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第三話 管理者の素質
しおりを挟む彼女は誰かを自分に重ねている。
それは常々感じていることだった……。
「よぉーすっ! リレイヌ久しぶり! 元気してたかー!?」
明るい声を張り上げ、一人の男が黒塗りの豪華な馬車からおりてきた。色素の薄い栗色の長髪と紫紺の瞳を持つ背の高い男だ。癖のある、うねった長い髪を高い位置で結び、遊ばせるその男は出迎えたリレイヌを思い切り抱き締めると、すぐに解放。付き添うイーズに片手を上げる。
「よ、坊主。お前も久しぶりだな。どうだ? 従者の仕事には慣れたか?」
「お陰さまで」
「ははっ! そうかそうか! それは良かった!」
気さくに笑い、己よりも小柄なイーズの背を叩く。そうしてリオルは満足すると、「さて」と一言。両の手を叩き合わせる。
「立ち話もなんだ、屋敷の中に入ろうか。お前もあんま陽の光浴びたら干からびちまうしな!」
「バカを言うな。誰が干からびるか」
「冗談! さ、行こうぜ」
にかっと、太陽のような笑みを浮かべ、リオルは二人の肩を無理矢理に組み、我先にと歩き出す。そうすることにより自然と歩を進めることとなった二人は、この元気な男にどこか呆れた様子を浮かべながら足を動かした。
◇◇◇◇◇
リオルと三人。やって来たのは応接間であった。
客を出迎える時専用の部屋と言ってもよいそこには、気分転換用か娯楽用の卓上ゲームやら本、雑誌がところどころに置かれている。
メイドが運んできてくれた紅茶セットと茶菓子を前、慣れた手つきで茶を汲むリレイヌを眺めながら、イーズは二人の話が始まるのを彼女の背後で待ちかねた。
後ろ手で腕を組み合わせ微動だにしないイーズをちらりと見て、紅茶を受け取ったリオルはにやりと小さく口端をあげる。
「おいおい、随分と飼い慣らしてるじゃねえか。子供の頃は言葉一つ発さない内気なガキだったのに……こりゃ育ての腕がいいのかねぇ」
「心にも思ってないことを……。それより話とはなんだ? 用事があるからと、わざわざここまで来たんだろう?」
リレイヌの言葉に頷くと、リオルは紅茶を飲んで一拍。手にしたティーカップを目の前の机の上へと置き、待っていたとばかりに笑みを濃ゆくする。
「今日ここに来たのは他でもない。お前に三人目の“管理者”を作ってほしいと思ってな」
ピクリとリレイヌが眉を震わせた。不愉快そうに細められた瞳が、敵を見るような色を宿している。
「なに、悪くない話だぞ。管理者ってのは龍神を支える役目もあるからな。お前にとってはプラスになる存在のはずだ。現にソルディナとバドランは役に立ってるだろ?」
「二人とはあまり接していないからわからんな」
「またまたぁ」
進む話に、イーズは内心首をかしげた。
管理者とはなんだろうか。響き的にとても重要そうな役割を持ちそうだが、詳細がわからなければなんとも言えない。
悶々と考える彼に、リオルは「お、興味あるか?」と笑顔に。
リレイヌが不満そうに表情を歪めるのを横、彼は説明を口にする。
曰く、管理者とは、龍神の力を分け与えた者のことを言うそうだ。各龍神に四人だけ定めることのできるそれは、試練と呼ばれる“なにか”をクリアした者にのみ得ることの出来る称号だという。
管理者は龍神の力を得ることで不老不死となり、強靭な肉体と凄まじい魔力を獲得する。精霊と契約することにより使用できる魔導と呼ばれる力も、必然的に増すそうだ。
「管理者……」
もしや、その称号を得れば、彼女が自分を見てくれるのではないか。
イーズは考え、「それはどんな者でもなれるものなのでしょうか」とリオルに問う。
「管理者には素質がある。素質を持つ者かどうかは同じ管理者と龍神にしかわからない」
「つまり誰でもなれるわけではない、と」
「そういうことだな」
深く頷いたリオルに、イーズはまた考えた。
そんな彼の思考を先読みしたかのように、リレイヌが「やめておけ」と一言。
「管理者の試練には『死』が付きまとう。現管理者であるソルディナとバドランも血反吐を吐いてやっと合格できた試験だ。君では無理だよ」
「その言い種ならば、僕に素質があると受け取ってもよろしいですか?」
「……」
無言は肯定だ。
イーズは小さく頷き、リオルへと顔を向ける。
「管理者の試練、受けさせてください」
その言葉を待っていたと言いたげに軽やかに手を叩き、リオルは立ち上がってイーズの傍へ。馴れ馴れしく肩を組み合わせ、「がんばれよ」と激励を送った。
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