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貫けハーーーーーーーーー!
しおりを挟む俺が馬鹿だった。来るかもわからないものをあてにして、自分の力を信じていなかったんだ。そんなやつに勝利なんて訪れない。
「水よっっ! 燃えろっ!」
燃え盛る水を全身に纏った。水でできた鎧を着ているみたいだ。
もっと自分の力を信じるんだ。俺なら勝てる。最後の勇気のともし火を心の中に探した。まだどこかに残っているはずだ!
積み重なった灰の山の一番底から煙が吹き出る。
全身を抱く水は鋭利に、激しく尖り始めた。トルネードのように乱回転を初めて空に乱れ桜を水の絵の具で描く。飛沫は空気を泳ぎ、透明な色を振りまく。
「空想状態発動!」
と、叫んだ。
「何だ。さっきと同じ攻撃じゃないか。それが奥の手なんてな」、「同じ攻撃は二度もくらわない」
先代の竜王はすぐに背後を振り向いた。
(同じ攻撃は二度もくらわない。そうだろうな)
俺の体は存在が透け始め“なかった”。虚ろになった現実は虚像とな“らず”、現世との関わりと断絶など“しない”。
世界と世界の狭間に体を滑り込ませ“ない”。誰でも簡単に俺のことを知覚することが“できる”。
(先代の竜王は、不意打ちのプロ。俺はそいつを騙さないといけない。わざわざ自分の能力を説明し、目の前でやってみせた。丁寧に作り込まれた戦術ならもしかしたら俺に勝利をもたらす“かも”しれない!)
空が俺の頬をきる。翼の間を縫った風は、気持ちよく流れる。清々しい清らかな空気は、俺の勇気を再び燃え上がらせる。
残火の中に残る最後の火花。まだ燃え尽きていない勇気がその中にあった。
火花は燃え上がり、火柱になる。赤熱する勇気が俺に力をくれる。
諦めない勇気だけが、人を強くする。
先代の竜王はキョロキョロと周囲を探す。
「何だ? どこにもいないぞ?」、「しまった! まさかさっきのはハッタリか!」
「その通りだ!」
俺は“空想状態発動”と叫んだ。だがそれは叫んだだけ。それに先代の竜王はまんまとハマった。いもしない空想の俺を馬鹿みたいに必死で探していた。
俺の体は右回転しながら、槍のように尖る。弾丸よりも速く。光よりはちょっと遅い。
「俺の勝ちだっ! ドラゴンバズーカっ!」
俺はそのまま全身で体当たりをした。
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