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59.商談二日目前夜(1)
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大阪出張初日。魚釣りの事業で大成功し、関西地方を牛耳るお大尽が、商談相手として、なぜか俺ひとりを指名してきた。
仕事の規模が規模なので、本来なら、上司の権藤課長や秋吉部長も揃ってご挨拶に伺うべきなのだろうが、先方がそれを許さなかったのである。
億という単位でお金が動く仕事の商談だから、日帰りで済む話ではない。スケジュールが過密な依頼主に、まとまった時間を確保してもらい、契約内容の提示にハンコをついてもらう。これが一番難しいのだ。
そんな不確定な現状において、地元にミオだけを残してお留守番をさせるのは、あらゆる意味で危険が伴う。
どうせ学級閉鎖が解ける目処もつかないんだし、だったら同じ宿泊先に連れてきた方が、ミオもさみしい思いをしなくて済む。そこで俺は自腹を切って、ツインベッドで見晴らしの良い部屋を確保したのである。
――しかし。
そのツインベッドの部屋は、実質シングルベッドのような状態にある。なぜなら、さみしがりやなウチのショタっ娘ちゃんが、俺と同じベッドに潜り込み、ほっぺたをこすりつけて甘え続けているからだ。
今でこそ、宿泊用の衣類を着ているから「まだ安心」なのだが、夏場のミオは毎晩、シャツとショーツ一枚で抱きついてくるもんで、理性を保つのが非常に難しい。
「ミオ、甘えるときはいつもこんな感じなのかい?」
「そーだよ。お兄ちゃんにこうして甘えてる時が、一番幸せなの」
「他の人には?」
「他の人? 他の人はボクの彼氏じゃないから甘えないよー」
あんまり、踏み込んだ質問をしない方が良さそうだ。わずか二歳の時、捨て子にされたミオには、両親の温もりがどこにも残っていない。心を閉ざしていた施設での暮らしでも、俺くらいに心を許せる大人がいなかったんだろう。
あの、女の子用ショーツを買い与えていたおばちゃん園長先生ですらも――。
「そういやミオ、今更な質問だけどさ。ショーツに違和感とかないの?」
「イワカン?」
「うん。穿いている間……の話なんだけど。例えば小さすぎるとか」
「んん? 小さいショーツを穿いてないかってお話?」
質問が遠回し過ぎるせいで、着用している本人には、まるでピンと来ないようだ。
だって、面と向かって聞けないじゃんよ。「前の部分は収まってるのか?」なんてさぁ。これだってかなりの遠回しなのに。
「まぁまぁまぁ。そんな感じ。施設にいた時は、カタログを見て買ってたんだろ? だったら実際に穿くまで分かんないじゃん」
「あー……そだね。でも園長先生は、ボクのお腹に黄色いテープを巻いてから買ってたの。だから、小さすぎるとかはなかったよ」
なるほど、それで合点がいった。要するに、施設の園長先生はミオのウェストを、黄色いテープこと〝メジャー〟で採寸したからこそ、品選びに失敗しなかったのだろう。
……ただなぁ。男と女では体の構造が決定的に違うから、やはり前の部分をどうしているのかが気になる。
いや、あまりにもヤボだな。今は恋人同士が交わす甘々なトークのお時間なんだから、これ以上ショーツの件を掘り下げるのはやめよう。
「すりすりー。お兄ちゃんの腕と体、筋肉がついててかっこいいね」
「そうかい? 特に鍛えてたわけじゃないんだけど、確かに衰えもしなくなったな」
「だよね? ほとんど毎日、お兄ちゃんの腕を抱っこして甘えてきたけど、ずーっとムキムキだもん」
「まぁ何だ。ミオをお姫様抱っこする彼氏がヒョロヒョロじゃあ、百年の恋も冷めちまうからさ」
「うん。お兄ちゃんがしてくれるお姫様抱っこ……だいすき……」
ミオは何かを思い出したようで、赤らめた頬を隠すべく、抱きついた俺の腕に顔をうずめてしまった。
仕事の規模が規模なので、本来なら、上司の権藤課長や秋吉部長も揃ってご挨拶に伺うべきなのだろうが、先方がそれを許さなかったのである。
億という単位でお金が動く仕事の商談だから、日帰りで済む話ではない。スケジュールが過密な依頼主に、まとまった時間を確保してもらい、契約内容の提示にハンコをついてもらう。これが一番難しいのだ。
そんな不確定な現状において、地元にミオだけを残してお留守番をさせるのは、あらゆる意味で危険が伴う。
どうせ学級閉鎖が解ける目処もつかないんだし、だったら同じ宿泊先に連れてきた方が、ミオもさみしい思いをしなくて済む。そこで俺は自腹を切って、ツインベッドで見晴らしの良い部屋を確保したのである。
――しかし。
そのツインベッドの部屋は、実質シングルベッドのような状態にある。なぜなら、さみしがりやなウチのショタっ娘ちゃんが、俺と同じベッドに潜り込み、ほっぺたをこすりつけて甘え続けているからだ。
今でこそ、宿泊用の衣類を着ているから「まだ安心」なのだが、夏場のミオは毎晩、シャツとショーツ一枚で抱きついてくるもんで、理性を保つのが非常に難しい。
「ミオ、甘えるときはいつもこんな感じなのかい?」
「そーだよ。お兄ちゃんにこうして甘えてる時が、一番幸せなの」
「他の人には?」
「他の人? 他の人はボクの彼氏じゃないから甘えないよー」
あんまり、踏み込んだ質問をしない方が良さそうだ。わずか二歳の時、捨て子にされたミオには、両親の温もりがどこにも残っていない。心を閉ざしていた施設での暮らしでも、俺くらいに心を許せる大人がいなかったんだろう。
あの、女の子用ショーツを買い与えていたおばちゃん園長先生ですらも――。
「そういやミオ、今更な質問だけどさ。ショーツに違和感とかないの?」
「イワカン?」
「うん。穿いている間……の話なんだけど。例えば小さすぎるとか」
「んん? 小さいショーツを穿いてないかってお話?」
質問が遠回し過ぎるせいで、着用している本人には、まるでピンと来ないようだ。
だって、面と向かって聞けないじゃんよ。「前の部分は収まってるのか?」なんてさぁ。これだってかなりの遠回しなのに。
「まぁまぁまぁ。そんな感じ。施設にいた時は、カタログを見て買ってたんだろ? だったら実際に穿くまで分かんないじゃん」
「あー……そだね。でも園長先生は、ボクのお腹に黄色いテープを巻いてから買ってたの。だから、小さすぎるとかはなかったよ」
なるほど、それで合点がいった。要するに、施設の園長先生はミオのウェストを、黄色いテープこと〝メジャー〟で採寸したからこそ、品選びに失敗しなかったのだろう。
……ただなぁ。男と女では体の構造が決定的に違うから、やはり前の部分をどうしているのかが気になる。
いや、あまりにもヤボだな。今は恋人同士が交わす甘々なトークのお時間なんだから、これ以上ショーツの件を掘り下げるのはやめよう。
「すりすりー。お兄ちゃんの腕と体、筋肉がついててかっこいいね」
「そうかい? 特に鍛えてたわけじゃないんだけど、確かに衰えもしなくなったな」
「だよね? ほとんど毎日、お兄ちゃんの腕を抱っこして甘えてきたけど、ずーっとムキムキだもん」
「まぁ何だ。ミオをお姫様抱っこする彼氏がヒョロヒョロじゃあ、百年の恋も冷めちまうからさ」
「うん。お兄ちゃんがしてくれるお姫様抱っこ……だいすき……」
ミオは何かを思い出したようで、赤らめた頬を隠すべく、抱きついた俺の腕に顔をうずめてしまった。
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