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第四章 悪意は忍び寄る
51.行方不明の現当主
しおりを挟むザック ザック。
何かを掘る音がする。
「……なにがリピトだ……なにがシェレイザだ……」
怨みがましく呟く誰かが、ひたすらに土を掘り続ける音がする。
「許さない……許すものか……ここまで我々をコケにしたアイツらを……」
カラン、と音がし、土を掘っていた道具が放られた。
穴が空いた地面を覗き込む何者かが、ケラリと笑い、目元を歪める。
「あの禁忌を──許すものか」
ケラリ ケラリ。
笑う、わらう。
狂ったように笑い続けるソレの視線の先、穴の中へと放り込まれた黒い箱が、ガタガタと、大きな音をたてていた……。
◇◇◇
「ええ!? 坊ちゃん、こっちにも来てないんですか!?」
とある日のシェレイザ家。
やって来たリピト家の使用人──馬車の操手に対し、その次期当主であるリオル・シェレイザはゆるりと首を横に振ってみせた。その隣、彼の護衛である睦月が「なんかあったのか?」と問いを投げかけ、操手はそれに難しい顔で頭を搔く。
「いやぁ、なんかあったっていうか、なんていうか……坊ちゃんってほら、ああいう性格だから誤解されがちなんすけど、結構な努力家なんすよね……あの日も確か魔導の練習をした後で、なかなか習得できないそれに苛立ってた節はあって……」
「……腹を立てて家を出ていった、と?」
「いえ、部屋に籠ってさらなる努力を積もうとしてました」
「へー」、とリオルと睦月の声が揃い、すぐに互いを見て「見えないな」と一言。操手はそれに苦笑を浮かべつつ、「んで、そっから消息が掴めないんすよ……」と嘆くように肩を落とす。
「え? 部屋にこもってから消息が掴めないんですか?」
「そうなんす……坊ちゃんが部屋に入ったのが昼時で、夕方にメイドが食事の知らせに行った時には、既にそこはもぬけの殻で……」
「へぇ……ちなみにそれ、いつの話なんです?」
「三日前っす」
「「三日前ェ!?」」
ギョッと驚く両者を前、操手は「どこ行ったんだろ坊ちゃん……」とえぐえぐ嘆く。「もしかするとなにか事件に巻き込まれてたり!?」と青ざめ頭を抱え出す彼を無視して、リオルは睦月に目を向ける。
「睦月はどう思う?」
「あ? んなの、嫌になって逃げたとかそんなんじゃねーの?」
「坊ちゃんはそんな人じゃないんですけど!?」
「わかんねえじゃん、そんなの」
んべ、と舌を出す睦月に怒る操手。そんなふたりを「まあまあ……」と落ち着かせながら、リオルは悩むように口元に手を添える。
「しかし、あのリックがねぇ……」
確かに、逃げるようなマネはしないだろうなと、ひとりそっと頷いた。
「……まあ、リックの件はこちらでも調べてみます。もしかすると、何かわかるかもしれないし……」
「ほんとですか!?」
「はい。リピト家とはこれからも、友好な関係を築いていきたいですしね」
にこり。
笑んだリオルに、操手は「助かります!」と頭を下げる。そんな操手に「いえいえ」と微笑むリオルは、ひとり。何事もなければいいけど……、とそっと視線を横に逸らすのだった。
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