が乙女ゲームの2番手悪役令嬢に転生してしまった事を悟った。
ゲームの結末によっては、断罪されて火あぶりの刑に処されてしまうかもしれない立場のキャラクターだ。
断罪を回避したい彼女は、攻略対象者である公爵令息との縁談を丁重に断ったのだが、何故か婚約する代わりに彼と友人になるはめに。
ゲームのキャラとは距離を取りたいのに、メインの悪役令嬢にも妙に懐かれてしまう。
更に、ヒロインや王子はなにかと因縁をつけてきて……。
平和的に悪役の座を降りたかっただけなのに、どうやらそれは無理みたいだ。
しかし、オフィーリアが人助けと自分の断罪回避の為に行っていた地道な根回しは、徐々に実を結び始める。
それがヒロインにとってのハッピーエンドを阻む結果になったとしても、仕方の無い事だよね?
だって本来、悪役って主役を邪魔するものでしょう?
※主人公以外の視点が入る事があります。主人公視点は一人称、他者視点は三人称で書いています。
※連載開始早々、タイトル変更しました。(なかなかピンと来ないので、また変わるかも……)
※感想欄は、ネタバレ有り/無しの分類を一切おこなっておりません。ご了承下さい。
聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。
MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。
カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。
勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?
アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。
なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。
やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!!
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。誤字もお知らせくださりありがとうございます。修正します。ご感想お返事ネタバレになりそうなので控えさせていただきます。
短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)
本野汐梨 Honno Siori
ホラー
あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。
全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。
短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。
たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。
もう二度と、愛さない
蜜迦
恋愛
エルベ侯爵家のリリティスは、婚約者であるレティエ皇太子に長年想いを寄せていた。
しかし、彼の側にはいつも伯爵令嬢クロエの姿があった。
クロエを疎ましく思いながらも必死に耐え続ける日々。
そんなある日、クロエから「謝罪がしたい」と記された手紙が届いて──
2度目の人生は愛されて幸せになります。
たろ
恋愛
【愛されない王妃】
ジュリエットとして生き不治の病で亡くなった。
生まれ変わったのはシェリーナという少女。
両親を事故で亡くし、引き取られた親族に虐められ疎まれた。
そんな時シェリーナを引き取ってくれたのは母の友人だった。
しかし息子のケインはシェリーナが気に入らない。ケインが嫌うことで屋敷の使用人達もやはり蔑んでいい者としてシェリーナを見るようになり、ここでもシェリーナは辛い日々を過ごすことになった。
ケインがシェリーナと仲良くなるにつれシェリーナの屋敷での生活が令嬢らしくないことに気がついたケイン。
そして自分の態度がシェリーナを苦しめていたことに気がつき、落ち込み後悔しながらもう一度関係を新たに築くために必死で信用を得ようと頑張る。
そしてシェリーナも心を開き始めた。
駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜
あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』
という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。
それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。
そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。
まず、夫が会いに来ない。
次に、使用人が仕事をしてくれない。
なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。
でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……?
そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。
すると、まさかの大激怒!?
あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。
────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。
と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……?
善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。
────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください!
◆小説家になろう様でも、公開中◆
THE NEW GATE
風波しのぎ
ファンタジー
ダンジョン【異界の門】。その最深部でシンは戦っていた。デスゲームと化したVRMMO【THE NEW GATE(ザ・ニューゲート)】の最後の敵と。激しい戦いに勝利し、囚われていたプレイヤー達を解放したシン。しかし、安心したのも束の間突如ダンジョンの最奥に設置されていた扉が開き、シンは意識を失う。目覚めたとき、シンの目の前に広がっていたのは本物の【THE NEW GATE】の世界だった。
婚約者に浮気されていたので彼の前から姿を消してみました。
ほったげな
恋愛
エイミは大学の時に伯爵令息のハルヒトと出会って、惹かれるようになる。ハルヒトに告白されて付き合うようになった。そして、働き始めてハルヒトにプロポーズされて婚約した。だが、ハルヒトはミハナという女性と浮気していた。それを知ったミハナはハルヒトの前から姿を消し、遠い土地で生活を始めた。その土地でコウと出会い・・・?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる