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第三章
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しおりを挟む「──おらおらおら! 出てこいや悪趣味野郎! 早くしねえとテメェの大事な拠点が更地になるぜ! ケケケケケ!」
そう叫ぶアドレンはとても楽しそうに見えたと、後に弱き少年は語る……。
なんの前触れもなく、得意の物質攻撃で首都を破壊し始めたアドレン。彼が言うには、隠れた敵を炙り出すにはこれが一番手っ取り早い、らしい。
目標はなく、ただ適当に破壊行動を行っているだけの彼に、ジルが遠い目を、オルラッドが無言で歯噛みする。
言いたいことは多々あるがしかし、共にいながらあっさりと二人を奪われてしまった彼らには、アドレンの行いに口を出すこと、それすらも許されない。個人の心情的に。
「くっ、すまない、ジル! 俺がもっとしっかりしていればこんなことにはっ!」
目の前の悪しき光景を見たくないと言うように、瞳を閉じ、軽く顔を伏せたオルラッド。力の限り己の拳を握る彼に、ジルは遠い目をしたまま声をかける。
「あー、いや、うん……俺も注意散漫してたしさ、気にすんなよ……」
要はお互い様である。
これからは気をつけようと、密かに心に誓った彼らに、アドレンは何をしていると言いたげな顔で振り返った。
「お前さんらもとっととやれよ。小僧はともかく、赤毛はこういうの得意だろ」
「俺に無意味なる破壊行動を行う趣味はない」
断言するオルラッドにしかし、アドレンはにやりと笑うだけ。
「誰の不注意だっけな……?」
全員の不注意だと思います。
悪い顔のアドレンに内心ツッコミ、何も返せないと拳を握るオルラッドに哀れみの視線を向ける。にーに、完全にオルラッドの扱い方わかってやがる……。
「大体、この小僧について行くと決めた時点でお前に拒否権はねーぞ。なんたってそいつは、悪の頂点目指すらしいからなあ?」
「ぐっ!」
にーに、やめたげて!これ以上オルラッドの正義心を傷つけないであげて!
返す言葉がないと、何かを堪えるように肩を震わせるオルラッド。そんな彼を煽るように、アドレンは「ほれほれどーしたよー」と楽しげに声をかけている。
「破壊行動もできずに悪を名乗ろうなんざ、百年はえーぜ正義野郎。ケケケケケッ」
「っ……舐めるな! 一度決めた道だ、そんなことくらい容易いに決まっている!」
剣を引き抜き、オルラッドは前方へ。そのまま武器を構える彼の周りには、輝く魔法陣が幾つも展開される。
「やるなら全力だ! 手加減はしない!」
いや、してあげて。
そんな心の声が届くはずもなく、オルラッドは勢いよく剣を振るった。それと共に巻き起こった強風は、ハリケーンの如き破壊力で街の一部を飲み込み、崩壊させる。
あの区画に住んでらっしゃった方、ごめんなさい。
ジルはそっと合掌した。
「……なあ、小僧」
アドレンに呼ばれ、ジルは隣まで下がってきていた彼の顔を見上げる。
「……俺、なんであいつに挑んだんだっけ?」
「……若かったのよ」
さすがに言葉が浮かばず、そんなふざけた答えしか返してやれなかった。無念。
合わせていた手を離し、ジルは沈黙したままのオルラッドへと近づいた。精神的にやられたかと心配してその名を呼べば、彼は無言で振り返り、瞬きを一つ。
「なんだかスッキリした気分だ」
「おおおい! 目覚めちゃったよこの人!!」
叫ぶジルから、アドレンは静かに顔を逸らした。
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