ゆらユラ穢れの獄

塚原牛男

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ゆらユラ穢れの獄

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由良  


 母が死んだ。
始まりは「ちょっと最近疲れたのかな、肌荒れしちゃった」、と苦笑いするいつもの母と変わりなかった。
今では、目の前にある”モノ”が、母だったものだ。
ぐずぐずに崩れた赤黒い肉からは黄ばんだ骨がみえている。
後ろで父が大きく泣き崩れる。
僕は、ただ母だった肉片を、見ているだけだった。

「腐れの奇病だ」
数ヶ月前忍医者は母にそう告げた。母は動揺する様子もなく、「そうですか」とだけ言った。
母の家系には、時々発生する遺伝病があるという、それはいつ発症するかもわからない、身体が腐りゆく奇病。
始めは肌荒れから、血液、そのうち内臓にまで腐敗し、最終的に多臓器不全で死に至る。
治療法はなく、発症すれば驚くほどの速さで腐り、死ぬ。
里でもう一つ知られている奇病の「竜病」が、一番美しい奇病と言われる中この「腐れの奇病」は、最も醜い奇病と言われた。


母は最期の言葉さえ言えなかった。僕の手を握る母の手は腐敗しきった生肉のようで、美しい青の目だった母の目は、真っ黄色に腐り、白目と虹彩の区別もつかなくなっていた。
「由良」
それが僕にとって最期の言葉だった。
あまりに早すぎる、そして恐ろしい母の容態に、僕は涙も出なかった。そして、死が最も恐ろしいものとなった。





「残念ですが、息子さんも、いずれ腐れの奇病を発症する可能性が高いです。」
数ヶ月後に父と共に受診した病院でそう言われた。
父は、また泣き崩れた。
「お母さんの多摩さんは、かなり急性でしたので、由良くん…息子さんも、早くて青年期に…発症する可能性はあります。」
僕も、母と同じになるのか、…と、絶望感というか、諦めというか、脳内を駆け巡った。
父は医者に治療法を何度も聞いた、医者は、首を横に振るだけだった。
「由良くんと、少しでも長く一緒にいてあげてください。」






「由良」
父に呼ばれる。母が死んでから父は廃人のようになった。
元々役所に勤めているような忍だったが、今ではずっと家に引きこもっている。
「由良、もう学校には行かなくていいからな」
「どうして?僕は、黒脛巾の上忍にならないと…」
「上忍にならなくても生きていけるよ」
「でも僕…学校にいきたい」
「行かなくていい」
「でも…」
「行かないでくれ。」
父に抱きしめられる。痛いくらいに。
「由良」
「…お父さん、いたい」
離してほしい、父は、僕を抱きしめて離さない。
「由良、父さんはな、由良を喪いたくない」
「…」
「由良、父さんはな、由良を愛しているんだ、いっぱいいっぱい、愛しているんだ。」
「うん……」
「だから、もっと愛したいんだ」
父の言っていることがよく分からない。息子なら愛しているのも当然だろう、もっと愛する?
「由良」
父が顔を上げた。…由良は、父のその表情を、今まで見たことがなかった。




「由良」
裸にされ、身体中を父に弄られる。
乳首からへそ、性器、尻、舐めるように父は由良の身体を撫でる。
「父さん、なに、し」
「由良」
父の声は、まるで魂の抜けたような状態だった。
「やだ……」
逃げようともがくも、父の強い力に引き留められる。由良の細い腕を痛いくらいに握る。
「父さん、痛い!」
「大丈夫だよ、すぐ、よくなるよ」
そう言って股を開かされる。こんな、おしめを変えられるような姿勢、赤子以来かのようだ。
父の表情は、今まで見たこともなかった、ぞっとした。
これが、あの誠実な忍の父であった男なんだ。
由良は、心の底から恐怖を覚える。声が、もはや出ない。
「お父さんはね、由良が、だいすきなんだ」
そうゆうと、父は勃起した男根を由良の菊門に押し付ける
「やだ…父さん、やだ、そんなこと、しないで、やめて…」
「由良」
押さえつけられた腕が痛い、父は悍ましい笑みを浮かべる。
そのまま、父の男根が由良を貫く。
「ーーーーーっ!!」
強烈な痛みに目の前がちかちかする。
「由良、由良…」
「痛い!!!痛い!!父さん、やだ!!」
ごりごりと父の男根が由良の中を掻き回す。
「由良、だいすきだよ。」
お尻の中が熱い、痛い。どうして父はこんなものを”愛”というのか。
由良は自分の舌を噛み、苦痛に耐えているだけだった。
父の男根は由良を抉るような動きを続ける。
もう嫌だ、助けて、そんな声も、もはや由良は出すことはできなかった。
そうして暫くごりごりと弄られると、腹の中に熱い液体が放たれる。
「っあ………」
由良の頭の中で何かがぷつり。と切れた気がした。





 それからというもの、父は部屋にずっと閉じこもってぶつぶつと独り言を言うようになった。
由良はそろそろ高等部の2年になるくらいの年頃だった。
未だ、父は元に戻らない、それどころかまるで亡者のような姿になった。
四六時中部屋から出ず、食事もせず、排泄をする為だけに便所に入る姿しか見ることもなくなった。
そして、なにより
「由良、おいで。」
父に呼ばれて、また”愛してもらう”のだ。
一番最初の”愛”から、父は定期的に由良の身体を貪るようになった。
その都度、由良は父へ股を開く。
見ていられなかった。あの父が、こんなになる姿を。
自分だけが我慢すれば、父は微笑んでくれるのだ。
頼り甲斐のあった四角い父の輪郭はもうない。今父にあるのは骨と皮だけ。
由良を腕に乗せてくれたあの筋肉ももうない、老人と変わらない皺くちゃでよぼよぼになった腕。
それでも、父が喜んでくれるなら、と。
由良が”愛”される頻度は年々増えていく。父が衰えて一回の行為に長時間続けられなくなったからだ。
その都度、由良は学校帰りでも、働き先帰りでも股を開く。
しまいには、登校前にも”愛”されていくのだ。
たぶん、父が完全に衰弱し、死ぬまで、これが続くのだろうと、裸の父に抱かれる中、由良は思う。
全て、いずれ腐れの奇病で死ぬ由良のため、父は狂ったのだろう。
それでも由良は父を捨てられなかった。

目覚める度に、由良は身体中を入念に調べる。腐れの奇病の初期症状はないか、不自然な炎症などは無いか、だ。
そして今日も由良は父に愛される。いつもと変わらない日常が始まるのである。


……日常など、簡単に変わってしまうのに。
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