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第四章 悪意は忍び寄る
64.ひとりの逃走者
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「ったく! ウィリアムの奴、失敗するなんて有り得ないわ全く!」
吐き捨て、路地裏を駆けるのはリックの兄者。背後に追っ手がいないかを確認しながらひたすら前を行く彼は、どうも余裕がなさそうだ。必死に走り、前に前にと進んでいる。
そんな兄者は、ふと、ある一点で足を止めた。
まるでそうしなければならないというようにその動きを止めた兄者の視線の先には、何者かの姿が存在している。
路地裏の先に、誰かいた。
よく目を凝らした彼の視界の中、黒紫の髪を持つ少年が壁に寄りかかりながらそこにいた。見覚えのある少年だ。兄者は舌打ちしそうになるのをなんとか抑え、平常心を装い口を開く。
「奇遇ね坊や。アナタ、確か家に来てた子のひとりよね? こんな所で何してるかなんて聞きたくないけど、子供が夜にひとり歩きするのはよくないと思うわよぉ?」
「……リレイヌ傷つけたのはお前?」
「は?」
「お前だよな、どう考えても」
寄りかかっていた壁から背を離し、兄者と向き合う少年。紫の瞳が獣の如く爛々と光り、それについ、兄者は片足を引く。
純粋に向けられる殺意が、恐ろしい。
「アイツを傷つける奴は許さない。大人でも子供でも、絶対に」
「ちょ、ちょっと待ってよ。傷つけたのがなんで私だと断言するわけ? わ、わからないじゃない! だって私は──!」
「リックに酷いことしたお前なら、誰にだって、なんでもやるだろ」
「ッ、このっ!!」
グオンッと揺れた空気。兄者が手をかざすと同時、見えぬ何かが睦月へと襲い行く。
それを避けた睦月は、そのまま狼の姿に変化。素早く駆け、兄者の首に噛みつかんと牙を剥く。
「チッ!!」
大きく舌を打ち鳴らし、兄者はすんでのところで睦月の牙を避けた。かと思えば、魔法を使って跳躍。近場の屋根に上ると、「じゃあねぇ?」と笑いそのまま姿を消していく。
「……クソ野郎が」
吐き捨てた睦月がヒトの姿へ。戻ってから、彼は処刑台を一瞥。一連の流れが行われたそこを目にし、そっと、鼻から息を吐き出した。
吐き捨て、路地裏を駆けるのはリックの兄者。背後に追っ手がいないかを確認しながらひたすら前を行く彼は、どうも余裕がなさそうだ。必死に走り、前に前にと進んでいる。
そんな兄者は、ふと、ある一点で足を止めた。
まるでそうしなければならないというようにその動きを止めた兄者の視線の先には、何者かの姿が存在している。
路地裏の先に、誰かいた。
よく目を凝らした彼の視界の中、黒紫の髪を持つ少年が壁に寄りかかりながらそこにいた。見覚えのある少年だ。兄者は舌打ちしそうになるのをなんとか抑え、平常心を装い口を開く。
「奇遇ね坊や。アナタ、確か家に来てた子のひとりよね? こんな所で何してるかなんて聞きたくないけど、子供が夜にひとり歩きするのはよくないと思うわよぉ?」
「……リレイヌ傷つけたのはお前?」
「は?」
「お前だよな、どう考えても」
寄りかかっていた壁から背を離し、兄者と向き合う少年。紫の瞳が獣の如く爛々と光り、それについ、兄者は片足を引く。
純粋に向けられる殺意が、恐ろしい。
「アイツを傷つける奴は許さない。大人でも子供でも、絶対に」
「ちょ、ちょっと待ってよ。傷つけたのがなんで私だと断言するわけ? わ、わからないじゃない! だって私は──!」
「リックに酷いことしたお前なら、誰にだって、なんでもやるだろ」
「ッ、このっ!!」
グオンッと揺れた空気。兄者が手をかざすと同時、見えぬ何かが睦月へと襲い行く。
それを避けた睦月は、そのまま狼の姿に変化。素早く駆け、兄者の首に噛みつかんと牙を剥く。
「チッ!!」
大きく舌を打ち鳴らし、兄者はすんでのところで睦月の牙を避けた。かと思えば、魔法を使って跳躍。近場の屋根に上ると、「じゃあねぇ?」と笑いそのまま姿を消していく。
「……クソ野郎が」
吐き捨てた睦月がヒトの姿へ。戻ってから、彼は処刑台を一瞥。一連の流れが行われたそこを目にし、そっと、鼻から息を吐き出した。
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