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しおりを挟む宿の主人でもあるダフネさんの夫がシェフとして厨房で夕食の準備のために慌しく動いている。営業時間外の宿の食堂の隅っこで蜂蜜酒に釣られた私は、ライナルト様と向かい合って座っている。
私は一昨日宮殿に招待され、ライナルト様に会って占いをしたことをお酒に酔って思い出せないでいた。眠りから目覚めると、私はライナルト様の番を見つける手伝いをする約束をした、らしい……。
酔っていたとはいえ、約束を反故にすることは占い師として私をライナルト様に紹介してくれた、お客様であるアメリア様との信用を裏切ることになる。
今まで複数人からアプローチされていた令嬢から、どの人が一番自分を愛してくれるのか占いをお願いされたことがある。だから、定期的に占いをして番を見つけるのを手伝う約束をライナルト様としたのだけれど……。
チラリと貴族が好ましく飲まないコーヒーを優雅に飲むライナルト様を見る。
まさか、約束した次の日に会いに来るなんて思わなかった。
早急に会いに来たライナルトが焦っているように見えて、どうしてなのか不思議に思って尋ねる。
「どうしてこんなに早く会いに来たのですか?」
「私には時間がないのです」
ライナルトは私の言葉に目を伏せ、今にも消え入りそうな悲しげな表情で言った。私はそんなライナルトの言葉と表情に混乱する。
時間が、ない?長寿種の竜人が?
「今なんと…………?」
「私は遠くない未来。死ぬことになるでしょう」
「死?竜人のあなたが?」
先程とは違う衝撃的な言葉に、私は動揺を隠せず反射的に聞き返してしまう。
竜人は人間より長寿な獣人の中でも一番の長寿だ。ライナルト様が今何歳かは知らないけれど、見た目からして若い竜人のはず。
その竜人が死ぬ?
歳がいっている訳でもない、身体的にも不健康ではなさそう。そんな彼が死ぬ?
突拍子もない言葉に戸惑っていると、真剣な表情をしたライナルトが口を開いた。
「はい。狂ったドラゴンの話を聞いたことはありますか?」
「少しだけなら。詳しくは知りません」
「狂ったドラゴンは竜人の成れの果てです。番を見つけることが出来なかった竜人は段々と精神を蝕まれ、時が来ると完全に理性を失い大切だった人達でさえ認識出来なくなる。生き物としての理性も知性もない。そんな怪物になる。……私はそれを死だと認識しています」
番を見つけられなかった竜人の悲惨な事実を淡々と話すライナルト様に、私は言葉を失ってしまう。
「私は自分が恐ろしい。大切な友人が作ったこの国を友人を……、いつか自分で壊してしまうのではないかと」
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