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第三章 強さを求めて
50.早い習得
しおりを挟む息を吸い込み目を閉じて、そうして開いた視界の中、強い風が吹き荒れた。巨大なそれが水面を揺らすのを尻目、彼女は手を伸ばし、その風を支配せんと『力』を使う。
主たる精霊の力は、湧き上がるように、彼女の内から外界──その前方へと放出された。
「うっひゃぁ、習得はやっ」
緑の少女──シルフはそう言い、「引くわぁ」と一言。その隣、雷を纏う老人──ヴォルトがにこやかに「捗りますなぁ」を口にする。
「たった一ヶ月で全主精霊の力を物にするとは……なかなかやるな! さすがは我らが主だ!」
「ええ本当に」
炎を纏う大柄な男──イフリートが豪快に笑い、眩い光の女性──ルナが朗らかに頷く。
シルフはそんなふたりの精霊に冷めた目を送ってから、「けどさぁ」と一言。うじうじと隅の方で座り込む闇色の男性──シャドウを一瞥してから、目線を遠くにいるリレイヌへと向けた。
「なぁんか、あの子焦ってる感じしない? なんていうか、こう……すっごい生き急いでる、みたいな……」
「セラフィーユ様は我々との契約の前にかなりの目にあったと伺いましたので、それが原因ではないでしょうか……ほら、契約時、あの方は守りたいと仰っていましたし……」
「かなりの目、ねぇ……」
何かを考えるシルフは、凍てついた雰囲気の女性──セルシウスの言葉を頭の中で噛み砕くと、首を横に振ってため息をひとつ。
「……ウンディーネはどう思う?」
問われたそれに、水のような彼女は小さく反応。すぐにシルフから目を逸らし、前方のリレイヌへと目を向ける。
「……まあ、守りたいものがあるのは、いいことなんじゃないかしら。どのような形であれ、『生きたい』って気持ちに繋がると思うし……」
「そんなもん?」
「そんなもんよ」
どこか納得のいっていないシルフ。隣で「捗りますなぁ」と笑っているヴォルトを一瞥した彼女は、不満顔で腕を組む。
「てか、それはそうと他の子達はどうなってんの?」
「他の子達?」
「リピト家のあの子とシェレイザ家の使用人よ。子供だからってことで、ウンディーネとイフリートが各自契約したんでしょ?」
「うむ!」
頷くイフリートが、にこやかに告げる。
「シェレイザの方だが、正直まだ魔導習得には至っていない!」
「リピトの方も同じくってとこかしら」
「まあ、魔導は本来精霊の力を扱う特殊な術ですからね。習得には早くても三ヶ月程はかかるかと……」
「セラフィーユ様が異常ってことがよくわかるわね……」
これだけのスピードで力を得て、彼女は何をしたいのか……。
考えても分からぬ精霊たちは、ただ眺めることしか出来ない。幼子たちに降りかかる運命。その道筋を──。
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