54 / 848
11.二人の魚料理(2)
しおりを挟む
俺とミオは、豆アジのエラ、胸ビレと内臓をひたすら手作業で取り出し、そのまま三角コーナーにポイする。
そして空っぽになった腹の中を水で洗い流し、俺が包丁で頭を切り落とせば、下処理は完了だ。
念のために、ゼイゴがチクチクしないか触って確かめてみたが、さすがに小ぶりなだけあって、全くと言っていい程トゲトゲしさが無かった。
これなら、特に処理せずにそのまま漬け込んでも、問題なく食べられるだろう。
いざとなったらお酢の力で柔らかくすればいい。
下処理が終わったら、今度は大きめのタッパーを用意して、豆アジを漬け込むための南蛮酢を作る。
この南蛮酢のレシピは実に多種多様なのだが、家にある調味料は穀物酢と醤油と味醂、そして砂糖と塩。以上。
一応これだけでも南蛮酢は作れるそうなので、それぞれの調味料を大体の目分量でタッパーに流し込み、混ぜ合わせてみた。
どれ、ちょっと味見してみよう。
「んー……」
「どう? お兄ちゃん」
「少し酸っぱいような気がする」
「ね。ボクも舐めてみてもいい?」
「ああ、ぜひ頼むよ。ミオにもチェックして欲しいんだ」
俺はスプーンで南蛮酢をすくい、そっとミオの口に運んだ。
「……んちゅっ」
「どうかな。酸っぱくないかい?」
「うーん、ちょっとだけ酸っぱいかも」
「やっぱりかぁ。じゃあもう少し酢を薄めてみるか」
酸っぱかったり甘くしすぎたり塩辛くなったり、そうやって試行錯誤すること数回。
ようやく、二人が満足する味わいの南蛮酢が調合できた。
レシピによると、その南蛮酢の中に、まず玉ねぎや人参、ピーマンなどの野菜を薄く切って漬けておくらしい。
人参とピーマンは用意していなかったので、とりあえず、実家のお袋から大量に送られてきていた、玉ねぎだけを入れることにした。
主役である豆アジのスペースを圧迫しないよう、入れる玉ねぎは一個の半分だけにする。
「うあぁ、玉ねぎが目に染みるー!」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
玉ねぎを切ると涙がボロボロ出る人がいるとは聞いていたけど、まさか自分がそういう体質だったとは。
ミオは心配そうな顔をしているようだが、その顔さえ涙でにじんで見えやしない。
お袋も料理する時はこんなに苦労していたのかなぁ、そう思うと頭が下がるな。
俺はミオに涙を拭ってもらいながら玉ねぎをスライスし、南蛮酢に漬け込んだ。
次の工程は……なになに、アジに片栗粉をまぶして揚げるだって?
なんてこった、油で揚げる必要があるのか!
まいったなぁ。油はあるけど、家には片栗粉どころか小麦粉すら無いぞ。
さっきの野菜といい片栗粉といい、自分の準備不足を指摘されているようで狼狽してしまったが、ネットの世界は広大だ。
別のサイトで南蛮漬けのレシピをチェックしてみると、油だけで〝素揚げ〟をしてもOKだそうなので、そのやり方を実践した。
素揚げにて香ばしく揚がった豆アジは、骨やゼイゴも柔らかくなるのだという。あとは玉ねぎと一緒に南蛮酢に漬け、一時間ほど味を染み込ませれば、仕込みは完了だ。
材料の関係で作り方が途中で変わってしまったが、まぁ、おいしく食べられればそれでよしとしよう。
これこそが柚月家流、豆アジの南蛮漬けなのだ、という事にしておく。
そして空っぽになった腹の中を水で洗い流し、俺が包丁で頭を切り落とせば、下処理は完了だ。
念のために、ゼイゴがチクチクしないか触って確かめてみたが、さすがに小ぶりなだけあって、全くと言っていい程トゲトゲしさが無かった。
これなら、特に処理せずにそのまま漬け込んでも、問題なく食べられるだろう。
いざとなったらお酢の力で柔らかくすればいい。
下処理が終わったら、今度は大きめのタッパーを用意して、豆アジを漬け込むための南蛮酢を作る。
この南蛮酢のレシピは実に多種多様なのだが、家にある調味料は穀物酢と醤油と味醂、そして砂糖と塩。以上。
一応これだけでも南蛮酢は作れるそうなので、それぞれの調味料を大体の目分量でタッパーに流し込み、混ぜ合わせてみた。
どれ、ちょっと味見してみよう。
「んー……」
「どう? お兄ちゃん」
「少し酸っぱいような気がする」
「ね。ボクも舐めてみてもいい?」
「ああ、ぜひ頼むよ。ミオにもチェックして欲しいんだ」
俺はスプーンで南蛮酢をすくい、そっとミオの口に運んだ。
「……んちゅっ」
「どうかな。酸っぱくないかい?」
「うーん、ちょっとだけ酸っぱいかも」
「やっぱりかぁ。じゃあもう少し酢を薄めてみるか」
酸っぱかったり甘くしすぎたり塩辛くなったり、そうやって試行錯誤すること数回。
ようやく、二人が満足する味わいの南蛮酢が調合できた。
レシピによると、その南蛮酢の中に、まず玉ねぎや人参、ピーマンなどの野菜を薄く切って漬けておくらしい。
人参とピーマンは用意していなかったので、とりあえず、実家のお袋から大量に送られてきていた、玉ねぎだけを入れることにした。
主役である豆アジのスペースを圧迫しないよう、入れる玉ねぎは一個の半分だけにする。
「うあぁ、玉ねぎが目に染みるー!」
「お兄ちゃん、大丈夫?」
玉ねぎを切ると涙がボロボロ出る人がいるとは聞いていたけど、まさか自分がそういう体質だったとは。
ミオは心配そうな顔をしているようだが、その顔さえ涙でにじんで見えやしない。
お袋も料理する時はこんなに苦労していたのかなぁ、そう思うと頭が下がるな。
俺はミオに涙を拭ってもらいながら玉ねぎをスライスし、南蛮酢に漬け込んだ。
次の工程は……なになに、アジに片栗粉をまぶして揚げるだって?
なんてこった、油で揚げる必要があるのか!
まいったなぁ。油はあるけど、家には片栗粉どころか小麦粉すら無いぞ。
さっきの野菜といい片栗粉といい、自分の準備不足を指摘されているようで狼狽してしまったが、ネットの世界は広大だ。
別のサイトで南蛮漬けのレシピをチェックしてみると、油だけで〝素揚げ〟をしてもOKだそうなので、そのやり方を実践した。
素揚げにて香ばしく揚がった豆アジは、骨やゼイゴも柔らかくなるのだという。あとは玉ねぎと一緒に南蛮酢に漬け、一時間ほど味を染み込ませれば、仕込みは完了だ。
材料の関係で作り方が途中で変わってしまったが、まぁ、おいしく食べられればそれでよしとしよう。
これこそが柚月家流、豆アジの南蛮漬けなのだ、という事にしておく。
0
お気に入りに追加
96
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?


塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる