17 / 20
涙のプロポーズ
しおりを挟む
「ルクレール。貴様、どういうつもりだ!」
ドレイクの怒声に、ルクレールの背後に隠れていたノアの肩がビクリと震えた。
「大声出すんじゃねぇよ! しばかれてぇのか!?」
それに負けず劣らず、ルクレールが怒鳴り散らす。
だがすぐにノアへと穏やかな視線を送り「大丈夫よ」と彼にだけ聞こえる声で囁いた。
「ノアは私のオメガだ! 貴様もアルファならそれが誰のモノかわかるだろう!!」
常に不機嫌そうではあるが滅多に声を張り上げないドレイクだが、今回ばかりはそうはいかないのだろう。
それがわかるだけに、ルクレールはハッと息を吐き捨て、にやりと口元を吊り上げると腰に手を当てた。
「俺はてめぇらみたいなアルファが昔っから気に食わねぇんだよ。オメガを『モノ』『モノ』言いやがって。何様だ!? あぁ!?」
女言葉を使わないルクレールの声はドスが効いており、ディランとドレイクですら怯むくらいの迫力がある。
さらに言えば、ルクレールの方が彼らより長身であり、ふたりを見下ろすような視線も相まって、その勢いもひとしおだ。
「ノアとリラは自分の意思で俺について来たんだよ。その意味が、そのすっからかんな脳味噌じゃ理解できねぇか!?」
ははっ、と皮肉気に笑うと、ディランとドレイクはグッと口を噤んだ。
だがふたりも負けてはいない。
黙っていたディランが一歩前に出て、ルクレールの前で跪いた。
「ルクレール……。頼むよ……。リラに……会わせてくれ……」
涙ながらに訴えられようが、ルクレールの心は一切動かない。
番を失ったオメガを数多く見てきた。
だがその中には、こうして迎えに来るアルファがいなかったわけではない。
しかし迎えに来たからなんだというのだ。
適当に扱ってきたオメガたちがそれまでどんな思いをしてきたのか、本当に理解しているのか。
謝れば良いなんて思っているのではないか。
そんな浅はかな考えで、彼らの望みを叶えてやるつもりなど毛頭なかった。
「ノア! 何をしている! さっさとこっちに来い!」
ドレイクがノアに向かって言い放つ。
それを受け、ノアは明らかに顔面蒼白になり、苦しそうに眉根を寄せ今にも泣きそうな顔になっている。
「ノア。あんたはもう自分の意見をはっきり言える子になったでしょう。あのバカにあんたの気持ちを言ってやんなさい」
背中に縋りついてくるノアの手をポンポン、と叩けば、彼はキュッと唇を引き締め、こくりと頷き意を決した表情で一歩前に出た。
「僕はあなたの所には戻りません」
はっきりと、ノアはそう言い切った。
そして自分の腹に手を添える。
それだけで何を示しているのか、ドレイクは瞬時に気付き、ルクレールを睨みつけた。
「貴様……ッ!」
殴りかかろうとするドレイクだが、床に這いつくばっていたディランがそれを制止する。
「ドレイク、止めろ! 相手はルクレールだぞ!」
焦った声でドレイクを止めるのも当然だろう。
ルクレールの生家は現王国軍の総帥を務める侯爵家であり、幼少期から軍人となるべくして鍛え上げられたその腕っぷしは本物だ。
同じアルファと言えども、本気で殴り合いをすれば敗北するのがどちらかは火を見るより明らかである。
「それにディラン。番のいないお前がなんでここに居る」
ぎろり、とディランを睨みつければ、彼は戦力を喪失したドレイクを離し、床に両手を付いた。
「ちゃんと、許しは得てきた」
つまり、辺境伯の許しが出た、ということだ。
これにはルクレールも奥歯を噛みしめた。
「――あいつ……」
そんな話は聞いていない。
だが最近顔を合わせていなかったので、話すタイミングがなかったのだろう。それでも、人を使う方法はあったはずだ。
それをしなかったということは、敢えてルクレールには伝えなかった、ということなのだろう。
チッ、と口汚く舌打ちをしてから、ルクレールはノアの肩を抱き寄せた。
「あとはあんたの問題よ。あんたの口からちゃんと話さないと帰らないでしょうし。ひとりであのクソ野郎と話せる?」
耳元でそう尋ねると、ノアはこくりと頷いた。
「僕は大丈夫です。この仔たちもいますから」
そう言ってノアは足元でまだ唸っている犬たちへと視線を落とした。
犬たちは毛を逆立て、ルクレールとノアの周りを行ったり来たりしながら、ドレイクたちが近づこうとするのを阻止しているようだ。
「まぁそうね……。あんたたち。ノアになんかあったら、容赦なくあの男の手でも足でも噛み砕いてやんなさい」
ルクレールの言葉を理解しているのか、犬たちは一斉に「ワン!」と威勢よく吠えた。
ノアはルクレールの傍から離れると、しっかりとした足取りで項垂れていたドレイクの目の前まで歩み寄った。
「伯爵さま……」
そう声を掛けたその時、ドレイクはノアを抱き寄せ、無言でその腕の中に閉じ込めた。
犬たちがそれを見て牙を剥くが、ノアはそれを手で制し、ドレイクにされるがまま大人しくしている。
一度は諦めた相手でも、番契約を結んでしまったノアは、ドレイクを本心から拒めないのだろう。
二人の様子に嘆息を零したルクレールは、床に膝をついたままのディランへと視線を移した。
「――来いよ」
短くそう言い、ルクレールはリラの部屋へと入っていく。ディランは自ら立ち上がりその後を追った。
ディランの瞳に移った光景は、信じられないものだった。
寝台には毛布が掛けられ、僅かに盛り上がっている。そこに横たわる人物が誰なのか、視界からはわからない。だがそれがリラだと、ディランにはすぐに理解できた。
毛布からはみ出した銀色の長い髪。そして部屋にわずかに漂う甘いフェロモンの香りは間違いなくリラのモノだったからだ。
「リラ……?」
頭まですっぽりと毛布がかぶせられている。
つまり――。
「そんな……どうして……!」
ディランはその場に崩れ落ち、リラであろうその膨らみの上に覆いかぶさった。
「懺悔でも何でもしろ。リラがどれだけ苦しんだか、お前も味わえば良い」
ルクレールはそう言うと、肩を震わせ、顔を背け、部屋を出て行ってしまった。
二人きりにされ、ディランは震える唇で彼女の名を何度も繰り返した。
「リラ……。ごめん、リラ……。全部僕のせいだ……。僕がキミを愛してしまったから……。キミのことが何よりも大切だったんだ……。キミを傷つけないようにしていたのに、逆に傷つけてしまった……。僕が……、僕は……!!」
毛布を握りしめ、ディランはその上から彼女の身体に顔を埋めた。
「リラ……愛してる……。愛してるんだ……」
ここに来るまでの間、彼女に伝えたい想いがたくさんあったはずなのに、その言葉しか出てこなかった。
どんなに謝罪を積み重ねても、愛を囁いても、もうリラには届かない。
そのショックで気が狂いそうだった。
唯一無二の自分だけのオメガを失ってしまった。
その絶望感にディランは声を殺してむせび泣く。
どれくらいそうしていただろう。
僅かに毛布が捲りあがり、リラの左手が露わになった。
その手は骨と皮で、かつての柔らかさの欠片もない。
震える手で彼女の左手を握りしめたディランは、ローブのポケットから小さな小箱を取り出した。
パカッ、と乾いた音を立てて開いたその箱の中には、ふたつのリングが収まっている。
二つの内、細身で小さい方を手に取ると、ディランはリラの痩せ細ったその指の薬指にリングを滑り込ませた。
僅かにサイズが合っていないのは、彼女が痩せてしまったからだろう。
「キミの行方を捜している間に、ウエディングドレスも用意したんだ……。キミに許してもらえたら、プロポーズをするつもりで……」
でもキミは嫌だというんだろうね、とディランは乾いた笑みを浮かべた。
「――それでも、諦められないんだ……。ねぇ……リラ……? 僕も、キミの傍に逝ってもいいかな……?」
リラの細い手に自分のソレを添え、リングが嵌まった指に口づけを落としたディランは、緩慢な仕草で腰の短剣を引き抜いた。
「リラ……」
ディランが短剣を自分の首へと添える。そしてグッと力を込めた瞬間、ヒュンッと何かが飛んできたかと思えば、ディランの手から短剣が壁へと叩きつけられた。
「馬鹿なことしてんじゃねぇよ!」
外に出ていたルクレールがいつの間にかディランの背後に立ち、足で短剣を蹴り飛ばしたようだ。
「ルクレール。頼む。リラと同じ場所に逝きたいんだ……!」
「甘えたこと言ってんじゃねぇ!」
言い終わるか否か、ルクレールの拳がディランの頬を殴りつけた。
床に転がった青年を一瞥した後、ルクレールは大仰な溜息を吐いた。
「――だそうだけど、あんた、どうすんの?」
ルクレールが毛布を鷲掴みにし、勢いよくそれを剥いだ。
彼らの前に、リラの姿が露わになる。
彼女は大きな瞳を溢れそうな大粒の涙で潤ませ、顔を真っ赤にして息を殺して震えていた。
「とっくに起きてたんでしょ」
ふっ、と息で笑うルクレールの瞳にも、わずかに涙が浮かんでいる。
「っ……!」
こくこく、と頷くリラを目の当たりにし、ディランは床に尻餅をついたままの格好で固まってしまっている。
リラは僅かに顔を横に傾け、硬直するディランへ手を伸ばした。
「ご、しゅじ……さまぁ……」
擦れた声でそういつものように呼べば、ディランは弾かれたように起き上がりリラを抱きしめた。
抱き合う二人を蚊帳の外から眺めていたルクレールは、もう一度小さく笑うと「ポリッジでも温めてくるわ」と部屋を後にしたのだった。
ドレイクの怒声に、ルクレールの背後に隠れていたノアの肩がビクリと震えた。
「大声出すんじゃねぇよ! しばかれてぇのか!?」
それに負けず劣らず、ルクレールが怒鳴り散らす。
だがすぐにノアへと穏やかな視線を送り「大丈夫よ」と彼にだけ聞こえる声で囁いた。
「ノアは私のオメガだ! 貴様もアルファならそれが誰のモノかわかるだろう!!」
常に不機嫌そうではあるが滅多に声を張り上げないドレイクだが、今回ばかりはそうはいかないのだろう。
それがわかるだけに、ルクレールはハッと息を吐き捨て、にやりと口元を吊り上げると腰に手を当てた。
「俺はてめぇらみたいなアルファが昔っから気に食わねぇんだよ。オメガを『モノ』『モノ』言いやがって。何様だ!? あぁ!?」
女言葉を使わないルクレールの声はドスが効いており、ディランとドレイクですら怯むくらいの迫力がある。
さらに言えば、ルクレールの方が彼らより長身であり、ふたりを見下ろすような視線も相まって、その勢いもひとしおだ。
「ノアとリラは自分の意思で俺について来たんだよ。その意味が、そのすっからかんな脳味噌じゃ理解できねぇか!?」
ははっ、と皮肉気に笑うと、ディランとドレイクはグッと口を噤んだ。
だがふたりも負けてはいない。
黙っていたディランが一歩前に出て、ルクレールの前で跪いた。
「ルクレール……。頼むよ……。リラに……会わせてくれ……」
涙ながらに訴えられようが、ルクレールの心は一切動かない。
番を失ったオメガを数多く見てきた。
だがその中には、こうして迎えに来るアルファがいなかったわけではない。
しかし迎えに来たからなんだというのだ。
適当に扱ってきたオメガたちがそれまでどんな思いをしてきたのか、本当に理解しているのか。
謝れば良いなんて思っているのではないか。
そんな浅はかな考えで、彼らの望みを叶えてやるつもりなど毛頭なかった。
「ノア! 何をしている! さっさとこっちに来い!」
ドレイクがノアに向かって言い放つ。
それを受け、ノアは明らかに顔面蒼白になり、苦しそうに眉根を寄せ今にも泣きそうな顔になっている。
「ノア。あんたはもう自分の意見をはっきり言える子になったでしょう。あのバカにあんたの気持ちを言ってやんなさい」
背中に縋りついてくるノアの手をポンポン、と叩けば、彼はキュッと唇を引き締め、こくりと頷き意を決した表情で一歩前に出た。
「僕はあなたの所には戻りません」
はっきりと、ノアはそう言い切った。
そして自分の腹に手を添える。
それだけで何を示しているのか、ドレイクは瞬時に気付き、ルクレールを睨みつけた。
「貴様……ッ!」
殴りかかろうとするドレイクだが、床に這いつくばっていたディランがそれを制止する。
「ドレイク、止めろ! 相手はルクレールだぞ!」
焦った声でドレイクを止めるのも当然だろう。
ルクレールの生家は現王国軍の総帥を務める侯爵家であり、幼少期から軍人となるべくして鍛え上げられたその腕っぷしは本物だ。
同じアルファと言えども、本気で殴り合いをすれば敗北するのがどちらかは火を見るより明らかである。
「それにディラン。番のいないお前がなんでここに居る」
ぎろり、とディランを睨みつければ、彼は戦力を喪失したドレイクを離し、床に両手を付いた。
「ちゃんと、許しは得てきた」
つまり、辺境伯の許しが出た、ということだ。
これにはルクレールも奥歯を噛みしめた。
「――あいつ……」
そんな話は聞いていない。
だが最近顔を合わせていなかったので、話すタイミングがなかったのだろう。それでも、人を使う方法はあったはずだ。
それをしなかったということは、敢えてルクレールには伝えなかった、ということなのだろう。
チッ、と口汚く舌打ちをしてから、ルクレールはノアの肩を抱き寄せた。
「あとはあんたの問題よ。あんたの口からちゃんと話さないと帰らないでしょうし。ひとりであのクソ野郎と話せる?」
耳元でそう尋ねると、ノアはこくりと頷いた。
「僕は大丈夫です。この仔たちもいますから」
そう言ってノアは足元でまだ唸っている犬たちへと視線を落とした。
犬たちは毛を逆立て、ルクレールとノアの周りを行ったり来たりしながら、ドレイクたちが近づこうとするのを阻止しているようだ。
「まぁそうね……。あんたたち。ノアになんかあったら、容赦なくあの男の手でも足でも噛み砕いてやんなさい」
ルクレールの言葉を理解しているのか、犬たちは一斉に「ワン!」と威勢よく吠えた。
ノアはルクレールの傍から離れると、しっかりとした足取りで項垂れていたドレイクの目の前まで歩み寄った。
「伯爵さま……」
そう声を掛けたその時、ドレイクはノアを抱き寄せ、無言でその腕の中に閉じ込めた。
犬たちがそれを見て牙を剥くが、ノアはそれを手で制し、ドレイクにされるがまま大人しくしている。
一度は諦めた相手でも、番契約を結んでしまったノアは、ドレイクを本心から拒めないのだろう。
二人の様子に嘆息を零したルクレールは、床に膝をついたままのディランへと視線を移した。
「――来いよ」
短くそう言い、ルクレールはリラの部屋へと入っていく。ディランは自ら立ち上がりその後を追った。
ディランの瞳に移った光景は、信じられないものだった。
寝台には毛布が掛けられ、僅かに盛り上がっている。そこに横たわる人物が誰なのか、視界からはわからない。だがそれがリラだと、ディランにはすぐに理解できた。
毛布からはみ出した銀色の長い髪。そして部屋にわずかに漂う甘いフェロモンの香りは間違いなくリラのモノだったからだ。
「リラ……?」
頭まですっぽりと毛布がかぶせられている。
つまり――。
「そんな……どうして……!」
ディランはその場に崩れ落ち、リラであろうその膨らみの上に覆いかぶさった。
「懺悔でも何でもしろ。リラがどれだけ苦しんだか、お前も味わえば良い」
ルクレールはそう言うと、肩を震わせ、顔を背け、部屋を出て行ってしまった。
二人きりにされ、ディランは震える唇で彼女の名を何度も繰り返した。
「リラ……。ごめん、リラ……。全部僕のせいだ……。僕がキミを愛してしまったから……。キミのことが何よりも大切だったんだ……。キミを傷つけないようにしていたのに、逆に傷つけてしまった……。僕が……、僕は……!!」
毛布を握りしめ、ディランはその上から彼女の身体に顔を埋めた。
「リラ……愛してる……。愛してるんだ……」
ここに来るまでの間、彼女に伝えたい想いがたくさんあったはずなのに、その言葉しか出てこなかった。
どんなに謝罪を積み重ねても、愛を囁いても、もうリラには届かない。
そのショックで気が狂いそうだった。
唯一無二の自分だけのオメガを失ってしまった。
その絶望感にディランは声を殺してむせび泣く。
どれくらいそうしていただろう。
僅かに毛布が捲りあがり、リラの左手が露わになった。
その手は骨と皮で、かつての柔らかさの欠片もない。
震える手で彼女の左手を握りしめたディランは、ローブのポケットから小さな小箱を取り出した。
パカッ、と乾いた音を立てて開いたその箱の中には、ふたつのリングが収まっている。
二つの内、細身で小さい方を手に取ると、ディランはリラの痩せ細ったその指の薬指にリングを滑り込ませた。
僅かにサイズが合っていないのは、彼女が痩せてしまったからだろう。
「キミの行方を捜している間に、ウエディングドレスも用意したんだ……。キミに許してもらえたら、プロポーズをするつもりで……」
でもキミは嫌だというんだろうね、とディランは乾いた笑みを浮かべた。
「――それでも、諦められないんだ……。ねぇ……リラ……? 僕も、キミの傍に逝ってもいいかな……?」
リラの細い手に自分のソレを添え、リングが嵌まった指に口づけを落としたディランは、緩慢な仕草で腰の短剣を引き抜いた。
「リラ……」
ディランが短剣を自分の首へと添える。そしてグッと力を込めた瞬間、ヒュンッと何かが飛んできたかと思えば、ディランの手から短剣が壁へと叩きつけられた。
「馬鹿なことしてんじゃねぇよ!」
外に出ていたルクレールがいつの間にかディランの背後に立ち、足で短剣を蹴り飛ばしたようだ。
「ルクレール。頼む。リラと同じ場所に逝きたいんだ……!」
「甘えたこと言ってんじゃねぇ!」
言い終わるか否か、ルクレールの拳がディランの頬を殴りつけた。
床に転がった青年を一瞥した後、ルクレールは大仰な溜息を吐いた。
「――だそうだけど、あんた、どうすんの?」
ルクレールが毛布を鷲掴みにし、勢いよくそれを剥いだ。
彼らの前に、リラの姿が露わになる。
彼女は大きな瞳を溢れそうな大粒の涙で潤ませ、顔を真っ赤にして息を殺して震えていた。
「とっくに起きてたんでしょ」
ふっ、と息で笑うルクレールの瞳にも、わずかに涙が浮かんでいる。
「っ……!」
こくこく、と頷くリラを目の当たりにし、ディランは床に尻餅をついたままの格好で固まってしまっている。
リラは僅かに顔を横に傾け、硬直するディランへ手を伸ばした。
「ご、しゅじ……さまぁ……」
擦れた声でそういつものように呼べば、ディランは弾かれたように起き上がりリラを抱きしめた。
抱き合う二人を蚊帳の外から眺めていたルクレールは、もう一度小さく笑うと「ポリッジでも温めてくるわ」と部屋を後にしたのだった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
オオカミの旦那様、もう一度抱いていただけませんか
梅乃なごみ
恋愛
犬族(オオカミ)の第二王子・グレッグと結婚し3年。
猫族のメアリーは可愛い息子を出産した際に獣人から《ヒト》となった。
耳と尻尾以外がなくなって以来、夫はメアリーに触れず、結婚前と同様キス止まりに。
募った想いを胸にひとりでシていたメアリーの元に現れたのは、遠征中で帰ってくるはずのない夫で……!?
《婚前レスの王子に真実の姿をさらけ出す薬を飲ませたら――オオカミだったんですか?》の番外編です。
この話単体でも読めます。
ひたすららぶらぶいちゃいちゃえっちする話。9割えっちしてます。
全8話の完結投稿です。
【R18】雨乞い乙女は龍神に身を捧げて愛を得る
麦飯 太郎
恋愛
時は明治。
江戸の時代は終わりを迎えたが、おとめの住む田舎の村は特に変わりのない日々だった。
ある初夏の日、おとめの元に村長がやってきた。
「日照りを解消するために、龍神の棲む湖に身を投げ贄となって欲しい」
おとめは自身の身の上を考慮し、妥当な判断だと受け入れる。
そして、湖にその身を沈め、その奥底で美しい龍神に出逢った。
互いに惹かれるけれど、龍神と人間であることに想いを伝えられない二人。
その二人が少しずつ、心を通わせ、愛し合っていく物語。
R指定箇所はタイトルに*を付けています
1話の長さは長すぎる場合は2回に分けています。また、話の区切りによっては短い場合もあります。ご了承下さい( •ᴗ• )
執筆は完了しているので、チェック次第少しずつ更新予約していきます( ¨̮ )
被虐の王と不義の姫君
佐倉 紫
恋愛
かつて王国の至宝と言われていた王女アルメリア。 彼女は叔父と関係した罪により『不義の姫君』と貶められ、宮廷を去り、 修道院で祈りの日々を送っていた。そんなある日、父王から縁談が決まったと呼び出しを受ける。 相手は隣国の若き国王。比類なき才覚の持ち主ながら、多くの妃を蔑ろにしてきたと言われる 恐ろしい人物だった……。 ■R描写の話には☆または★マークが付きます。☆は前戯など、★は本番描写につきます。序盤にヒーロー意外とのR描写がありますのでご注意ください。 ■自サイト閉鎖に伴い連載していた作品を上げ直した形です。更新はずいぶん止まっておりますので次話がいつ頃かは目処がついておりません。あらかじめご了承ください。
君がいれば、楽園
C音
恋愛
大学時代、クリスマスイブに一度だけ言葉を交わした夏加 春陽と冬麻 秋晴。忘れられない印象を抱いたものの、彼は大学卒業と同時に地元を離れ、縁はあっけなく途切れてしまった。
それから三年後。偶然冬麻と再会した夏加は、彼と付き合うことに。
傍にいられるなら幸せだと思っていた。冬麻が別の人を好きになったと知るまでは……。
『どうすれば、幸せになれますか?』
その答えを知っている人は、誰?
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
寡黙な彼は欲望を我慢している
山吹花月
恋愛
近頃態度がそっけない彼。
夜の触れ合いも淡白になった。
彼の態度の変化に浮気を疑うが、原因は真逆だったことを打ち明けられる。
「お前が可愛すぎて、抑えられないんだ」
すれ違い破局危機からの仲直りいちゃ甘らぶえっち。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
【R18】あなたに愛は誓えない
みちょこ
恋愛
元軍人の娘であるクリスタは、幼い頃からテオという青年を一途に想い続けていた。
しかし、招かれた古城の夜会で、クリスタはテオが別の女性と密会している現場を目撃してしまう。
嘆き悲しむクリスタを前に、彼女の父親は部下であるテオとクリスタの結婚を半ば強制的に決めてしまい──
※15話前後で完結予定です。
→全19話で確定しそうです。
※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる