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第八話 攻略できるか否か
しおりを挟む吐く、という行為を行ったのは、いつぶりだろうか。
幼い頃は鍛えるために師から良いように痛め付けられ何度も吐いたが、成長した今ではそれもない。というかあの時は度々主様が止めに入ってくださった。師は加減を知らぬ者だからよく叱られているのを目にしたな……。
イーズは口元を拭いながら、懐かしい記憶に息を吐く。師のことは大が付くほど嫌いだが、それでも自分が強くなったのは師のお陰。感謝しているのはしている。死ぬほど嫌いだが。
考えながらお手洗いから廊下に出ると、丁度目の前にあった窓に自分の姿が写し出された。嘔吐したせいか若干白くなった顔を見て、思わず息が溢れ出る。
早く箱庭に戻らないと──。
ポツポツと降りだした雨を確認し、青年はくるりと踵を返した。
◇◇◇◇◇◇
ガラクタ魔女、メーラの使用する『シャルド』と呼ばれる空間転移魔法──所謂テレポートを使用し、箱庭に戻ったイーズ。出迎えてくれたドクターに一礼して奥へ進むと、なにやら話をしているリオルとリレイヌの姿を視界に捉えた。彼女らの中には、先ほどまではいなかった、一度か二度、組織に赴いた時に目にしたことがある、一人の女性の姿が見受けられる。
「……主様」
「ああ、イーズ。おかえり」
なんてことはない様子で迎えてくれた主に一礼し、視線を女性へ。「こんにちは」と柔らかに微笑んだ彼女に、再び彼は一礼する。
優しい桃色が目に優しい色合いの女性だった。切り揃えられた桃色の短髪。なぜかそこだけが長い片方の横髪を、筒状の髪止めで纏めた彼女。初めて真っ直ぐに見たその瞳は、暗い紫と明るい桃色のグラデーションが美しい紅藤色だ。
纏う衣服までもが桃色で統一された彼女は、確か神の位置に座す者だったと思う。桃色の筆で不可思議な模様が描かれた細い布──領巾(ひれ)と呼ばれる布を、天女の如く腕に纏わせているのが特徴的だ。
「確かイーズくん、でしたよね? 初対面ではない気がしますが、名乗ったことはないので改めまして。私はソルディナ。神の称号を得た管理者です」
ぴくり、とイーズの肩が震えた。
今、聞き間違いでなければ、彼女は自らを管理者と名乗った。まさか、こんな身近にその称号を得た者がいようとは……。
「ソルディナはここの守人(もりびと)の一人でな。試練が行われている間は常にここに居てくれる。管理者の先輩として、聞きたいことがあるなら聞いておくのも、ダンジョン攻略の近道かもしれねえぞ」
からりと笑ったリオルを一瞥し、イーズは視線を再びソルディナへ。「あの……」と、恐れる子供のように声を発す。
「鉱山の中にいた『アレ』はなんなんですか? 殺される直前、変化していたように見えましたが……」
『アレ』?、と首をかしげ、ああ、とソルディナは頷いた。
「『アレ』はですね、一種のトラウマです。鉱山に入ってきたその者の過去を読み取り、その者が最も恐れる姿に変化するのです。一説によると、鉱山の中にたくさんある鉱石にかつての龍神たちの力が込められており、それらが発動することによりあれらは生み出されるのだとか……」
「……幻影、なんですか?」
「ええ、幻影です。実物ではありません」
やんわり微笑むソルディナに、そうですか、と一言。イーズは鉱山の入り口に目を向け、口を閉ざす。
「……攻略できそうですか?」
問われる言葉。
「……わかりません」
イーズは素直に答え、再び鉱山の中へと踏み込んだ。
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