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1 再会

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「シャーロット様、エドワード様は身支度に少々お時間がかかるようなので、お茶を召し上がってお待ちください…」

 
 見慣れた部屋に通された私はソファーに腰掛け、見たことのないメイドがお茶を淹れる姿を横目に、申し訳なさそうな顔をする執事のメイソンを見て微笑んだ。


「メイソン、私達の間にそのような気遣いは結構よ。エドワードは寝ているんでしょう?」

 屋敷の住民が朝に弱いのは、昔と変わっていないらしい。

 今日2年ぶりにこの屋敷にやって来たのは、屋敷の住民である婚約者と話しをするためだ。

「時間なら気にしなくて大丈夫よ。必ず会えるように、朝早くに来ただけなの。前もって訪問する手紙を出せたら良かったのだけど、時間がなくて急な訪問になってしまったのが申し訳ないわ」

「滅相もございません。シャーロット様はエドワード様の婚約者であり、未来の伯爵夫人ではーー」
 「それより、早くエドワードを起こしてきてくれる?」

「失礼いたしました。では、エドワード様を起こして参ります」

 話が長くなりそうなのを遮った私は、メイソンの言葉に返事をする事なく、薔薇が咲く庭に目を向けた。

 本当は、こんなに急に会いに来る予定はなかったのだけど……。

 メイソンがエドワードを起こしに行ってから、少しした後、廊下から走る音が聞こえてきた。
 走る音がこの部屋の前で止まり、扉がバンッと開いた。


「シャーリー!来るなら来ると言ってくれたら待たせなかったのに」


 そう言って近づいて来る婚約者は、太陽の光を浴びて、キラキラと輝く金髪は寝癖で乱れており、服が肌蹴けている。


「廊下を走ってはダメよ。それに服が肌蹴ているわ」
 
「今日ぐらい大目に見てよ。海外勤務していた婚約者がやっと帰って来たと思ったら、手紙だけのやり取りで、会う事も出来なかったんだから…」


 「会いたかったよ」と言い、隣に座り私を抱き締めようとするエドワードに、私は胸を軽く押し返す。


「仕事の報告と引き継ぎをしていたら忙しくて時間がなかったの。落ち着いたら会いに来るつもりだったわ」

「つもりってことは、今日来る予定はなかったって事?シャーリーが急に会いに来るなんて始めてだし、何かあったの?」


 訪問理由を聞かれた私は、不思議そうに見つめてくるエドワードの目を真っ直ぐに見つめ、話を切り出した。


「今日は大切な話をしに来たの。私達が始めて出会った7歳の時の事を覚えてる?」


 エドワードは、真面目な顔をして、いきなり出会った時の事を聞いてくる私を、不思議そうな顔で見た。


「勿論覚えているよ。君みたいな綺麗な子が僕の幼馴染みであり、婚約者でもある事を嬉しく思ったのを覚えているよ」

「もう13年経つのか…」と呟くエドワードに私は視線を落とす。強く握り締めて真っ白になった手を解き、口を開いた。


「エドワード、私達、幼馴染みの期間が長すぎたと思わない?」
 
 
「…どういう意味?」
 
 私の言葉に困惑しているエドワードの顔を見て、私は深く深呼吸をして言葉を続ける。
 
「今なら名ばかりの婚約者ではなく、唯の幼馴染みに戻れると思うの。…だから、私達の婚約を破棄しましょう」
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