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考えてから行動しよう(教訓)

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 シャーロットは予想通り、謹慎塔に連れ込まれ、以前まで使っていた最上階の部屋の寝台に座らされ、その真正面から彼に見降ろされる形で問い詰められていた。
 魔法封じの解術をレオンに施されたシャーロットは問題なく動けるようになったのだが、今は違う意味で動けなくなっている。
「マリアンヌ嬢を助けようとして、ひとりであの倉庫まで行かれたと。そういうことですか」
「――……はい」
「私に一言も声を掛けなかった理由としては、説得力に欠けますね」
「…………」
 レオンに真実を伝えるためにはシャーロットが事前にこのことを予知していたことを知らせなければ説明ができない。だが、それは無理な話というものだ。
 この世界は前世の大好きな小説の中でこうなることを知っていました、といえば、それこそ頭がどうかしてしまったのだと思われてしまう。
 そのためシャーロットは女子トイレの窓から偶然マリアンヌがあの倉庫に連れ込まれるところを見かけ、後先考えずに助けに行った、といった趣旨の説明をしていた。
 だがやはり、彼を納得させる理由にはならず、腕組みをして見降ろしてくるその紫色の双眸に耐え切れず、俯いていた。
「――アランの様子は部下たちに動向を追わせていました。私に一声かけてくだされば、あなたに危険が及ぶことは有り得なかったのですよ」
「そう、なのですね……」
 マリアンヌの護衛の任を怠っていたアランを、レオンはあの日から気にしていたのだという。
 常にシャーロットの傍にいてくれた彼がいつの間にそんなことをしていたのか、それを知る術はない。だがこの世界にはシャーロットが知らない魔法も多いようだ。恐らく何かしら手段があるのだろう。
「あなたは学生だ。いくら魔法が上達しても、我ら騎士には遠く及ばない。ご自分の力を過信して、危険なことに首を突っ込まないでください」
 今日のレオンはかなり辛辣だ。
 ちょっと魔法が上達したからと調子に乗り、レオンを遠ざけて自ら火の海に飛び込んだのだから、叱られるのは仕方がない。むしろこうして叱られるということは、それだけシャーロットを心配したということとイコールでもある。
 シャーロットは身体を小さくして、しょんぼりと彼の怒りを一身に受け止めていた。
「――……あなたが急に攻撃魔法を教えてほしいと言ったときに、私も気づくべきでした。ですがもう金輪際、こんなことはもうやめてください。私の妻になるのに、こんな危険を犯す必要はないんです」
 すっ、とレオンはその場に片膝を付き、俯くシャーロットの頬に手を添えた。それに促されるように顔を上げると、苦し気なレオンの瞳があり、胸が締め付けられる。
「ごめん、なさい……。私……」
 ポロッ、と彼女の瞳から大粒の涙がこぼれた。
 それを彼は目元を緩めて指の腹で拭ってくれる。
「ロティー。私は――マリアンヌ嬢よりも、あなたの方が大切だ。だからあなたも、ご自分のことを大切にしてください。あなたに何かあれば私は……」
 そっと、抱きしめられる。
 その肩口に顔を押し付けると、もう涙は止まらなかった。
 ギュッとその大きな背中に抱き着くと、静かに寝台へと押し倒される。
「無事で……良かった」
 耳元に落とされた彼の声がじわりと胸の奥に染み渡っていく。
「あいつにされたこと、全部教えてください。今から、上塗りをします」
「あ……」
 安心したのもつかの間、やはり彼からはお仕置きを受けさせられるようだ。するりと制服を脱がされ、シャーロットは甘い期待に身体を震わせた。
 だがこの後、彼女は今日自分したことを後悔することになる。



(レオン様……すごかった……)
 謹慎塔で、それはもう長いこと攻められた。思い出すもの恥ずかしいくらいの言葉攻めを受け、苦しくなるくらいの快楽を与えられたシャーロットは、最後には全身ドロドロで、擦られ過ぎて真っ赤に腫れ上がった蜜壺はいっそ痛いくらいだ。
 寮の部屋に連れてこられてからも、レオンは人払いをしてシャーロットに熱棒をしゃぶるよう要求してきた。初めて彼のモノを口に含み、拙い愛撫をしながら何度も彼の放った子種を呑み込まされ、蜜壺の中に傷薬を塗りこまれ、そしてまた身体を重ねた。
 もう日は変わって、朝になろうとしている。
 昨日のこともあったので、今日は学園を休もうと思っていたが、仮に行こうとしても無理だっただろう。
(全身……痛いし、動きたくない……)
 筋肉痛にも似た痛みと激しい倦怠感。これでは授業に出たところでノートすら取れないだろう。
 シャーロットは柔らかいお気に入りに枕に顔を埋めながら、部屋の外に出て行ってしまったレオンの帰りを待っている。
(アランの後処理をするって言ってたけど、どうするつもりなんだろう……)
 昨日のレオンは、アランの頭を握りつぶしそうな勢いだった。
 原作でアランは騎士の任を解かれて国外追放になっていたような気がするが、なんとなく、今回はそれでは済まないような気がする。
(いや……、いくらなんでもそれは……、でもなぁ……)
 レオンがシャーロットを贔屓にしているから、というわけではなく、彼女自身の身分が問題だった。
 アランは子爵家の出らしく、貴族のルールに乗っ取れば格下のマリアンヌを襲うことについては罪に問うのは難しい。原作では貴族ではなく護衛騎士としての人格を問われて国を追放されたが、今回は訳が違う。
 シャーロットは腐っても侯爵家の令嬢であり、現状はまだコンラッドの正式な婚約者である。そのシャーロットを、ほぼ交通事故のようなものではあったが襲ったのだ。
 未遂とはいえ、この世界の貴族のルールでこれは許されない。
(最悪の場合は斬首刑……)
 それを思うと、やはり自分が出て行ったのは間違いだったと、改めて反省した。
 シャーロットが変に介入しなければ、アランの罪もまだ軽く収まったのだ。だがシャーロットに言わせれば、まさか自分を性的な意味で襲う者がいるとは、夢にも思わなかったのである。
 一度経験はあるものの、あれはコンラッドの趣味の悪い遊びのようなものだ。
 現状この世界のシャーロットは、悪役令嬢であり嫌われ者のはずである。そんな自分をどうにかしようと思う男がいるなど、どうして思えるだろうか。
 けれどだからと言って「私、悪くないもん」などという子供じみたことを言うつもりはない。
(今回のことは、肝に銘じておかないと……。今はまだ、侯爵家の人間なんだし……)
 今後も貴族として生きるのであれば、自分の行動ひとつで他の誰かの命を奪う結果になるということを、教訓にしなければならない。
(それにしても、レオン様……遅いなぁ……)
 痛む身体を叱咤して起き上がろうとすると、昨日から何度も注ぎ込まれたモノが、足の間を伝って溢れ出した。
「あっ……!」
 慌てて近くにあった適当な布で押さえたが、身体を起こしたせいで留まっていたものが流れてしまったのだろう。
(レオン様の子種が……!)
 いっそのこと、備え付けられている湯殿で身体を洗い流してしまうべきなのだろうが、彼から貰ったものを掻き出すのは勿体ない気がしてしまう。
(そういえばレオン様、かなりの絶倫だよなぁ……)
 ストイックそうな顔をしているので、こういうことにはそれほど興味がなさそうに見えたが、やはり彼も、このティーンズラブの世界の住人なのだろう。
(この調子なら、もうすぐ赤ちゃんもできちゃいそう……)
 そっとお腹に手を添えてそこを撫でていると、小さいノックの後にレオンが入ってきた。
「れっ、レオン様!?」
 彼の顔を見た瞬間、シャーロットは青ざめた。
 彼の顔に血が付いていたからだ。
「どうかなさいましたか?」
 だが肝心な本人はケロリとしている。
「そ、それ! 顔に、血が……!」
「あぁ……。申し訳ありません。全部拭ったと思ったのですが……」
 そう言って顔を拭う手は、心なしか赤くなっているように見える。そう、それは何かを殴ったような――……。
(アラン……生きてるかなぁ……)
 優しい笑みを向けてくるレオンにはさすがにアランの生存確認はできず、シャーロットはまず自分の身に何かあれば加害者の方がとんでもない目に遭うため、そういう意味で行動する前に考えなければいけない、ということを改めて心に刻んだのだった。
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