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36.初めてのデパート(3)

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「ねぇお兄ちゃん」

「ん?」

「一階って、何を売ってるの?」

「この階で売ってるのは化粧品だよ。例えば口紅とか、ファンデーションとかさ」

「口紅? ふぁんでーしょん? 何それ?」

「えーとな。口紅は唇に使うやつで、ファンデーションは顔全体に塗るんだ。他にもアイシャドウとか、マスカラなんかもあると思うよ」

「んー? よく分かんないけど、顔に何かを塗るって事?」

「まぁ、平たく言うとそうなるかな」

「塗ってどうするの?」

 実にストレートな疑問だ。

 そりゃ子供で、かつ、男の子であるミオには、化粧品を使う機会なんてまず無いだろうから、意図が分からないのも無理はない。

 かくいう俺も、女性が抱えるメイク事情については、ほとんど理解してないんだけど。

「女の子は自分の顔を美しく見せたいっていう願望があってさ、そのために化粧品を使ってメイクするんだよ」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、里香りかちゃんたちもメイクしてるのかな」

 里香ちゃんとは、ミオが通う学校のクラスメートで、言うまでもなく女の子である。

「さすがに、十歳かそこらでメイクはしないんじゃないか? まず、学校の先生に怒られちゃうだろ」

「学校でメイクはダメなの?」

「そうだよ。学校には校則っていう決まりごとがあるからね。あんまり派手で目立つような格好はいけませんとか、いろんな取り決めがあるのさ」

「お休みの日とかで、お出かけする時だったら?」

「それならいいと思うけど、俺は子供のメイクって似合わないと思うんだよなぁ」

 舞台に立つアーティストの女の子が化粧をするのはテレビで見たことがあるんだが、度が過ぎると、その子が持つ自然な美しさを損いそうな気がしてならない。

 だから、俺個人としては、女子小学生のメイクにはあまり賛同できないのである。

「とにかく、ここは俺たちには関係のない売り場だから、サッサとエレベーターに乗っちゃおう」

「うん。この化粧品売り場って、いろんな匂いがして変な感じだから、早く上に行きたーい」

 一階のビューティーフロアは、各種化粧品の他に香水を取り扱っている店もあるので、それら全ての匂いが混ざってとにかくキツイ。

 こまめに換気してくれてはいるんだろうが、慣れない人にはやっぱり辛いだろうな。

 俺は、嗅ぎ慣れていないさまざまな芳香に戸惑い、困り顔になっているミオの手を引き、少し速歩きでフロア中央のエレベーターを目指した。

 ミオのように可憐なショタっ娘なら、ナチュラルなメイクだけでも、その美貌が更に引き立つんだろうが、きっとこの子はやりたがらないだろう。

 現にこの子は、今すぐにでもこのフロアから離れたがっているし。

 やっぱり、全くのノーメイクでも充分かわいい子には、あえて手を加える必要なんかないよな。
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